最後は自分

第34話 自分自身の家族

「あなたはあなた自身の役目をするのです」

「どういうことです? 私は殺されたんじゃないんですよ?」

 水奈は人の手によって殺されたわけではない。事故死だ。

クレイドルデスゴットが回収できる黒い魂は殺人を犯した者のみ。

 事故は殺人といった故意での行動ではない為に、死んだ者の魂を回収して、その者を殺めた者を苦しめて処罰するといった手順はない。あれは仕方ないことだったのだ。

「アフターケアは、何をするのでしたか?」

「遺族の傷を癒す、家族に魂を通じ合わせる、ですよね」

 その意味で、水奈はある答えに行きついた。

「あ……」

「そうです。あなたの番なのですよ。あなた自身の家族への」

 

 色々な家族のつながりを見て来た。水奈自身の家族のケアはできていない。

 ファリテは殺人により命を落としたので、殺した者の魂を回収した死神が同行しなければ家族に会うことはできなかった。

一方水奈は事故死で犯人はいない。

 それは同行者がいなくても、水奈は一人で自身の家族に会いに行ける。

 家族と魂を通信させる能力はすでに水奈自身を持っている。正式なクレイドルデスゴッドに就任したのだから。それならば水奈は自分の家族とも通じ合える。

「水奈、行きなさい。今度はあなたがゆりかごとしてあなたの家族を癒す時なのです」

「……はい」

「行ってきなさい」

メディウムに背中を押され、水奈は現世への扉を開いた。

 今度は事件現場への魂の回収でもなく、死んだ者の遺族との対面でもない、自分自身の家族と会う為だ。


 扉の階段を降りて、水奈は現世に降りた。向かう先はもちろんあの家だ。


扉から出れば、その目的地にはすぐについた。

「変わってないなあ」

 水奈は自分が育った家、生きていた頃に住んでいた家の外観を見てそう思った。


かつて、水奈が住んでいた家。人間として生きていた頃に育った家。 

生きていた頃、いつもはここへ帰る場所だった。ここのいるのが当たり前だった。

しかし水奈にとっては永遠に帰ることができない場所になった。

 ここにはもう二度と来れないと思っていた。


「……お父さんとお母さんに会わなきゃ」

 水奈は深呼吸をした。

 最後にあんな会話をした両親と果たして会うことができるのだろうか?

 もしかして二人はあのことをまだ怒っていて、娘が死んだことにせいせいしているかもしれない、水奈の将来のことでもめていたのもあった。

 今更死んだ自分が会いに行ったところで、かえって嫌がるのではないかという不安もあった。

 しかし、今回はクレイドルデスゴットの任務のうちの一つとして来ているのだ。

 何もせずに帰る事はできない。

「……よし」

 水奈は決心を固め、家に足を踏み入れる勇気を出した。


壁を通り抜け、家の中に入ると、何もかもがあの頃のままだった。

 毎朝起きてすぐに顔を洗っていた洗面台、いつも学校へ行くために出て行く玄関にはあの時とは違う花が花瓶に飾られていた。そんな違いはあるものの、壁にかけられている絵は同じで、靴箱もある。

 もしかしたらこの靴箱の中には今も自分の靴が残っているのだろうか、と思えたりもした。

水奈は懐かしい気持ちになった。

 子供の頃から育ち、毎日のように見慣れた家の中。

 しかし、ここにもう水奈は住んでいない。

 果たして娘のいなくなったこの家はどうなったのだろうか。

自分の部屋はどうなっているのだろうか、と気になった。

 しかしそれはもう見てはいけないような気がした。見ると自分がこの家に住んでいた跡が消えていることを実感してしまうかもしれないからだ。


 毎日ここで両親と食事をしていた。ほんの少し前までは。

 ピンク色でチェック模様のテーブルクロスも変わらない。

 食器棚には水奈が使っていた茶碗はもうなかった。処分してしまったのかもしれない。

 それがここにはもう水奈がいないことを暗示させる。

 それも、あの後は暗いなムードになってしまったのだろう。


父と母も、理子の両親のように娘を愛してくれていたのだ、それを自分の都合が悪いからとあんな態度をとったまま死別してしまった。

あの二人だって、自分の為にと一生懸命に働いて、育ててくれた。必死だった。

 それを自分が当たり前だと思っていて、将来の進路も当たり前のように支援してもらえると思っていた。それができなくなったからということで、勝手に怒ってしまった。それだって水奈の自分勝手なワガママだったのだ。 

 父が職を失い、家庭崩壊になりそうになるなら、水奈がもっと二人に寄り添って、立ちまわるべきだった。高校を卒業したら、自分が働いて家を支えるということだって選択肢にあったはずだ。それを自分の思い通りにならなかったからとあの二人に酷い態度をとってしまった。

 親に甘えてばかりだった、それを当然だと思ってしまっていた。

あの二人だって、あの状況でいっぱいいっぱいだったはずなのに、水奈はそれを理解することができずに一方的に怒ってしまった。

 何もしなかったのは、自分だったのに。

 せめて最後にあんな別れ方をするんじゃなかった。


キッチンの向こうの、和室に入った。

そこには仏壇が出来ていた。

 新品の仏壇で、まだ綺麗だ。設置されて間もないことがうかがえる。

 水奈の仏壇だ。仏壇には遺影が飾られていた。

 かつての幸せだった頃に撮影した写真で、水奈の笑顔は写ったものだった。

 この笑顔も、二度と見ることはできない。

 水奈はこの様子を見て、自分は本当に死んだことになっていて、もうこの家にはいないのだと感じた。もう水奈はこの家ではかつて住んでいた、でありもう今はどこにもいない。

そして、その仏壇の前で泣いている男女が二人。

 忘れるはずもない、水奈にとってはかつての大切な人。

「お父さん……お母さん」

 水奈はようやく、両親の姿を久しぶりに見れたのだ。

 あの時までは毎日見ていたはずの両親の顔を。


「水奈……水奈……ごめんね」

 母が泣いている。それをなだめるように、父が背中を撫でる。

一時期は離婚を考えていた二人だったが、娘が亡くなったことで、ショックを受け、それどころではなくなってしまった。

離婚の話をするどころではない、娘が死んでしまったのだから。

その時、この二人はどれだけの悲しみだっただろうか。

唐突の娘との別れ、最後に話したのが前日の大喧嘩。

その翌日の朝、娘は自分達と一言も声を交わさないまま家を出て行ってしまった。

あれが最後なら、何か声をかけるべきだったと後悔した。


残された自分達がお互いを支え合っていかねばならないということで離婚をせずに夫婦生活を続けていた。

 娘を亡くしたからこそ、お互いが別々になって新しい人生を始めた方がいいとも考えていたのだが、それはできなかった。

 自分達のせいで娘をあんな気持ちにさせてしまい、そのまま死別したことにより、最後に幸

せにしてやれなかったと。

 それならばやはり自分達にも非があるので、離婚して別々の道を歩むべきとも考えてはいたのだが、やはり娘のことを想うと、できなかった。その為に夫婦を続けていた。

 しかし、それでも娘を失った悲しみは今でも続いていたのだ。

「あなたがこんなに早く逝ってしまうのならちゃんとお母さんもあなたに心配をかけないようにしておくんだった。あなたの気持ちをちっとも考えてあげられなくて、ごめんね」

 水奈が死んでから、しばらくの時間が経過しているはずだが、それでも母は今でも悲しみは癒えていなかった。


 大喧嘩をした翌日のあの朝、水奈が家を出る前に何か声を掛けていればその時間に外を出ようとする水奈を引き留めることができて、あの時間にあの事故の現場となった場所に居合わせなかったかもしれない、とそう思っていた。

 事故が起きる時間をずらせたかもしれない。

 水奈が事故に遭ったのは彼女がいつもの学校へ行くための通学路のルートではなかった。

 水奈があの日、学校に行きたくないが家にも帰りたくないと思ったために普段は通らない道へ行っていたからだ。

 両親に事故の連絡が来た時、場所が水奈のいつもの通学路ではない場所だった。

 だから両親も最初は「娘があの道にいるわけがない」と信じていたかった。

 そう信じていたかったのに、あそこにいたのは紛れもなく自分達の娘の水奈であった。


水奈の遺体は、あの後回収されて両親に引き渡されたが、それも悲惨なものだった。

葬儀では棺の中に包帯で巻かれた身体の破片が収められていた。

 もはや身体が原型をとどめておらず、見るのも悲惨な形だったからだ。

 顔は潰れていた、肉も骨も砕けていた箇所もあった。

なので両親は娘の顔をきちんと見ることができなかった。

そうやって葬儀をするしかなかった。そのまま火葬して骨になった。

「ごめんね、ごめんね水奈、嫌な思いさせちゃって」

「水奈……」

 あの父までもが涙を流していた。父が泣く姿など、見たことない。

 大人の男性は通常、泣く場面はあまり見せない。家族の前で悲しみの感情を出すなんてこともしたことすらなかったのだ。その父が今、水奈の仏壇の前で泣いていた。

 こうして両親が泣く姿は見たことがなかった。

 小さい頃から水奈が泣く度に、二人は慰めてくれた。いつも泣くのはこっちで、両親はそんな自分を立ち直らさせてくれた。それが今は、逆にその両親が悲しみ、泣いている。


水奈が最後に会った時よりも二人はやつれているように見えた。

 もしかしたら娘を失った悲しみでまともな食事もとれなかったのかもしれない。

 その姿がまた、二人が娘を失った悲しみを身体で表しているようにも見えた。

 水奈が亡くなってからも、二人はずっとこうだったのかもしれない。

(お父さん……お母さん……)

両親はちっとも水奈のことを憎んでなんていなかった。

離婚を匂わせることもあり、どちらが水奈を引き取るか、という話題すらも出していた。

あんな大喧嘩をしたまま死別したのだから、水奈がいなくなってせいせいした、とでも思っていたかもしれないと不安にもなっていた。

 水奈が最後にあんなに怒ったから、この二人は許してくれないだろう、と思っていた。


 実際は水奈のことを想い、大切な存在だったと。むしろ自分達のせいで最後は嫌な思いをさせた、とそれを悔やみ、自分を責めていた。

後悔しても、もう時間は戻らない。いくら両親が泣いても水奈が生き返るわけではない。


(今回は私が二人と話さなきゃ。大丈夫だよね……)

 少し不安だった。もしも今になって娘と話せたとして、両親がどんなことを言うのかは想像できない。しかし、水奈はこの任務を絶対に達成させなくてはならない。

 水奈は仏壇の前に来て、二人の前へ立ちはばかった。両親の顔を、ちゃんと見る為に。

(よし、やろう)

水奈は腕輪に力を込め、能力を解放した。腕輪が桃色に光輝く。一時的に部屋の中が光で照らされる。もちろんこの光は両親には見えていない。

 今までファリテも使ってきた、死者と遺族の言葉を通じ合える。一時的に生者との通信できる能力だ。これまでは他人の家族に使ってきたが、今度は自分自身の為に使う。

水奈は能力を解放すると、緊張しながらも声を振り絞って語り掛けた。

「お母さん、お父さん、聞こえる?」

 突然の声に、泣いていた二人はびくっと驚きながら顔を上げた。

「何……今の!?」

突如部屋に響く声。

どうやら自分の声は両親にきちんと聞こえているらしい、と水奈は確信した。

 この部屋に自分達以外はいない、では誰の声か。


 しかし、もちろん二人にはその声に聞き覚えがあった。

 そして、声の主の名前を呼ぶ。

「今のは……水奈……水奈の声だわ!」

 母がそう叫んだ


「水奈! 水奈よね!? どこにいるの!?」

「水奈なのか!? ここが見えるのか!? ここにいるのか!?」

聞き間違えるはずがない。二人にとって昔から何度も聞いて来た実の娘の声。

もう二度と聞くことはないと思った娘の声が聞こえたのだ。

二人は仏壇に飾られている遺影を見た。声はそこから出ているのかと。

「そうだよ。私だよ。少しだけ、話せる時間ができたの」

しかし水奈の姿を見せることはできない、届けられるのは声だけだ。

「水奈、本当に水奈なのね……ああ、なんて奇跡なのかしら」

両親はもう話すことのできない娘と通じた、と喜びの涙を流した。

「お願い、姿を見せてちょうだい! せめて、あなたの姿を見たいわ!」

 母はそう懇願した。

「ごめんね。姿は見せられないの。私が伝えられるのは声だけ」

水奈に通じ合えるのはあくまでも声だけだ。それ以上のことはできない。

声は通じても、姿は見れない、それはやはり残念だ。しかし水奈はそうは言ってられない。

「お父さん、お母さん。二人に言いたいことがあるの。だからここへ来たの」

 能力の発動が終わるまであまり時間はない。水奈は率直に伝えたいことを言う。

「あの日、あんなこと言ってごめんね。最後のやりとりがあんな形で後悔してた。二人も大変だったのに、私は自分の思い通りにならなくて、怒っちゃった。本当にごめんね」

「いけなかったのは私達の方よ! あなたの気持ちを考えなくて、私達の都合に巻き込んだんだから」

「そうだ。水奈がそんなこと気にすることなかったんだ」

「でも、私だって二人が大変だったのに自分から立ち回ろうとしなかった。お父さんとお母さんがあんなに大変な状況だったら、私がなんとかする手だってあったのに、私はもう自分のやりたかったことができないからって二人に一方的に怒っちゃって。最後まで、あんな態度できっと二人は嫌な気分だっただろうな、って後悔してた」

「後悔したのは私達よ! 大切に大切に育てて来た娘が、あんなに突然お別れになって。なんでもっと愛情をかけられなかったんだろう、って。水奈を失った時、本当に悲しかったわ。せめてあの日、最後なら何か声をかければよかったって。あなたが死んだ後も、私達のことで悩んで安らかに眠れないんじゃないかと思うと怖かった」

「そうだとも! 私達は水奈が死んで、どれだけ悲しかったことか! 生まれた時から大切に大切に育ててきたんだぞ。たった一人の娘なんだ」 

 一時は別れを考え、水奈がどちらについていくか、なんてことすら話に上がったが、それでも結果的には二人は夫婦でいることを選び、水奈を失ったことは辛いものだった。

 水奈はその言葉を聞くと、涙があふれそうだった。

 二人は娘のことを、水奈のことを想ってくれていた。大切にしてくれた。死んだ時は失って辛かった。それだけ水奈が大事な大事な娘だったのだと。

「水奈、まだここにいれないの? ここにいることはできないの?」

 声が聞こえるだけならば、せめてまだここにいれないのかと、母は言った。

「残念だけど、時間がないの。もう行かなきゃ」

 やはり、死んだものを引き留めることはできないのだ。

 そして、水奈は伝えたいことを伝えることにした。

「私ね、死んじゃったけど使命があるの。選ばれたの。これからはその役目をやらなきゃいけないの。凄く名誉あることに選ばれたんだよ」

 それはクレイドルデスゴッドに選ばれたことだ。生きてる人間に、死んだ先のことを話すわけにはいかないので詳しくは言えないが、水奈にはやらなくてはいけないことがあると。

「私はこれからは与えられたその役目をやるの。死んじゃったけど、そんな栄光あるものに選ばれたんだよ。凄いでしょ?」

 水奈は、せめて死後は苦しんでいないと伝えたかった。やるべきことがあるから、これからはそれをやっていくと。

「だから、もう二人とは話すこともできないの。もう死んじゃってるんだから仕方ないよね」

 ということは、これが本当の最後の通信なのだ。

 あの日、別れを言えないまま死別した。しかし、これはあくまでも限られた時間で通じるだけの手段であり、一時的なものだ。あくまでも言えるのは別れのみ。

「私はこれからは私としてやらなきゃいけないこともある。死んじゃったことは悲しいけど、それでも私には私としての生きていた意味はあったんだって思った」

 両親はその言葉を黙って聞いていた。

 死後に役目があるというのは、何をやらされているのかはわからない。

 しかし、水奈の言う通り、名誉あることなのだろう。

「でも、私は二人の心の中に生きてるよ。ここまで育ててくれてありがとう」

 それは水奈が伝えたかった感謝の気持ちだ。

 しばし黙り込んだ両親が、口を開いた。

「水奈がいてくれたから、私達は幸せだったわ」

「ああ、私達はお前を育てていて、とても幸せな時間だった。こっちこそありがとう、私達の元へ生まれてきてくれて」

 二人はもう、水奈と最後の別れだと、理解していた。

「わかったわ。あなたにはもう役目があるのね」

 そして、母はそう言った。

「いきなさい。これからはその役目に一生懸命になりなさい。私達はあなたが死んだ後もやるべきことがあるなら、その為に見送るわ。そして、私達も水奈のことをずっと忘れない」

「子供はいつか親から離れていくんだ。だから、見送るよ。水奈は私達の娘だと」

 二人は水奈の最後を見送ってくれると言った。

 もう話せない、それは本来なら悲しいことだ。

 しかし二人はすでに水奈が事故に遭った日にそれをすでに経験していた。

 だから、こうして最後の別れができただけでも嬉しかった。

「二人に最後に話ができてよかった」

 水奈は泣きそうになりながらこらえた。ここで泣いてしまっては能力の発動時間がもったいない。残された時間もわずかなのだから泣いている時間はないと理解していた。

「二人の娘に生まれてよかった」

水奈は自分の住んでいた家に、二度と帰ることはできない。

もう二度と両親に会うことも、話すこともできないのだ。

「でも、私は二人の心の中にずっと生きてるよ。ここまで育ててくれてありがとう」

これが水奈の、娘の本当の意味での旅立ちだ、両親はそれを見送ることにしたのだ。

「二人の娘に生まれてよかった」

 シュウウ……と光が消えていく。能力の発動時間が終了の合図だ。

「元気でね。さようなら」

 水奈は最後にそう呟いた。


 二人の姿を最後に見るのは、これで最後だ。

自分をここまで育ててくれた両親、その別れ、そして旅立ち。両親はそれを見送った。いつかは来るべき時間だったのだ。

 両親の姿を名残惜しそうに見ながらも、水奈は扉を出現させた。早くあそこへ帰らなければならない。ここにいたら離れられなくなってしまう。

「ばいばい、私の家」

 水奈はようやく涙を流した。

 我慢していた涙がぼろぼろとあふれ出た。





 扉を出現させ、冥界へと上がると、いつもと少しだけ違う帰り道にも思えた。

 水奈自身が心残りだった家族に会うということができたからだろうか。その任務も終わった。


 冥界に着くと、扉の傍には、メディウムが待ち構えていた。水奈を迎えにきたように。

「水奈、ようやくあなた自身に向き合うことができましたね。心は癒されましたか?」

 メディウムは母のように、優しい口調で言った。

「よくやりました。どうでしたか? 自分の家族に会ってみて」

「なんだか、不思議な気持ちでした。でも両親との最後の会話があんな形だったので、きちんとした別れもなく死んだことに心残りはありました。けど、もう大丈夫です」

「あなたはあなた自身のの家族のケアを完了させました。これであなたも立派なクレイドルデスゴットです」

「はい」

 水奈は、なんだか一気に大人の階段を上ったような気がした。

 かつて人間だった頃、水奈は「大人になりたい」と思っていた。

 それが死んでしまったことにより、もう叶わないと思っていた。

 しかし違う。実際は、死んだ後もこういった役目に選ばれれば、大人になった気もした。


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