第3話 ソウル3日目(水曜日)

トラベル小説


 朝7時に、ホテルを出て市庁舎近くまで歩く。15分ほどで目的の「プゴクッチブ」へ着いた。朝食のお店として有名だ。例の韓国通の友人がソウルに来ると必ず立ち寄るというおすすめの店だ。10人ほどの行列ができている。半数は観光客だが、地元民も見られる。

 20分ほどで中に入ることができた。お客の回転はいい。単品の店なので、座ると同時にプゴクのセットがでてきた。簡単に言うと「干しダラのスープ」とごはんである。大鍋で煮たスープが金属製の器に盛られてでてきた。100席ほどの店内が満員だ。皆同じものを食べているが、追加で目玉焼きが食べられるそうだ。よく観察していると日本人らしき人たちは、その目玉焼きをごはんの上にのせているが、韓国人はスープの中に入れて食べている。食習慣の違いがよくわかる。

 味はいい。友人は「二日酔いの朝食にはサイコーだよ」と言っていたが、たしかにさっぱりした味は飲みやすい。ほどよい胡椒の味がする。タラの塩味がなんともいえない食欲を盛り立てる。お代わり自由だというので、手を挙げて

「One more please」

と言ったら、すぐにもう一皿もってきてくれた。ただし、盛りは一杯目より少ない。無理もないか・・。

 スープもおいしいが、テーブル脇に添えられている野菜やキムチがまたおいしい。特にもやしのナムルがおいしかった。食べ放題というのはうれしい。これで700円程度というのもうれしい価格だ。友人の言うとおりまた来たい店のひとつになった。

 8時半に市庁舎前の観光案内所から「水原(スオン)・民俗村ツアー」のバスに乗った。今日は1日このツアーに参加する。乗車すると、すでに数人の日本人観光客が乗り込んでいた。大きなホテルからピックアップされた人たちである。

 高速道路に入っても渋滞は続く。あまりにもクルマの数が多すぎる。料金所を過ぎてやっと高速道路のスピードになった。周りは、10階建て以上の高層マンションや高層ビルが並ぶ。一軒家を見つけるのはなかなか難しい。

 10時。水原(スォン)着。韓流ドラマ「イ・サン」の舞台である。バスは華虹門の近くで停まり、ガイドの案内で城壁を歩くことになった。少々登りはきついが、中国の万里の長城に似た城壁は見事なながめだ。映画のロケ地としても最適の場所だということだ。華虹門までもどる。ここは水門になっており、日によっては虹がかかるという。城門の無骨さはない。華麗な門のひとつである。

 11時半になり、近くの水原カルビの店に案内された。席に座ってびっくり。小皿料理がずらっとならんでいる。千枚漬・白キムチ・ナスと野菜の和え物・チャプチェ・ニンニクのしょうゆ漬け・きゅうりの酢漬け・野菜サラダ・サンチュ・それにケジャン(ワタリガニのコチジャン漬け)まである。例のごとく食べ放題システムである。一口ずつ食べてもお腹いっぱいになりそうな量だ。これぞ韓国式のもてなしなのだろう。

 カルビは骨付きで日本のカルビの倍の量はある。これまた食べ応えがある。塩味の肉はほどよい味だが、なにせ量が多い。全て食べきれずに終わった。これも韓国流である。

 1時、バスに再乗車。食べ過ぎて少し眠気に誘われる。でも、30分ほどで民俗村に到着し、眠気はとんでしまった。

 中に入ると、ちょうど出し物の時間で、演武場では馬術技の披露がされていた。馬の上にまたがったり、走っている馬にとびのったりというパフォーマンスをはじめ、いろいろな姿勢から矢を射る技を披露していた。その後、若者集団が出てきて、農楽が始まった。田植えや稲刈りの際にする踊りかと思ってみていたら、帽子の上につながれた5mほどの綱を器用に回すのである。それが終わるとお囃子にのって、数人の男性が舞い始めた。こちらは帽子の上に1mほどの綱をつけ、それを回しながら踊っている。首が疲れるだろうなと思ってみていたら、踊りの佳境に入り、男性たちがお囃子の集団を回りはじめた。それも体を倒しながら、まるでサッカーで体を真横にしてシュートをする姿勢を繰り返すのである。帽子の上の綱を回しながらである。見事としかいいようがない。周りの観客もやんやの拍手である。

 演武が終わり、集合時刻まで余裕があったので、民俗村内を散策してみた。いたるところでロケがされており、その時のシーンが掲示されている。川にかかった一本橋の木道には妻が感激していた。

「この景色よ。ほらチャングムででてきたシーンよ」

と言われたが、わたしはそこまでくわしく見ていないので、どのシーンかはわからなかった。

 大木に布が垂れ下がっているところがあった。死者を弔う場所だという。ここでもロケが行われたという掲示板が出ている。そういえばどこかで見たようなシーンだ。近くにはお化け屋敷のアトラクションもあった。基本はテーマパークなのだ。

 集落のゾーンに行くと、韓流ドラマでよくみられる民家や酒場が並んでいる。ところどころにロケ地になった掲示板がある。妻はそのたびに歓声を上げている。自分がイ・ヨンエになったような気分になっているようだ。

 4時にバス乗車。都心に入ると大渋滞。ソウルの交通事情は深刻だ。6時にホテル近くの5つ星ホテル前で降りた。そこから歩いて5分でホテルにもどることができた。お昼に食べ過ぎたので、食欲はない。でも、妻が

「明洞の屋台でおいしいものが食べたいな」

と言い出し、シャワーをあびてから出かけることにした。ホテルから数分で明洞の繁華街にでる。多くの屋台がくりだしている。昼間はふつうの通りなのだが、夕刻から歩行者天国になり、さまざまな屋台が並ぶのである。毎日がお祭り状態だ。

 妻は「ホットク」の屋台の前で止まった。200円程度で食べられるホットケーキみたいなスイーツだ。職人さんがひっくりかえしたり、はちみつをかけたりして作っている。帰りに買おうということで決定。次に見たのがチーズの串焼き(500円ほど)。ちょっと胃にもたれそうなのでこれはパス。すると、いい匂いが漂っている。ロブスター焼き発見。なんと屋台では珍しい1000円越え!1500円ほどの値段だ。匂いにつられる。思わず買いたくなるが、まだ半分も歩いていない。じっとがまん。

 歩いている観光客がポテトのタワーみたいなものを持っていた。すると近くの屋台でポテトを機械で切れ目をつけてタワーにしている。見ているだけで楽しい。トルネードポテトというらしい。

 またまたいい匂いが漂ってきた。貝焼きとホタテ焼きだ。つられるが、初日に食べた味。ここもがまん。チヂミや韓国式おでん・海苔巻き(キンパ)といった定番料理の屋台も多い。そこに「龍のひげ飴」の屋台があった。はちみつを練り込んだ生地をうどんみたいに何度もおって、細くしていく。こぶし大の大きさのものがどんどん細くなっていくさまは見ていておもしろい。看板を見ると東京の新大久保にもあるらしいが、ここが本場だと書いてある。最後はくるくる丸めて飴になる。妻は1箱買っていた。500円ほどだ。

 結局買ったのは、ロブスター焼き2個とホットク1個。歩きながら食べるのは抵抗があったので、ホテルまで持ってきた。通りはごみだらけで食べる気にはなれない。ロブスターは期待したほどはないが、それなりの味は感じることはできた。元々屋台料理は味を楽しむものではなく、雰囲気を楽しむものだ。と福岡の友人が言っていたことを思い出した。ホットクは一口食べただけだが、はちみつ味でおいしかった。妻は気に入って食べていた。

「これ、あたりね」

と一日を笑顔でしめくくることができた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る