第23話 回避教習
雲ひとつない青空。まさに抜けるような、である。だがその日はとてつもなく寒かった。凍て晴れと呼ぶにふさわしい朝だ。
奈々達の教習用ロボットは、いつもの教習コースとは違う広大な空き地に直立していた。巨大な埋立地のほとんどは、ここのように荒涼としたただの荒れ地となっている。学内の教習コースは市街地を模したものとなっているが、ロボットの活躍の場は町中とは限らない。どんな場所でも操縦ができるよう、校舎ゾーンの外側に広がるこんな場所でも教習が行われている。
「遠野、遅いぞ!」
ロボット各機が収容されている倉庫のあるゾーンから、ひかりの火星大王が走ってくる。ドタドタとした、少しユーモラスな足取りだ。
「すいませ〜ん!奈々ちゃんが起こしてくれなかったんです〜!」
そんなひかりの言い訳に、奈々は無線機のマイクに向けて怒鳴った。
「いくら起こしても、くましゃ〜んとか言うばかりで、ぜっんぜん起きなかったんじゃない!」
「君は怒ると、声も怖いね」
マイトガイの声が奈々機内部のスピーカーから聞こえた。
空き地に集合しているのは、泉崎奈々、宇奈月奈央、伊南村愛理、柵倉正雄、両津良幸、マリエ・フランデレン、そしてつい今合流したばかりの遠野ひかりの7名。今日は珍しく、両津も一緒に合同教習が行われる。
「これで全員だな」
一同を見回して陸奥が言った。彼はロボットには乗らず、ひかり達の前に立っている。全員にその声が届くよう、手にはロボット回線の無線機を持っていた。
「今日は回避教習を行う」
「かいひってなんですかぁ?」
愛理が首をひねる。
「会費だったらイヤですわね」
奈央が渋い顔をする。
「俺のファンクラブは会費無料だぜ!」
正雄がコクピット内のカメラに向け、さわやかな笑顔をドアップで見せてくる。
「すご〜い、ジョニーってファンクラブあるんだぁ」
ひかりが感心する。
「避けることよ!回避するって言うでしょ!」
奈々がまたマイクに向けて怒鳴った。
「もういいか?」
あきらめたようにため息をひとつつくと、陸奥が今日の教習について説明を始めた。
「向こうを見てみろ。150メートル先に、二階建てぐらいの大きさのボックスがある。あれは模擬弾の射出機だ」
「しゃしゅつきって……」
そう言い出した愛理だったが、今度は奈々に止められた。
「愛理ちゃん、教官のお話の途中よ!」
「は〜い」
陸奥は射出機の方を指差した。
「あそこから、数秒おきに模擬弾が射出される。まあ簡単に言うと、銃で撃たれるってことだ。その間隔はランダム。弾は実弾ではなく特殊樹脂製なので、当ってもちょっと痛いだけだ」
「火星大王さん、痛がりなのになぁ」
誰にも聞こえないように、ひかりがそっとつぶやく。
「ロボットが痛がるわけないでしょ!」
「君は怒ると、地獄耳だね」
「あんたにも聞こえてるでしょ!」
陸奥がひとつ、咳払いをした。ロボットたちがシャキッと気をつけをする。
「飛んでくる模擬弾を全弾回避、射出機の横にあるボタンにタッチできれば合格、一発でも模擬弾に当ったら不合格、やり直しとなる」
「あの〜」
両津ロボが片手を挙げる。
「弾を避けたら、後ろで見てるボクらに当たりませんか?」
「それは大丈夫だ。君達の前には、壁のように特別なシールドが張られている。模擬弾はそこで砕け散ることになる」
「またシールドや……」
両津はいぶかしげにつぶやく。
「みんな、分かったな!」
「はい!」
揃って返事をする一同。
「まずはマリエ・フランデレンにやってもらう。彼女はアムステルダム校で、トップのタイムを記録している。みんなの模範になるだろう」
「マリエちゃん、すご〜い」
ひかりが笑顔になる。
「じゃあマリエ、始めてくれ」
マリエ機が一歩前へ出る。
「ではいくぞ……始めっ!」
マリエ機がダッシュで飛び出した。そこを模擬弾が襲う。でも当たらない。次々と模擬弾が射出されるが、マリエ機をかすめるだけで、全てが外れてしまっている。
「あれれ?どうなってるの?」
ひかりの目には、マリエ機は避ける動作をしていないように見えたのだ。
「ひとつひとつの動きが速い。それに弾を避けるのに最小限の動きしかしていないのよ」
奈々が睨むような目でそう言った。
「ホンマにすごいな」
「やっぱり俺のライバルさんだぜ」
「きっと燃費もいいんでしょうねぇ」
「カッコいい〜」
その場にいる全員が驚いていた。
そしてゴール、マリエ機が射出機のボタンにタッチした。
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