第24話 即戦力

 スタート地点に戻ってきたマリエ機を、みんなの機体が取り囲む。

「マリエちゃんすご〜い!」

 ひかりが抱きつく。

「素晴らしいわ。こんなにすごい動きを見たのは、姉の仕事場を見学した時以来よ」

 奈々が自分なりに最上級の褒め言葉で迎える。

「やっぱり君は俺のライバルさんだぜ!アメリカとオランダから、こんなアジアの片隅にやって来て出会うなんて、運命に違いない!」

 正雄が最高の笑顔を見せる。

「ほとんど動かずに模擬弾全てを避けるなんて、最高のコスパでしたわ。最上級の褒め言葉を贈りたいですわ」

 奈央の頬も少し上気している。

「あたし、泉崎センパイの次に好きになっちゃいそうです〜」

 愛理もはしゃいでいる。

「あ、ありがとう……」

 マリエが少し照れたようにみんなに答えた。以前、ここにいる全員で握手をした時のような、少し驚いた、でもほんのりと嬉しげな表情である。

 そんな皆の様子を、微笑ましく陸奥は見ていた。

 本当にいいやつらだ。ここに集まってまだ十日ほどなのに、もうこんなにも仲良く打ち解けている。

 だが……。陸奥は表情をひきしめる。彼らの肩には、地球人類存亡の危機が重くのしかかっているのだ。

「よし次は棚倉、やってみろ!」

「ふふん、このマイトガイの実力を見せてやるぜ!」

 陸奥の声に、正雄がスタート位置に着く。

「始めっ!」

 正雄機が飛び出す。マリエほどの速度ではないが、この場にいる誰もが驚く速さである。襲いくる模擬弾を華麗に避けて進んでいく。それはまるで昔のディスコダンスを見るようだ。

 両腕を上げ、しゃがみ、ジャンプ!

 ツイストのように腰をひねり、ウエストの横ギリギリに弾をやりすごす。

 マリエとは正反対の大きな動きだが、こちらもまさに神業と言ってもいい。

「あのマイトガイ、ただの馬鹿じゃなかったみたいね」

 奈々がなぜかちょっと嬉しそうに言う。

 そしてスイッチにタッチ。正雄のタイムはマリエをほんの少し下回った。

「次は誰が行く?」

 陸奥の問いかけに奈々機の手が挙がる。

「私が行きます!」

「いいだろう。次は泉崎だ、やってみろ」

 奈々機の猛烈な突進。その動きはまるで野獣のような迫力だった。強烈な気迫に押されて、模擬弾が自ら避けていくようにさえ見える。

「奈々ちゃん……すごい」

 ひかりが思わずつぶやいた。

 あっという間に150メートルを駆け抜けてタッチ。タイムは正雄を抜き、マリエに肉薄していた。

「ひゅ〜」

 正雄の口笛が鳴る。

「やっぱりあいつもライバルさんだな」

 やはり嬉しそうである。

 マリエ、棚倉、奈々、三者三様のスタイルだが、どれもが実戦に対応する即戦力に見える。そう考えていることに気付き、陸奥の心は少し暗くなった。

「よし、次は遠野、お前だ!」

 そんな胸の内をおくびにも出さず、陸奥は遠野を指名した。

「はい!頑張りますっ!」

 ひかりは張り切って火星大王をスタート位置に着ける。

 みんなすごいな、私も頑張って追いつかなくちゃ!

 そう思い、ひかりは両手で自分の頬を2回叩いた。

「用意はいいな?」

「はい!」

「始めっ!」

 モタモタとスタートしたひかり機だったが、みんなの予想を超える加速を見せていた。

「遠野!模擬弾が来るぞ!ちゃんと避けるんだ!」

 陸奥が無線に怒鳴る。

 射出機が模擬弾を発射!

 ひかり機はその弾丸を……手で払い飛ばした。

 驚愕の一同。

 そこからも、ひかり機は一直線に突進しながら、飛んでくる模擬弾をことごとく手で払い飛ばして行く。

「遠野!払うんじゃない!避けるんだ!」

「だって怖いんだもん!」

 ますます加速し、射出機に向かってまっしぐらだ。まるでいつもの暴走のように。

「遠野さん!避けなきゃダメじゃない!」

「奈々ちゃん、怖いのいやだよ〜!」

 ひかり機の速度が上がる。

「ひゅ〜」

 正雄の口笛が鳴った。

「あいつもすごいな。全弾確実に手で払い飛ばしてるぜ」

 そしてひかり機は……ドッカーン!模擬弾射出機に正面から激突した。

 プスンと音を立てて動かなくなる火星大王。もちろん射出機の方もである。

「遠野!大丈夫か?!」

 陸奥の声が飛ぶ。

「遠野さん!大丈夫なの?!」

 ガリガリと雑音混じりだが、無線機からひかりの声が聞こえた。

「てへへ、だいじょうぶ〜」

 ホッとする一同。

「陸奥センセ」

 両津が問いかける。

「射出機あんななったら、もうこの教習できませんねぇ」

「むぐぐぐ……遠野ーっ!」

 広大な荒れ地に、陸奥の声がむなしく響いていた。

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