第209話 三対一
「よし!みんなでいっせいに飛びかかるんや!」
両津の声がビッグサイトの正面広場に響いた。
「あのバカ、スピーカーで怒鳴ったらユニコーンにも丸聞こえじゃない」
奈々がニュー火星大王のコクピットで毒づいた。
その通りだ。どんなにいい作戦を思いついたところで、大声で叫んだらその全てがUCにも伝わってしまう。だが、こればかりはどうしようもない。他に連携を取る方法は無いのだ。
「ほんなら行くで!せ〜のっ!」
UCにいっせいに飛びかかるひかりたち三台のロボット。
だが案の定、三台が激突した中心からUCはとっくに消えていた。
また忍者である。
「どこ行った?!」
正雄の声にあせりが見える。
「えーとえーと、右斜め後ろの上の方の……」
索敵コンソールに向かう大和のあわてた声が聞こえた。
「それわけ分からん!どこのことや?!」
ライフルの照準を合わせようと、両津は多くのディスプレイに目を走らせる。
ふと、ニュー火星大王が写されているワイプで目が止まった。
左手でチョキ、右手もチョキを出している。
「なんやあれ? ダブルピース?」
「違うかも。もしかして、22?」
心音のつぶやきを聞いて大和が叫ぶ。
「ロボット標準無線のチャンネルかも!」
なるほど!
両津はあわてて、デジタル表示されている無線のチャンネルを22番にセットした。
「このオワコン!聞こえてる?!聞こえたら返事しなさいってば!」
元気な奈々の声が飛び込んで来た。
「こちらオワコン!聞こえてるで!」
大声で両津が返事を返す。
あれ? なんでボクがオワコンやねん?
まぁ今はそんなことを気にしているヒマはない。
「こちら宇奈月、感度良好ですわ」
「ですですぅ!」
奈央と愛理の声も無線から聞こえた。
「よし!これならタイミングを合わせられる!」
三台のロボットがパッと広がり、再びUCを取り囲む。
タイミングが分からなければ、そう何度も逃げられることはないだろう。
「みんな!俺がフェイントをかます。その後に一気に飛びかかるんや!」
「了解!」
ジリジリと包囲の輪を縮めていく。
『まだ同じことを繰り返すのですか? あなた方に私は捕らえられませんよ』
UCの男がフフッと笑いを漏らした。
それと同時に正雄が仕掛ける。だがそれがフェイントであることを見破っていたのか、UCは微動だにしない。
「今だ!」
飛びかかる三台のロボット。
ガツン!
大きな金属音が響いて、ひかりたち三台が激突した。その中心にUCはいない。
「どこだ?!」
「4時方向high!」
奈々の声が初代のコクピットに響いた。
「クロックポジションか!」
クロックポジションは船舶や航空機等で位置を示す手法のひとつだ。アナログ時計の中心にいるとして、正面を「12時方向」と設定、対象物や目標方向が時計の「何時方向」であるかで方位を提示する。軍で用いられる場合は、highまたはlowを方向にプラスすることが多い。例えば「6 o'clock high」は背面上方ということになる。
正雄が右斜め後方に素早く向きを変える。同時に両津がライフルの照準をピタリと合わせた。
ズガガガガガ!
炸裂するライフルの模擬弾。
意表を突かれたのか、躊躇して動きが止まったUCに全弾命中。
その反動で数メートル後ろに吹っ飛んだ。だが、すぐに体制を整えて立ち上がり構えを取るUC。
「当ったじゃねぇかベイビー!」
「館山くん!君もクロックポジションで言うてな!」
そうだ。クロックポジションのことは、教習所の授業で教わったことがある。
すっかり忘れていた大和であった。
「了解!」
「アヴァターラ様、我々はどういたしましょう?」
アヴァターラと呼ばれた男のイヤホン型無線機に声が届く。
男は、ふむとうなづくと指示を出した。
「ヴァイシャは東展示棟に逃げ込んだ来場者を人質に取ってください」
「了解」
「クシャトリヤはこちらに来てください。この面倒な素人さんたちを片付けてしまいましょう」
「了解」
アヴァターラの顔に、残酷な笑顔が貼り付いていた。
「棚倉くん!7時の方向!」
大和の声に、正雄は左斜め後方カメラの映像に目をやる。
そこは来場者用のロボット駐車場だ。広大な敷地に、数百台の自家用ロボットの停車が可能になっている。もちろんこの騒ぎの中で逃げ出した者もいるため、あちこちが歯抜けのようになっているが、来場者のほとんどは逆方向の東展示棟に逃げ込んだのだ。ほとんどのロボットはそのまま停車されていた。
「なんやありゃあ?」
両津が驚くのも無理はない。普通車ロボット数台分の巨大なロボットが、ゆっくりと立ち上がろうとしているのだ。自動車で言うところの大型観光バスである。わかりやすく言うと、巨大なバスに手足と頭部を付けたような形状だ。15メートルもあるボディに脚部が伸びているため、総身長はUCと同じか、それを超えている。
「奈々ちゃん、あれって味方かなぁ?」
「たぶん違うわ」
奈々が苦々しげに言う。
『これでわたしどもは二台になりました。三対二ですが、どうしましょうかね?』
UCの外部スピーカーから、男の笑い声が聞こえた。
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