第21話 兄弟
『おにいちゃん、ひかりです。
ニコニコロボット教習所にやって来て一週間がたちました。あっという間の一週間です。いろんなことがあったけど、とっても困っているのは、毎日教習用ロボットが暴走することです。陸奥教官は、私のせいだって怒ります。でも、私何もしてないんです。ハンドル握ってキーをえいって回したら、すぐに暴走しちゃうんです。なんでだろ〜???
でも、困ったことだけじゃないんです。とってもうれしいこともいっぱいです!だって、お友達がた〜くさんできたんだもん!
泉崎奈々ちゃん。寮のルームメイトです。ロボットの運転がとっても上手で、尊敬してしまいます。美人でカッコよくて、私の憧れです。そして、親友なんです!でも、怒ると眉毛がちょっと怖いです。
宇奈月奈央ちゃん。割り勘の時の金額とか数字が苦手な私の代わりに、ささっと計算してくれます。いつも、こすぱ?がどーのこーのて言ってます。
伊南村愛理ちゃん。ひとつ年下で、とっても可愛いです。奈々ちゃんのことが大好きみたいで、この前深夜に奈々ちゃんのベッドに潜り込んでました。
柵倉正雄くん。アメリカから転入して来たまいとがい?みたいです。名前は柵倉正雄なのかジョニーなのか、私にはよく分かりません。でもロボットの運転はすごく上手です。
両津良幸くん。ウエストピーポーらしいです。私達とは違うクラスで、いつも南郷教官とまんつーまんで楽しいことをしてるみたいです。
そうだ!外国人のお友達もできたんですよ!ヨーロッパから転入して来たマリエちゃんです。あむすなんとかってところから来たみたいです。薄紫色の長い髪がサラサラで、モデルさんみたいな美人です。最初はとっても無口だったけど、今はちょっとだけお話してくれます。まだ日本語が苦手なんだと思います。
そう言えば両津くんが、なんだか不思議なことを言ってたけど、私はまずちゃんと免許が取れるように頑張らなくちゃ!
というわけで、私は毎日厳しい教習に励んでいます。免許取ったら、ロボットでおにいちゃんの所へ遊びに行きますね!待ってて下さい。
ではまたお手紙します。 ひかり』
「あんたねえ、声に出さないと手紙も書けないの?!」
奈々が呆れたような顔でひかりを見ている。
「うん!」
ひかりはニッコリと笑った。
都営第6教習所の寮は二人部屋だ。ここではひかりと奈々が暮らしている。部屋の両端にそれぞれのベッドが置かれており、真ん中には座学のための勉強机が横並びに、窓に向かって設置されていた。
スッキリと片付けられた奈々のデスクと対照的に、ひかりの机は小さなぬいぐるみやファンシーな文具でちらかっている。
「テストとか、試験に小論文ある時に困るんじゃない?」
奈々の疑問は当然だ。
「うん、よくぶつぶつ言いながら試験受けてたから、何度も菊池先生に怒られたの。いつもとっても優しい先生なのに、怒ると眉毛が三角になって怖いんだよ。そう、奈々ちゃんみたいに!」
「それ、ジョニーの偏見よ。私、ちっとも怖くなんかないから」
そうだっけ?という顔で奈々を見つめるひかり。
「そ、それと、あなたと私、いつの間に親友になったのよ?」
「えっと……サモアの旗あげた時からだよ、奈々ちゃん」
ひかりはまた笑顔になった。
「まあいいけど」
奈々は大きくため息をつく。
「ええっ?!いいの!いいんだね、奈々ちゃん!」
「もうあきらめたわ」
奈々が両肩をすくめる。
「ところで、いつも手紙ってお兄さん宛なのね、仲良さそう。いくつ離れてるの?」
「お兄ちゃんは5つ上!」
兄の話をする時のひかりは、とびきりの笑顔になる。
「今22歳で大学の4年生だよ。カッコ良くて優しくて、いつも私のことを心配してくれるお兄ちゃんが、私大好き!」
あまりにも天真爛漫な笑顔に、奈々はちょっと驚いていた。この子は、こんなにも兄のことが好きなんだ、ちょっとうらやましいかも……。
「奈々ちゃんには、兄弟はいないの?」
「いるわよ……お姉ちゃんがひとり」
「いくつ違うの?」
「7歳上」
「わあ、私のお兄ちゃんとほとんどいっしょだね!」
奈々は姉に、少なからずコンプレックスを抱いていた。7歳も年上の姉は、いつも奈々の世話を焼いてくれるだけでなく、学校ではトップクラスの成績を誇っていた。ロボットの操縦にも優れていて、高校入学と同時にA級ライセンスを取得、今では警視庁機動隊のロボットパイロットを努めている。将来は国連宇宙軍への配属を目指しているらしい。
「なんてお名前なの?」
「ゆりか、泉崎夕梨花」
「わぁ!可愛い名前!」
奈々は夕梨花が大好きだ。憧れでもある。それは子供の頃も今も変わらない。だが、周りの目はそんな奈々にいつも厳しかった。何かにつけ姉と比較される人生なのだ。
「だから私、もっと頑張らないと……」
「奈々ちゃん?」
いぶかしがるひかり。そんなひかりの目をごまかすかのように奈々が言う。
「どうして手紙なの?メールとかLIMEとか、もっと簡単な方法があるのに」
ひかりが困ったように言う。
「私ね、パソコンとかスマホとか、機械が苦手で……」
「よくそれでロボット免許なんて取ろうと思ったわね」
てへへ、とひかりが照れたように笑った。
「ここは照れるところじゃないでしょ!」
てへへへ、ひかりはもう一段照れが増したように笑っていた。
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