第弐話 最強の今
「きゃー!ネズミ!もう、あいつ本当にこんな汚い所に住んでるのかしら。
はっ!実はこれがこの私を嵌める為の罠で心の読めない手紙で連絡してきたのかしら!?でもあの男、昔はチリ一つでも残したら消し飛ばすとか平然と言ってたあの潔癖性だったからこんな所来れるはずもないし、だったら誰が…」
下の泥が靴に付くのが嫌らしく、ふわふわと浮きながらパリパリと最近流行りの魔力結晶を食べる少女は見当違いな考察を膨らませながら細い路地の隙間を縫う様に進んで行く。
「現在のアルス様がどうお過ごしかは分かりかねますが、お孫様の為に王族という地位からこのようなスラム街に来られるお優しいお方というのは良く分かりますね。」
竜の青年はそう笑いながら足下に散乱するゴミの事などお構いなしに歩いて進む。そのゴミは彼に触れる前に吸い込まれる様にきえていくからだ。
「ふーん、でもわざわざここにこんな朝早くに呼び出さなくてもよくない?
しかも朝の9時よ!いつもは12時に起きるから6時間も早く起きる羽目になったのよ!酷いと思うでしょう?あんたもそう思うわよね?」
「私はいつもあなたの分の仕事までこなしておりますのでいつも朝の3時には起きて支度しておりますので特段困る事はありません。
それに、双龍の片割れに龍族最強の男に会えるのですから嬉しい限りで御座いますよ。」
「うっ、でも睡眠は大切よ!それにあなた2時半くらいに飲み物飲みに行った時に部屋の掃除をしてなかった?」
「ええ、私は1秒でも休まれば大丈夫ですので。しかし、到達者と言えど睡眠欲には勝てないのですね。寝すぎると他の事が出来ませんので程々にしてくださいね。」
幼い少女の様な見た目の彼女は3人の到達者の1人でありながらこの世で最も希少な神の一族である心眼族のリア=ミハテル
お札を頭につけ、力を封印している彼は前世界武闘大会優勝者のキョルト=テマルイであった。
「しかし、あのガキンチョが今どうなってることやら。アルファの生まれ変わりなんだからただの化け物でしょうけどね。」
「アルファ様はどれほどお強かったのですか?」
「あいつだったらこんなよわっちい世界なんて一瞬でポンよ。“灰”とか“十神”の他にも“瑠璃”とか“天降”とかはやばかったわね。この世界で出せる魔術以外にも光術もあったし。あんたなんかプチっよ。」
彼女は笑いながら彼に負けぬようヒューンと急加速をしながら空を飛んでいきそのまま手紙に書かれた住所までやってきた。
だがしかし、彼女がついた時に既に彼はその家の前で彼女のことを待っていた。
「空間転移の術他人にもさっさと使えるようにしてよね。私だけこんな頑張ってお空飛んできてるってのに。」
「いやぁ、自分だけなら行けるのですが2人以上は座標がずれて大変な事になるかもしれないので…」
その家は無機質な石で出来た四角い家で、緑の扉は塗装が剥げ始めてきている。とりあえずノックをしてみたが家主が現れる気配はない。
「すみませーん。アルス様はご在宅でしょうか?こちらに招待状を頂いて伺わせて頂いたのですが!」
「どきなさい、邪魔よ!コラ、バカのっぽ!さっさと出てきなさい!出てこないなら勝手に入るわよ!…もう!本当に入るわよ!」
そう言いながら扉を蹴り飛ばし、扉は上の金具がカラカラと鳴っている。しかし、それを気にするそぶりも一切見せずにズカズカと家の中に入って行く。
(普通に入れば良いのにわざわざ扉を壊して入る必要は…)
「うるさいわね!私の部下の家なんだから私の家よ!」
「確かにアルス様は元々あなたの部下のような人だったかもしれませんが今はもうご退職されておりますよ。」
彼女は自分の意見を言うが自分に都合の悪い話は聞こえないらしい、今竜の話を全く聞かずに花瓶の水を変えているのがその証拠だ。
なんと都合のいい耳の作りだろう。
部屋の中は外側の冷たそうな雰囲気とは違い、比較的簡素でベージュの壁に木の床、テーブルと椅子、暖炉などとてもスラム街の中にある家にしては綺麗すぎるものだった。
しかし、実際招待されたものの呼び出した本人がいないこともあり特にどうすることもできないのでとりあえず壊れた扉の金具を直す。
(しかしよくよくみるとすごい家だ。至る所に魔術がかけられている。こんなの王宮の竜でも容易には…)
そんな事を考えていると頭を叩かれる。
「そんなことばっか考えてると禿げるわよ?」
「少なくとも私は人の髪の心配をするなら頭は叩かない方がいいと思いますけどね。」
叩かれた頭を押さえながら立ち上がるとそこには今にも死にそうな老人の姿があった。
「人の家を勝手に物色するな年齢詐欺チビババアめ。
どこぞをほっつき歩いて死んでるもんだと思ったわい。それに扉を蹴り飛ばして入る癖やめんか、わざわざ直すの大変なんじゃぞ。」
「黙りなさいよシワシワ腰曲がりジジイ!
あんなこそ寿命でポックリ言ってるもんだと思ったわ!あんたがこんな汚ったない所に住んでるからわざわざ私が綺麗にしてあげてるのにその言い方は何よ!」
「まぁまぁ、御二方落ち着いて。」
彼は蹴り飛ばされたドアを一瞬で直し、亜空間から取り出したお茶を机に置き椅子に座るように促す。
気づいた時には既に座っている老人に少し驚きながらもポーカーフェイスを続ける。
(凄いな、ここまで気配を感じさせることなく動く事ができるとは…)
「君は…このバカのお守りかね?あぁ、どこかで見た顔だと思ったが前の大会で優勝していた子じゃないか。この世界でなかなかやるなと思ったがあのリーダのバカはなんで君の様な優秀な青年をこの老害に回すのか…」
「黙って聞いてれば…バカだの老害だのうるさいわね!一発殴ってもいいかしら…」
アルスの言葉にピキっていたリアだがふと顔をあげると先程の態度が嘘の様に静かになったのだ。
「…あんた、まさか今日だっていうの?」
「あぁ、今日だ。伝えるのが遅くなって悪いな。」
なんの話をしているのかさっぱりわからなかったがこう言う時は彼らはテレパシーで話しているので何を話しているのかさっぱり分からない。
「まぁ、頼むぞ。」
「えぇ、分かったわ。」
何を話していたのかは分からなかったがもうほとんど先のない老人が友に何かを託したのだろうと言う事は分かった。
そしてそれはその少し張り詰めた空気が解けて瞬間に現れた。
「おじいちゃん、この人達誰?」
その言葉が聞こえた瞬間に空気が異様なほどに凍りついた。
若き伝説の怪物は話すまでいたことすら気づかせずに後ろから現れた。
ワールドレコード 前日譚 リアス @00000aoto
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