第33話 あなたへの引き継ぎ


 冥界にたどり着き、二人でメディウムの元へ報告に行くことにした。

「水奈、よくやってくださいました。ファリテも、自分の家族へ想いを伝えられましたか?」

「はい。メディウム様。ちゃんとできました」

 ファリテのその表情は、どこか希望に満ちていた。家族との会話という心残りだったことが達成できたからなのか、それはまるで新しい一歩に進んだかのように。


 そして、メディウムは言った。

「ではファリテ。あなたはようやくゆりかごに乗れる時が来たということですね」

「え……?」

 水奈はなんのことだ? と一瞬思った。

 今、「ゆりかごに乗れる」と聞こえた。

「ゆりかごに乗れるってどういう意味です? ファリテは魂を運ぶ役目なんじゃ……」

ゆりかごとは魂を回収する為のもので、それを冥界に連れて行くのが目的だ。ファリテはすでに死亡して、魂ではなくクレイドルデスゴッドとしての役目を持っている。回収ではないというのに。

「水奈、あなたにはまだ説明してませんでしたね。ファリテ、説明してちょうだい」

 状況についていけない水奈に、ファリテが説明を始めた」

「クレイドルデスゴッドはね、それに新しく選ばれた人がここに来ると、その人に仕事を教えるの。ほら、今まで水奈は研修ってことで私について来たでしょ? それで仕事を教えた」

 それはわかる。水奈は今までファリテが任務をする姿を見てこの仕事を学んできた。

「でね、新しい子が来ると、その子にクレイドルデスゴッドについて教える。そして新しいその子が前任のクレイドルデスゴッド……つまり先輩の死神の人間だった頃のアフターケアという仕事をすることが決まってる。そこで無事にその後輩が……正式にこの仕事の役目を継ぐことができれば先輩の人をゆりかごで見送って転生させることになるの」

「つまり、それが今回の私とファリテの……」

 水奈がここに現れた、そこでファリテが仕事を教えた。そして水奈が今度はクレイドルデスゴッドとして、先輩であるファリテのことについての仕事をする。そうすることで、先輩のアフターケアをしたことで、その先輩にあたる者はゆりかごに乗せられて。転生する。

「つまり、私がファリテの役目を引き継いだから、ファリテの役目をこれから私がするってことで、ファリテはゆりかごに乗って次の人生へ行けるってこと?」

 前任のクレイドルデスゴットであるファリテのことについて、水奈がその役目をこなし、犯人へと手を下して家族へのアフターケアをした。

「そうです、これからはあなたがファリテの役目を引き継ぐのですよ。後任の物が見つかったということは、ファリテはこれにてゆりかごに乗せて旅立つことができます。次の人生にいけるのです」

 そうなると、これは正式にファリテの仕事を水奈に引き継ぐことができるというわけだ。

 次にその役目を引き継げるものが現れると、それまでその仕事をやっていたファリテをゆりかごに乗って転生させられる。引き継ぐもの、それが水奈だったというわけだ。

「ファリテ。いなくなっちゃうの? ゆりかごに乗るってことは、次の人生へ生まれ変わるから、もうここからはいなくなるってこと?」

 ファリテは自分の両親に「ようやく眠れる」「生まれ変わる」と言っていた。それはまさにこのことだったのだろう。

「うん。だから、私の役目はここでおしまい」

 真実を知り、水奈は一瞬硬直した。

 ここに来て、何も知らなかった自分に仕事を教えてくれたファリテがいなくなる。その役目をこれからは水奈が引き継ぐから彼女はもう次の人生へ旅立つ。

「ファリテ。今までよくやってくれました。あなたの功績は素晴らしいものだったわ」

「ありがとうございます。メディウム様、今までお世話になりました」

 すでに二人はそのつもりで、話を進めていた。

「さ、ファリテ。それを水奈に渡すのですよ」

「はい」

 ファリテはそう言うと、自分の頭につけていたサークレットを外した。

 水奈が最初に会った時からずっと付けていたものだ。それを外し、水奈へと差し出した。

「水奈、これを授けるわ」

「これを私に……?」

 ここに来た頃からファリテがずっと付けていたもの、それを水奈に献上する。

「このサークレットはね、次のクレイドルデスゴットになった人に献上するの。これをあなたに授けるってことは、あなたは正式に私の跡継ぎよ」

 水奈はそれを受けと取った。これは決定事項なのだろう。

「ありがとう水奈、これで私は次に行けるわだから、次は水奈が私の分頑張ってね」

 寂しいという気持ちはあったが、これは変えられないことなのだろう。しばし考え、水奈はそれを受け入れることにした。

「うん……大丈夫。これからは私が立派にあなたの意思を継ぐから。私が、ちゃんとやる」

 水奈はそう言うと、サークレットを自分の頭に着けた。引継ぎの証を持つことで、これで自分にこの役目が与えられたと感じ取れる。

 今までファリテがやってきたことを、これからは水奈がするのだ。

「私は、あなたの分までこれからはしっかりやるよ。ファリテ、次の人生では幸せになれるといいね。ちょっと寂しいけど、これでファリテは次へ行けるんだもの」

 もう会うことはないだろうけれど、彼女には色々世話になった。

 ゆりかごに乗せられたものは、次に幸福な人生へとなれることが保証される。

 伏田理子としては悲惨な最期を遂げたファリテだが来世では幸せになるだろう。

「新しい人生でも頑張ってね。転生したらそれまでの記憶が消えちゃうのに、頑張ってっていうのもおかしいけど」

もう会うことはないけれど、彼女には色々世話になった。

「さあファリテ、転生のゆりかごの間へ行きましょう。あなたの旅立ちの時だわ」

 メディウムはそう言うと、その間で続くであろう扉を出現させた。

 いよいよこれがファリテとの最後の別れになるのだ。

 ここに来てから、色々と自分の世話をしてくれた者を見送るのは少し寂しい。

 彼女は先輩として、水奈に仕事を教えてくれた。研修も彼女によって丁寧に任務を見せてもらった。彼女のおかげで、水奈はここでやっていける。

 それならばしっかりと彼女を見送らねばならない。名残惜しくても、これで彼女はようやく救われるのだから。それはむしろ祝福せねばならないことだ。

「さようなら、水奈。後のことは任せたわ」

 ファリテはそう言うと、その扉の中へと入っていった。

 これが彼女の姿を見る最後の瞬間なのだろう。ファリテはこれから旅立つ。

「さよならファリテ」

 そして、先輩としてのファリテの姿を見送った。二度と会うことはないと。

 

 ファリテの姿は消えていった。これからは転生だ。

こうして跡継ぎが現れれば、前任のクレイドルデスゴッドは後任の者へと役目を受け継がれ、その者は消えるのだと思うと、水奈は自分もいつかはそうなるのだろうかと、ぼんやりと思った。

自分がこの役目に選ばれた理由、まさに自分こそがこれになるためだった。

「さて、水奈。ファリテとの別れで気持ちが寂しいと思ってるでしょうが、次はあなたの番ですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る