第30話 一人での魂の回収



 檻を持ったまま、その中へ飛び込んだ。ワープして、いつも水奈は道谷のいる部屋へ来た。

 最初の研修で言った日草の部屋と同じように、収監されていた。

 犯罪者が入れられる、必要最低限な物しかない、質素な部屋。

 そこで道谷は布団で眠っていた。

 これまで逃亡生活をしていただけに、収監された今はある意味、逃げることを考えなくてもいい、落ち着いた環境なのかもしれない。過去に人を殺めていても。

 以前、最初の研修である日草はのいた部屋にはファリテと来たが、今回は水奈一人だ。

 これまでファリテがやってたのを見た通りに、水奈は魂回収の用具を出現させる。

 念を込めると、ブレスレットが光り、水奈の手元に例の大鎌が出現した。

 この鎌念の塊による霊体のようなものなので、大きさの割には重さを感じない。

 なので女性でもこれを軽々しく扱うことができるわけだ。

 これを持つと、水奈はいよいよ自分が死神としての任務をこなす時だと思った。

今まではファリテの見本を見て来ただけだが、今回はいよいよ本番だ。の大鎌を実際に使う時が来た。

道谷が眠る布団の前に立ち、眠る道谷を見下ろす。

水奈は鎌を構えた。初めて自分が魂を奪う、死神として。水奈にとっての初めての魂狩りだ。

「この人はファリテを殺した……。何もしてない女の子をあんなひどい目に遭わせたんだ」

この者が人間だった頃のファリテの命を奪ったのだから、今度は水奈が彼女の為に任務を果たさなくてはならない

 それを自分の先輩にあたる少女の命を奪った者へと手を下すというのも負い目はない。

あの映像を見せられた水奈にはその魂を引きはがすことに後ろめたさはなかった。

 自分に親しくしてくれた者を生前に酷い目に遭わせたという映像を見たからだろうか。

 しかも自分と同じ年頃の少女というのが、また同情できた分、何も思わない。

「行くよ!」

 水奈は初めての魂狩りとして道谷の身体へ大鎌を振り落とした。

眠る道谷の身体を容赦なく斬りつけた。

 身体を斬りつけた時、手ごたえはあった。もしもこの大鎌が本物であれば、布団ごと道谷の身体は裂けていただろう。

 しかし、実際に裂けるのは、肉体ではなく、魂を引きはがすことだが。

 道谷の身体からポウ……とすぐに黒い魂が出現した。

「あなたが道谷草夫ね」

 水奈は道谷の魂に語り掛けた。

「な、なんだてめえ! どっから入ってきやがった!」

 名前を呼ばれ、道谷は今の自分の状態をまだ理解していなかった。

 自分しかいない部屋、外では看守がいるはずの個室に何者かがいる。

「なんだと思ったらガキじゃねえか。看守か? 最近はこんなガキに看守をやらせんのかよ。変なカッコしやがって」

 道谷はまだ、水奈が何者かがわかっていないらしい。

 自分の魂がすでに身体から引きはがされているということ未だ実感していないようだ。

「あなたは二年前、伏田家に押し入り、伏田理子という女の子の命を奪った。そして逮捕されて、今こうしてここにいる。あなたは強盗殺人の容疑で」

 今まで見て来た任務中のファリテのように、水奈は淡々とした口調でそう告げた。

 死神たるもの、常にこういった態度ではないといけないとすでに理解してるからだ。

「ああ、俺の殺したガキがそんな名前だったな。だからなんだってんだ? どうせ俺は強盗殺人で重い判決や最悪死刑にだってなるだろうさ。あんなガキを殺すくらい、大したことなかったぜ」

 道谷は自分が殺した少女について、軽率に言った。

 水奈はそんな態度に苛立った。こいつは少女の命を一方的に奪ったことに対してその程度といわんばかりに。

「酷い人……あれだけのことをしておいて反省もないなんて」

 水奈にとっては親しい者が殺されていた瞬間を見たのだ。その分怒りは大きい。

「あなたが殺した女の子、その子がどれだけ苦しい想いをしたかわからせてやる!」

 水奈は怒りのあまりそう言うと、鎌に力を集中させ、能力を発動させた。

 ブレスレットの宝玉が、どす黒く輝く。それはまるで水奈の怒りの分、さらに色を濃くして。

 道谷の黒い魂へ、エネルギーの圧力がかかった。

「あ、ぐっ……」

 道谷にはファリテ、いや伏田理子の死と同じく絞首の瞬間を味合わせる。

 人を殺した者は、殺された者の絶命する瞬間と同じ目に遭わせて、苦しめる。

「ぐええ……息が……、てめえ、何して……」

 じわじわと、徐々に絞めていく感覚で道谷は絞首を味わっている。

「あ……」

 徐々に苦しみが強くなっていく感覚。道谷は次第に声を弱めていった。

 道谷は今、まさにあの時の理子と同じように、首を絞められる感覚を味わっているのだろう。

 水奈はその様子を見ても、罪悪感はなかった。

 こいつはこれだけのことをされて当然な苦しみを自分と近い年頃の少女にやったのだ。

 なんの罪も犯していない伏田理子はこんなことを理不尽にされた。一方的に。

 一般人の普通の少女がこんな目に遭わされてどれだけ恐ろしかったことかをわからせるために。

 こうせねばファリテの仇を取ることができない。

「その女の子はもっと辛くて苦しい想いをしたのよ。あなたに一方的に」

 水奈はますます力を強く発動させた。

「ぐ……う……」

 道谷への力はどんどん強くなっていく。それが水奈の怒りを表しているかのように。

 水奈はじわじわとパワーを強めていった。完全に息の根を止める勢いで。

「あ……」

 道谷の声がしなくなった。どうやら完全に魂と身体の分離が完了したようだ。

 道谷の身体と魂が完全にはがされたことを確認する。

「これでいい。魂の回収しなきゃ」

 水奈は習った通りに、悪人を閉じ込める黒いゆりかご、いや檻を出現させた。

 道谷の黒い魂をつかみ取り、その檻へ収納した。

 これが今までファリテがやっていたことだ。それを今回は水奈がした。

「任務完了、かな」

 あとはこれをメディウムの元へ持ち帰れば初任務も完了だ。

「よし、ちゃんと目的の物も回収したし、メディウム様に報告しなくちゃ」


水奈は習った通りに、空間に扉を出現させた。

そしてあの広間に戻って来る。

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