第29話 初めての一人任務

ファリテ、人間の伏田理子が殺されるまでの映像を見て、水奈は放心状態だった。

「これが……ファリテが死んだ理由……」

 映像を見終わると、実に酷い手口でファリテは殺されたのだと知った。

「酷い……ファリテはこんな殺され方したの?」

これまで見て来た映像の中でも最も残酷だったように思える。

 自分と年が近い少女だから感情移入した分だろうか。

 事故により一瞬で絶命した水奈と違い、伏田理子は死ぬまでに恐ろしい時間を味わっていた。いつ自分が殺されるかもわからない恐怖の中、最後は最悪な結末が訪れた。

「よく見ていましたか水奈。これが今回の任務です」

 映像を見終わり、放心状態の水奈にそう言った。

「見たでしょう。ファリテがどうやって人間としての生命を終えたか」

彼女は今でこそ立派なクレイドルデスゴッドとしての役目をする為に冷静沈着な性格だが、元は年相応の少女だった。しかし殺害犯の魂を狩り取る際には冷酷な口調で命乞いにも耳を貸さず、執行の際も罪悪感を感じる様子もなくただ任務をこなす。

それは後ろめたさも恐怖も何も感じないのではない、自分がこんな殺され方をしたのだからこそ犯罪者には容赦なくできたのかもしれない。自分が恐ろしい思いをして殺されたのだから、自分と同じように罪もない他人を殺す者は許せないと。

自分は死んでもかまわない、と思っていた水奈と違い、ファリテは人生が希望に満ちて本当に未来に向かって歩む少女だったのだ。その未来も潰されてしまった。

やりたいことがたくさんあった少女が、それらを全て失うとわかった時、どんな感情だったのか。それは想像するだけでも悲惨なものだろう。

「この事件はファリテ……伏田理子が殺されてから未解決事件となっていました。しかし、二年が経ったついこの間、犯人を特定し、逮捕するに至ったのです。その為に、現在伏田理子を殺した犯人は留置所にて収容されています。だから魂の回収に向かうのです」

 つまり、ようやく人間だった頃のファリテを殺害した犯人を突き止めたことにより、水奈がその男がいる場所へ向かえばいいということだ。

「水奈、今回はあなたの初めての任務です。その覚悟はありますか?」

 メディウムは深刻な話のように、水奈に真剣な目を向けて言った。

「なんでそれが私の初任務なんですか?」

「あなたの研修としての先輩はファリテでした。そのファリテの後輩にあたるあなたこそが、彼女を救う役目に適任だということです」

 これまでは知らない者の魂をファリテが回収しにいくのに研修としてついていった。

 しかし、今度は水奈からすればその先輩にあたるファリテ自身のことを任される。

 初めての仕事は全く知らない者よりも、まだ水奈自身に関係がある者をターゲットにした方がいいということなのだろうか。

だからこそ、今回はその犯人の魂を奪う死神としての役目を水奈がやるというわけだ。

 自分と親しいものが殺された時の映像を見せられたのだ。その分、殺された伏田理子に感情移入した分これはそういう怒りもある。それならば水奈が躊躇なく魂を回収しに行けるということだった。

 実に責任が重い。今までは先輩として様々なことを教えてくれる役割をしていたファリテを、今回は水奈が救う側になるというのか。


「これからあなたが任務に向かうにあたって、クレイドルデスゴットの装束を身に着けてもらいます。装備品もです。使い方は教えます」

 以前、ファリテは水奈の服はまだ作られていないと言っていた。その為に水奈は生きていた頃に着ていた学校の制服で過ごすしかなかった。

「さ、あなたの死神衣装よ」

 しかし、ようやくこのクレイドルデスゴットに与えられる衣装が与えられるのだ。

今回はようやく水奈用の衣服も完成したのだ。

「そして、これが能力を発動させるアクセサリーです」

 水奈にブレスレットが渡された。ファリテが持っていたのと同じ、エメラルド色で真珠のような白い宝玉が埋められた細かな模様が刻まれた銀のブレスレットをしている。

 これまでファリテがこれを使っているのを見て来た。

 支給武器である魂を狩り取る為の大鎌を出現させたり、亡くなった者と魂を通じ合わせるといった能力が使用できる。

「これを身に着けることで生きてる者と魂を通じ合わせることもできます」

使用する能力により、発色する色が違い、これがなければまずこの仕事ができないだろう。

その後、メディウムは水奈に能力の使い方を色々教えた。

現世へ渡る扉の出現の仕方、大鎌を出現させ、使用する方法、魂を遺族と通じ合わせる能力。 

そして、一番大事なことである、死んだ者の魂を収める為のゆりかごの出現させた方。

 ファリテと同じ死神装束の衣装を身にまとい、これで水奈もいよいよ本格的にクレイドルデスゴッドとしての任務をすることになる。


 そして、犯人のプロフィールが水奈の端末に表示された。

伏田理子を殺した犯人は道谷草夫。

二年間の逃亡生活の末、北海道にいたところを強盗殺人の罪で逮捕。

現在収監されている。

「では、行きなさい。無事に任務を果たしてくるのですよ」

「はい」

水奈は習った通りに、現世へと続く扉を出現させた。

今まではファリテと共に降りた階段だったが、今回は一人だ。

これでまさに水奈がこの仕事をやっていく為の第一歩なのだと実感させられた。


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