第七話

 女御が入内してから、早くも三月が過ぎた。


 季節は十二月に入り、冬になっている。女御は体調が本当に優れず、床に臥せる日々を送っていた。もう、半月近くはこんな状態が続いている。東宮様はいたく気にして、薬師に診させた。

 すると、薬師は「はっきりとは言えないが、懐妊の兆候があります」と申し上げた。これには東宮様、女御自身もひどく驚く。まだ、妃になって半年と経っていない。薬師は慎重にする必要があるとも言ったのだった。


 また、半月が経ち、女御の体調はより悪くなっていた。やはり、懐妊は確定となる。慣例として、女御は実家に宿下がりする事になった。東宮様は喜びながらも女御とのしばしの別れを惜しんだ。


「女御、しばらくは別れ別れになるが。すまぬな」


「いえ、わらわは気にしておりませぬ故。宮もお元気で」


「うむ、元気でな」


 そう言って、女御は梨壺を辞した。宿下がりをするのだった。


 女御は実家の一条大宮邸に久しぶりに帰る。両親が待ち構えていた。


「まあまあ、女御様。久しぶりですのう」


「父上、母上。お久しぶりです」


「うむ、女御。お元気そうで何よりですぞ」


 母君が声を掛けたら、女御が答える。父君も目頭を押さえながら、話しかけた。


「ええ、父上。わらわも人の親になり申した」


「そうでしたな、御子を懐妊なさったのだった」


「父上、まだ御子が男御子か姫御子かわかりませぬ」


「それはそうですぞ、御子が女御の御腹おはらに宿ってそんなに経っていませぬ」


「けど、わらわは。母になった実感は湧きませぬな」


 女御は腹を撫でながら、ため息をつく。父君も母君も顔を見合わせた。仕方なかろうと二人は思うのだった。


 女御は実家の自室にて、しばらくは過ごす事になる。けど、子が生まれたら、またあの梨壺に戻らなければならない。窮屈この上ないのう。女御は舌打ちをしたくなった。が、堪える。


「……女御様、ご実家ではゆるりと過ごせますね」


「そうじゃな、後宮とはえらい違いじゃ」


「まあ!」


 小宰相の君は目を開く。女御はにたりと笑う。


「さ、わらわは寝る。小宰相は適当にしておくとよいぞえ!」


「はあ」


 小宰相の君は何とも言えない表情になった。女御はさっさと御帳台に行ってしまうのだった。


 五日が過ぎた。小宰相の君は、どうしたもんかなと思う。相変わらず、女御は食べたら寝てを繰り返していた。おかげで以前より、ふくよかになったような気がする。言うと、無礼なと思われるから口には出さないが。

 廂の間にて、前栽を眺めた。しんしんと雪が降り積もる。それは風情があって、見事な光景だ。陽の光を反射してきらきらと松の枝などに積もった雪が輝く。見入ってしまう。

 ふと、人の気配がして振り向くと。そこには女御が立っていた。ちょっと、眠そうではあるのだった。

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