読者の視点は何処にあるのか

 今回は〝読者としての私〟の話になる予定だったのですが、書いているうちにいつもの〝書き手〟としての話になってしまったので、いつも通りの語りとなります。


             *


 さて、今回は読み手の〝視点〟が何処にあるのかというお話でございます。


 これは一人称や三人称といったものではなく、いわゆる感情移入や自己投影といったものになるでしょうか。一般的に物語の主人公に対し、読み手が憑依するのが〝感情移入〟、主人公を自身の代理として、第三者の立場から応援するのが〝自己投影〟などと呼ばれておりますね。この辺りの定義は人によっても異なるので、私の感覚が間違っている可能性も大いにございます。



 そして一般的に〝なろう系〟をはじめとした読者の皆さまは、圧倒的に感情移入の方式によって読まれているそうですね。


 それゆえに主人公が相手に敗北したり、苦悩や葛藤を覚えたり、道を外れて〝やらかして〟しまう展開を大いに嫌ってしまうのだとか。したがってラノベを投稿する際には、それらの展開は「やってはいけないこと」だと、強く解説している創作論も多くお見かけいたします。


 ――はい。私の〝ミストリアンクエスト〟は、見事に全部やっちまっているんですよね。実際、序盤に主人公がライバルに敗北する場面にて、早期に★をくださった方から★を剥がされたりもいたしました。


 その後も主人公が〝やらかし〟を反省したり、対人戦で人を殺めることに対して強い葛藤を抱いたりもいたします。おそらく★を剥がされた方は主人公が敗北したことによって、自身を否定されたと感じてしまわれたのでしょう。



 もしもミストリアンクエストを、そうした感情移入型の読者さまに配慮をする展開にするならば――主人公が序盤でライバルをブッ飛ばし、主人公が決闘に勝利したことで「仲間にしてやる」と言ってくれた勇者もブチのめし、彼の魔剣をブン取るような展開が理想となるでしょう。――ええ、実際に出来なくはないのですよ。


 仮に〝ミストリアンクエスト・イージータイプ〟を書くのであれば、そうした展開にいたします。しかしその作品の主人公は、間違いなく〝エルス〟ではなくなってしまうんですよね。なぜなら彼は絶対にそんなことはしない。たとえ私がそういう展開を書こうとしても、彼自身が拒絶をすることでしょう。


 この「登場人物が展開を拒否する」という現象は物語を執筆していると、主人公に限らず度々に起こります。なんかしっくりこない、なんか気持ちが悪い、なんか違和感がある――読み返すとそんな感覚に陥ってしまい、投稿ボタンを押すことができなくなるんですよね。


 実際、どうしても違和感を拭うことが出来ず、登場人物の台詞すべてを書き直したこともありました。第4章に登場する〝頭領〟などが代表例ですね。



 そのような感じで執筆しておりますので、私の執筆法は云わば、登場人物ファーストです。読み手がどう感じようが、書き手がどう描きたがろうが、登場人物がやりたいことを優先する。そのような形式となっております。


 登場人物たちは、作品世界にて生きています。私は彼らの生活のうち、見所のある部分だけを切り取っているだけにすぎない。時には私が「別にいいか」とカットしようとした部分を、登場人物の意向によってしっかり描くこともございます。


 もちろん、書き手としての責任として、公開した作品への批判や感想などは受け入れる必要はあると存じております。いくら登場人物がやりたかったからと、過激な場面を描写したり、その責任を登場人物へ押し付けたりはいたしません。


             *


 ――と、いきなり話が盛大に逸れてしまったのですが、本題は「私が他者さまの作品を拝読する際に、何処に視点を置いているのか」といった内容となります。


 はい、ここからが本題です。


 結論から申しあげますと、私は感情移入でも自己投影でもなく、私自身をあたかも背後霊かのように、主人公の側に置いております。


 主人公が真剣な話をしている際には一緒に頷いてみたり、主人公に倒されてしまった悪役にそっと手を差し伸べてみたり、時には談笑する主人公から離れ、内装品や窓の外を眺めてみたりと、作品世界そのものに入り浸っている状態ですね。したがって私は悪役を妙に気に入ってしまったり、どのようなジャンルでも情景描写が多めの作品を好んでしまう傾向にあります。


 また、私はファンタジーに限らず、現代ドラマや純文学においても「世界観が良いですね」と申しあげることが多いのですが、それは作品世界の居心地がとても良かったという意味になりますね。「世界観もクソも現代なのに。何を言ってるんだ」と思われてしまったかもしれません。こういう理由でございます。


 もちろん私は霊体状態ですので、作品に一切干渉することはできません。時おり読む手を止め、「私だったらこうしたのになぁ……」と思いを巡らせることは結構ありますが、間違ってもそれをコメントに書き込んだりはいたしません。これはあくまでも私の中だけで展開された、私だけの感想ということになりますね。


             *


 なぜこのような話をするに至ったかと申しますと、ある〝辛口感想企画〟のコメントを拝見していた際に、かなり辛辣なコメント返答がされていたのを目撃いたしまして。読者さまは非常に丁寧な言葉遣いにて、「辛口企画ということで」と前置きしたうえで、ご自身が気になったポイントを挙げておられたんですよ。


 しかし作者さまからのコメント返信にて、「そういう感想を抱くのはおかしい。あなたは余程良い人生を送っているのだな。恥ずかしいコメントをしたという自覚がないのか」など、かなり強烈な内容の返信をされておられたんですよね。


 おそらくこの作者さまは、登場人物に自己投影をされていたんでしょうね。いわば登場人物へのツッコミは、自身の人生を否定されたも同然だと。したがってカウンターとして、読者さまへの人格攻撃のような返信をされていたのでしょう。


 ええ、理解は出来ますけどね。登場人部は作者の分身。私自身は行ないませんが、そうした形式が存在していることは理解しております。



 しかし、やはり公の場でするようなコメント返信ではないなと。その方との関わりは一切ありませんでしたが、そっとブロックいたしました。


 もしも今後、その方の作品を拝読した際に、うっかり逆鱗に触れるようなコメントをしてからでは遅いですからね。特に私の場合、ズレたコメントをしがちです。もしも〝主人公に倒された嫌な悪役〟を褒められでもすれば、自己投影型の作者さまには堪ったものではないでしょう。


 予め先手を打っておくことが、お互いにとって幸せです。これも住み分けです。


             *


 またしても話が変わるのですが、時おりこうした〝感想企画〟や〝批評企画〟において、評者へカウンターを食らわせることを目的として参加している方が見受けられるんですよね。端から聞く耳など持たない。そういうスタンスの方々です。


 もちろん大多数の参加者は、純粋に感想や批評が欲しくて参加しているのだと思います。もはや自分では自作を評価しきれない、かといって読まれない、どうしても意見が欲しい。そんな藁をも掴む思いで参加されている方が大多数です。



 しかし、なかには自身のスタイルを完全に確立しているにも関わらず、こうした企画に参加する方もおられます。そして参加した結果、「やっぱり指摘してきたかw」といった、相手を嘲笑うかのような返信をするのです。


 当然、該当箇所を修正する気もゼロです。すでにスタイルを確立しているのですから相手の意見を聞く価値も、聞き入れる必要もないのでしょう。


 さらには文法の間違いやストーリーの矛盾といった物のみならず、誤字の指摘すらスルーする人もいます。結果、まったく同じ箇所を複数人から指摘され、それでもそのまま放置しているといった有様です。


 個人的な考えでは、ストーリーや設定などはまだしも、せめて誤字は直すべきだと思うのですけどね。誤字を見つけてくれたということは、それだけ真剣に自作を読んでくれたということです。しかも企画に参加しているというのにスルーするのは、いくらなんでも相手に失礼なのではないかと。


 もちろん、これは〝批評・感想企画に参加している〟という前提ですからね。意思表示もない相手に対し勝手にアドバイスを送るのは、当然マナー違反だと思います。


             *


 よく「改稿や修正なんて時間の無駄。そんなことをするくらいなら新作を書け」といった意見や、「改稿や修正なんてやってもキリがない。まさかあなたは、いつまでも作品を修正し続けるのか?」といった意見を目にもするのですが、やはり作品を愛しているのならば、改稿や修正はするべきだと思いますね。


 「新作を書け」というのはあくまでも、作者自身が売れるためです。要するに当たる作品を書けということ。誤字だらけの作品は捨ててしまえということですね。


 私の場合、ミストリアンクエストは遺作です。代わりの作品はありません。したがって新作への乗り換えはありえませんし、必要ならば命の限り修正し続けます。



 現在、完結へ向けて注力しているミストリアンエイジを自分自身で読み返してみても、やはり修正すべき粗は多く目立っております。特に文法面や言葉同士のリズムなど、妙に気持ち悪さを感じる部分があるんですよね。


 まずは完結を第一に執筆いたしますが、いずれは全面的に、改稿と修正を行なうことになるかと存じます。ストーリー面には自信を持っておりますが、文章においてはまだまだ未熟ですからね。もちろん自分らしさを崩さないという前提ではありますが、アップデートできる部分は積極的にアップデートいたします。


 そして未熟な文章にも関わらず、いつもお読みいただけていることに深い感謝を述べさせていただきたく思います。本当にありがとうございます。


 これからも頑張ってまいります。

 今後ともよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る