*七*

銀花とバルカローレが帰還したその日、王宮では戦勝祝賀会と、銀花とバルカローレの婚姻の儀が執り行われ、二つの祝宴はローレライの希望を示すかのように盛大であった。

 婚姻の儀を終え、初夜を二人きりで共にした銀花とバルカローレは、女王ハーモニアへあることを具申するため玉座の間へと向かった。

「ギンカ殿と旅に出たい?」

「はい、お母様。私はまだ、海の外の世界をこの目で見ておりません。書物から学べることも数多あまたございますが、やはり自分で経験すること・自分の目や耳で感じること以上のものはございません。それに……。」

「それに?」

「たくさんのセイレーンが海の外で生きているというのに、その女王が海のことしか知らないというのはあまりに頼りないと思いません? 私は、いずれ生まれてくる子どもたちやまだ若いセイレーンたちに海の外の話をしたり、海の外から得られた知恵や力でローレライをより良い国にしたいのです!」

「女王陛下。バルカローレはこんなにも海の外のことを知りたがっています。それに、世界のことを知っておくのは統治者として重要なことなのでは?」

 バルカローレと銀花に説得され、女王ハーモニアは感心する。

「お前も立派になった。いや、もうこんなに成長していたのか。甘やかされてばかりであった、あのバルカローレが。」

「メロディーア……。いや、バルカローレよ。……行ってきなさい。」

 女王ハーモニアの言葉にバルカローレは涙を流す。

「ありがとう……! お母様……!」

「ただし。条件がある。その条件を守れぬ限り、出発は認めぬ。」

「そんな。」

 バルカローレの涙が喜びから悲しみに変わろうとする。しかしそれはほんのわずかな時間であった。

「必ず生きて帰ってきて、私が生きている間に女王を継げ。……もっとも。私はまだまだ引退するつもりも死ぬつもりもないがな。」

 女王ハーモニアは厳格に言葉を紡ぐ。しかしその奥は、娘の巣立ちを後押しする一人の母親であった。

「はい……! 必ず。必ずお母様の後を継いで、この国を治めるにふさわしい女王になります! 銀花、ずっと私の妻として、傍にいてくださいね。」

 妻であるバルカローレに銀花は応える。

「もちろんよ。バルカローレ。……ここではメロディーアと呼ぶべきかしら。」

 次代の女王とその妃を、女王は導く。

「公の場ではメロディーアと呼びなさい。いにしえからのしきたりだ。だが。次代の女王である以前にお前の妻であろう。……私生活では、バルカローレと呼んでやってくれ。その名は次代の女王にも何にも縛られぬ、この娘一人の名だ。」

「ありがとうございます。……お義母様おかあさま。」

 銀花からの不意打ちに、女王は珍しく取り乱す。

「な……!」

「私、何か変なことを申し上げましたか? お義母様おかあさま?」

 銀花は女王に対して不敵ににやりと笑う。

「おかしくは、おかしくは……無いが……。」

 銀花と女王のやり取りを聞いて、バルカローレは思わず吹き出してしまう。

 それにつられて、銀花と女王も声を上げて笑っていた。

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