第3話 3st

遮光カーテンをひらくと陽が差し込む


よく晴れた


アル(在る)日のこと


ベランダから見える世界はとてつもなく穏やかで


世界は今日も廻っている


世界のどこかで誰かがなにをしても


世界が滅びずに今日が過ぎれば、世界的観測からすれば平和という定義で過ぎるのだろう


世界の何処かで震災が起きても

世界の何処かで争いが起きても

画面越しの名前しか知らない国のでき事で、誰かであって


人間は増減しながらこの地球で滅びること無く明日を迎える



マジで、こんな世界にばいばい


一応、深く考えたけど生き続ける理由がない


毎日変わりなく動き続ける心臓に、止まらず巡る、人体の神秘


止まれと思ったとて止まるわけもなく、今日も動き続ける



疲れた、意味や理由もなく明日を迎えるのが


屋上から衝動に身を委ねればそれまでだけど、おあとが宜しくなさそうだ


死んだ後の事なんてどうでもと思うけれど、散乱したトマトは如何なものか


時代が時代だ


闇サイトみたいなものはごまんとある


確実性を持った致死量の薬物を摂取して綺麗に終わればいい


入念に調べ、確実なものを手にした



立つ鳥跡をなんとやらの如く、身辺整理を済ませ


事故物件になるであろうこの部屋に対して少し罪悪感を覚える




もう一度22年という人生を振り返ってみた



大人になりたくない


大人になりたい



ふたつの言葉が浮かんだ



大人になる事への希望がある君は常に言っていた

早く早くと


僕はそんなもんなくて

なりたくなかった


片田舎のこの街を、君は18を迎えた日飛び出した


一緒に行こうよ


差し出された手


君の大人になるこれからの人生の中に僕ももれなく入っていた


無理だよ


先は見えていた


輝かしい街で暮らし、色んなことを追いかける君


世間に追いやられて、否、抵抗もすることもなく端へ端へと落ちてゆく僕


この片田舎での関係性も


ここを出たら変わる


分かりきっていた


も少し考えてから後から行くよ


君は納得せず駄々をこねたけど


なんとか先に出てもらった



それから、意外ではあった


いつ来るの?早く、待ってるよ


すぐに僕のことなんて忘れると思ったけど、君は僕を待っていた


君の中では隣同士で新しい人生を描いていたのかな


まあ、僕なんかには勿体ないくらいのありがたい話だ


なんの取り柄もない僕に、君はずっと嫌味でもなく対等だった


これから先、変わらずにそのままで居て、幸せになって欲しい


何の希望もない人生でそれだけは本心だった



ごめんね


ぽつりと呟いた


きっと生きる意味は君なんだったと思う


頭では理解出来てた



でも、そうもいかない


僕自身単位での、其れは違う


わけなんかなくても人は生きる


欠陥品の僕には、それが理解できなかった



冷たい部屋のベットの上アルコールでそれを流し込む



しばらくすると目の前がグルグルと廻り


強力な筋弛緩剤の効果で脱力感と意識が遠のく


強い麻酔成分のおかげで苦しみはそんなにない


体が動かずぼんやりとして意識が遠のく



終わるのかやっと









「そんな若いのに悲観するような挫折や理由もなく、独りで逝くなんて変わってるね」


耳元で声がした




幻聴?


ではなかった


髪を撫でられる感触


誰だよってか、え、、なんで人が



混濁する意識の中目だけを動かすと


人がいた


どゆことだよ


どやってはいった?


ていうか誰?



仰向けで動けない僕を抱えると


そいつは後ろから抱きしめるような格好を取った


誰この女の子


鮮やかな髪に血のような紅い瞳



人、、



じゃない



混濁してても、なぜか確信めいた



「随分達観してるね。先を見越して彼女との人生を選ばず、潔く終える」


なんで


ああ、漫画みたいだな


なんで分かるのってお約束



「弱さゆえに自死を選ぶのに、迷いなくひとりで、強いんだか弱いんだか」


困ったように笑うその女の子は、僕の髪を優しく撫でた


「まあでも、独りぼっちよりは見知らぬ××でも、看取られる方が少しは安らかに逝けるでしょう?」




不思議と安らいだ



声が出ない、力が入らない


何も伝えれない返答できない


「逝こうか」


強く抱きしめられて、冷たくなってきた体があたたかくなった


しに、が、み


そんなもんほんとにいるんだな


声には出なかった


でも伝わっていたのか


にっこりと彼女は微笑んだ


「穏やかに、おやすみ」


ハッキリとそう聞こえて、彼女の顔が目の前に見えた


美しい顔直ちに、目を離せない紅い瞳


それは零距離だった


温かな感触を唇に感じた瞬間


その瞬間、僕の幕は閉じた

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その死神は優しく抱きしめる みなみくん @minamikun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る