昼休みの屋上でクラスでも可憐だと評判の柏木さんから告白されたがなかなか名前を覚えてくれないです。
ごっつぁんゴール
名前を覚えられない柏木さん
名前というのは、真っ白なキャンパスのように何も描かれていない生まれたばかりの個人に、初めて塗られた最初の一筆だと思う。
言い換えれば、オギャーと生まれた赤ん坊に最初に付けられる個性であるとも言える。
さらに言えば、俺が俺であると固定するための楔である。
我、江藤 和也であり、故に江藤 和也である。
……さて、自分でもなに言ってんだコイツと思うが、そんな哲学的(笑)な事を考えてしまう理由が、目の前で緊張した面持ちで赤面しながら、上目遣いにこちらを見上げている女の子である。あら可愛い(●´ω`●)
「え~とごめんね柏木さん、もう一度言ってもらって良いかな?」
もしかしたら聞き間違いかもと期待してもう一度聞き返す。
「はい、恥ずかしいですけどもう一度…」
柏木さんは言葉通り恥ずかしそうに俯いたあと、もう一度こちらを上目遣いに見上げて、
「佐藤くん。佐藤 友也くん、あなたのことが大好きです。私と付き合ってください!」
と可愛く告げてきた。あっやっぱり聞き間違いじゃなかったわ、では皆さんご唱和ください、サン・ハイ!
「うん、俺江藤だから!江藤 和也だから!!」
俺の魂の叫びが青空に溶けていく。ちなみに只今お昼休みで現在地は学校の屋上です。
俺の名前は江藤 和也。令和高校1年A組に所属するふっつ~うの男子高校生である。断じて佐藤 友也くんではない。
そして、さっき盛大に名前を言い間違えた女子の名前は、柏木 可憐さん。美少女揃いと名高い我が1−Aの中でも、名は体を表すように可憐でとびきり可愛いと評判の女の子である。
さて時と場所は変わらず昼休みの学校の屋上、件の柏木さん、言い間違いを指摘されたことでテンパってわたわたしている。可愛いなおい。
「ごめんなさい!加藤くん」
「いや江藤だ「遠藤くん、遠藤 達也くん」」
おお被せてきた…って誰がタッちゃんやねん!甲子園に連れてくぞ?
「江藤 和也だよ」
「喜藤 和也くん。カッちゃんだね?」
「惜しい!名前は当たりだから後は名字だけだね!」
「カッちゃん…可憐を甲子園に連れてって…」
タッ○ネタ天丼するか?
「ところで柏木さん、なんで俺なんだ?俺ってイケメンでもないし帰宅部でスポーツやってるわけでもない、成績も……悪くはないけど成績優秀者で張り出される柏木さんほどじゃない。柏木さんに好かれる理由が分からない」
俺はにわかには信じられなかったので正直に聞いてみた。柏木さんは微笑みながら、
「私見たんだ。喜藤くんが妹さんの学費のために交通整理のバイトをしているところ。それに迷子の子のお母さんを探してあげてたところや、おばあさんの荷物を運んであげてたところを。それを見てなんて優しい人なんだろうって思って……」
見られてたのか……恥ずかしいな……
「喜藤くんすごかった、子供を肩車しながら交通整理する傍らおばあさんの荷物を運んであげてた。それを見てこの人と一緒にいたいと思ったんだ」
ホントに恥ずかしい……何やってんだ俺は。てかあれ見て好きになったのか?奇特な人だな。
「喜…「江藤」喰い気味だね進藤くん」
「それであの…進藤くん、お返事いただけますか?」
柏木さんは俯きながら聞いてきた。
「江藤だからね?でもまあ、よろしくお願いします柏木さん」
俺は告白された嬉しさと恥ずかしさ、名前を連チャンで間違えられる釈然としなささで複雑な心境に苦笑しながら応えた。愛しさと切なさと心強さと〜♪
そして柏木さんが嬉しそうに俺に飛びついてきた。
「ありがとう!よろしくね安藤くん!」
二人で教室に入るとザワッと教室が震えた。そりゃそーだ、クラス1の美少女と陰キャではない(願望)けどそんなに目立たない俺が、手をつなぎながら歩いてるんだもん。モモンガ。
「可憐どうしたの?手なんかつないじゃって」
柏木さんの親友の鹿島さんが聞いてきた。この子もメチャ綺麗な顔立ちしてる、しかしホントにこのクラスは美少女揃いだな。まぁ柏木さんほどじゃないけどね!(ドヤァ)
俺がドヤってると柏木さんは照れくさそうにでも幸せそうに微笑んで、
「エヘッ、見ての通り安藤くんと付き合うことになったんだ!」
と宣ったので、教室がシーンと静まりかえってしまって皆の目が点(こんな感じ(・・? )になってた。てかなるわな、俺江藤だもん。安藤くんじゃねーし。
教室の隅で安藤くん(ホンモノ)が「俺?」と自分に指さしてた。お前じゃねーよ!!
「え?え?なにみんなキョトンとしちゃって?」
「柏木さん、俺江藤だから……」
一呼吸置いて
「「「「「はあぁーーーー!!??」」」」」
教室が大騒ぎ
「え?柏木さん、マジ?」
「キャー!江藤くんと!?」
「和也テメーいつの間に!」
「柏木さん!考え直せ!!」
「和也…クソッ俺が狙ってたのに。ウホッ」
「アッチョンブリケ」
いや~まさに阿鼻叫喚だわ。てか誰だトンデモネーことほざいてたやつ出てこいや!いや、やっぱり出てこないでくださいお願いします怖いから。ホントに勘弁してください。
お尻を防御しつつ戦々恐々としていると、柏木さんが首をかしげながら、
「権藤くん、やっぱりちょっと照れるね。テヘ」
と可愛く微笑んだ。いやどうするよマジ可愛いな、この子俺のカノジョなんだぜ。(ウザッ)
カノジョが出来ると世界が変わるね~。味気ない授業も先生の隙を見て手を振りあったり、アイコンタクトしたり、周囲のヤロー共から殺気混じりの視線を受けてドヤ顔で煽り返したり、女子からニヤニヤした視線受けて照れたりたりたりと、あっという間に過ぎていく。
気づいたらもう放課後だもんね。さぁ帰るべ帰るべ。
「権藤くん、一緒に帰ろう?」
「うん柏木さん、帰ろうか。あと江藤だよ。」
二人並んでお手々をつないじゃったりなんかしてルンルンでご帰宅です。いいのかねこんなに幸せで。
「今日は告白に応えてくれてありがとうね」
俺がルンルン気分頭ハッピーセットで歩いてると柏木さんが切り出した。
「どうしたのいきなり?」
「ううん、ただいきなりだったから紫藤くんビックリしたかな〜って思って」
「うんそうだね。ビックリはしたよ?あと江藤」
「やっぱり?」と柏木さんは少し寂しそうに微笑んだ。その笑顔を見て俺はまだ大事なことを伝えてないと気づいた。
「柏木さん、大事なことを伝え忘れてた」
俺がそう言うと、
「なにかな?」
と柏木さんは期待に満ちた眼差しで見つめてきた。
俺は馬鹿だな浮かれて大事なことを忘れるなんて、
「俺は柏木さんのことが好きです。だから告白してくれてスゲー嬉しかった!これから仲良くしていこう!!」
と伝えると、柏木さんは涙で顔を濡らしながら、
「やっと言ってくれたね江藤くん」
ネモフィラのような笑顔を見せてくれた。
リビングで可憐がアルバムを眺めていた。
「高校の時の写真かい?」
後ろから可憐を抱き締めながら声を掛ける。
「ええ、明日の事を考えたら思い出してしまって」
「懐かしいな……覚えてるかい可憐、告白の時俺の名前を言い間違えたこと」
「クスクス、忘れるわけないわ。すごく恥ずかしかったんだから!」
「ははは、あれ何処からがわざとだったんだい?」
「クスクス、内緒よ伊藤くん!」
「ははは、江藤だよ!さて明日は早いし君の準備も時間がかかる。早くお休み」
「そうね、……カッちゃん?」
「なんだい」
「柏木 可憐としての私は今日まで、明日からは江藤 可憐になります。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく。一緒に幸せになろう」
了
昼休みの屋上でクラスでも可憐だと評判の柏木さんから告白されたがなかなか名前を覚えてくれないです。 ごっつぁんゴール @toy1973
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