第31話 一人での任務達成

水奈は習った通りに、空間に扉を出現させた。

あの広間に戻って来る。



 冥界に着くと、水奈は早速メディウムの元へ報告に行った。

「メディウム様、ターゲットの魂を回収しました」

 証拠というばかりに、持ってきた檻を見せた・

「水奈、初任務は無事達成できたのですね」

「はい、なんとか」

「水奈、あなたにとっては初めての任務でしたが、負い目を感じるといった感情はありませんか。以前ファリテとの研修の時にはそういった感情を抱いていたとファリテから聞きましたが」

「これが私の任務だと理解してます。確かに初めての任務で戸惑いもしましたが、しかし、ファリテの苦しみを知ったので、あの人にも同じ苦しみを味合わせねば、とも思いました」

 きっと今までファリテが仕事をしてきた時はこういった気持ちだったのだろう。

 冷静に見えるが、それは殺された者への同情といったものがなかったのではない。

こうして殺された者の、苦しみをわかるからこそ、この役目ができるのだ。

「では黒いゆりかごの部屋へ、裁きの間へ行きましょう」

 水奈はメディウムと共に、例の部屋へ向かった。


 あの禍々しい部屋は何度入っても不穏な空気を感じるはずだ。

 しかし、すでに死神としての任務をしている水奈にとっては今回の仕事も最後までやり遂げねばならないという意識もあった。

「水奈、もうやり方はわかりますね」

「はい」

今までは先輩にあたるファリテがやってきたのを見ていただけ。しかし今回は水奈がやるべきことだ。

中央の黒いゆりかごに道谷の魂を乗せる。

 前回までは魂をゆりかごに乗せるのはファリテがやっていたが、今回は水奈がやるのだ。

 今から消滅させる魂を自分の手でこの場所に置くというのも不思議な感覚だ。

 この魂が、今消えようとしているものを自分で置くのだから。

「おい! てめえ、何するんだよ! 勝手に変なところへ連れて行きやがって! 俺をあの場所に戻せ! ふざけんじゃねえぞ!」

 身体と完全に引きはがされ、冥界へと連れてこられた道谷の魂はそう叫んだ。

 すでに身体との分離の為に一度苦しみを味わっているとはいえ、今度は完全消滅の為にもっと苦しい目に遭わせるのだ。

「この任務、きっちり最後までやり遂げなきゃ」

 道谷の声にも耳を貸さず、水奈は処刑用のレバーの前に立つと、すぐにそれを引いた。

 籠が高速で揺らぎ始めた。次第にその速度は上がっていく。

 これまでのミキサーのような刃で身体を切り裂かれる処罰とも、炎の渦に包まれる方法とも違う。

 今回はゆりかごそのものがしぼんでいき、中の魂がどんどん圧縮されていく。

 首を絞めて殺したのだから、それに近い処刑方法として、道谷の魂は締め付けられる感覚と共に、圧死させるということだ。

「おい……こ、これを止めやがれ」

 これから自分がどうなるかを恐れた中で道谷が叫んでいる。

しかしすでに動いてしまったゆりかごの動きは止まらない。

 次第にゆりかごの中身はプレス機のように、魂を押しつぶした。

「これでとどめよ」

 いつものように、ゆりかごが宙に浮いた。

 その下の魔法陣が光り輝き消滅して、床に大穴が開く。

 そのままゆりかごは逆さまになり、魂ごとをその大穴落とす。

「これでもうあなたは輪廻には入れない」

 すでにこときれているであろう道谷の魂は、その大穴に落ちて行った。

 もう二度と出てくることはできない。ゆりかごで次の世へ送られることもない。


 一連のことが終わると、それをずっと横で見ていたメディウムは水奈に声をかけた。

「今回は魂の回収から処刑まで、あなたが全てをやりました。初めての任務にしては上出来でしたよ」

「ありがとうございます」

「あとやるべきことは、わかってますね」

「はい」

 罪を犯した者の魂の回収、処刑が終われば、あとはアフターケアだ。

 もちろん誰のことをやるかは決まっている。





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