第25話 人を巻き込むということ
「じゃあ次よ」
次というのは、もちろん命を奪った側、この場合は立てこもり事件を起こした本人である岡崎のことだ。
「犯人が死んでる場合はどうなるの?」
死んでいたら、あの大鎌で斬りつけて魂を無理やり身体から引きはがすという動作は必要なのだろうか。すでに死亡しているのだから、無理やり魂を引きはがす必要もないかもしれない。
「私が直接手を下さなくても、死んでいるからそのまま魂を回収するだけよ」
そして、もちろんやることは決まっている。
「犯人は、もちろんゆりかごから振り落とす」
加害者である岡崎の遺体も、被害者と同じく納体袋に収納されていた。
すでにこの身体は死んでいる。もう大鎌で斬りつける必要もなく、魂は身体から剝がれている状態だ。
岡崎の遺体から魂を抜き取る。
悪いことをした者らしく、やはり魂も黒い。身体がすすになっているのだから、その色ともとれる。
「なんだあんたらは!? 俺は死んだんじゃなかったのか?」
先ほど自分がやった行動から、自分は死んだと思っているのに、なぜ意識があるのだろうか。そしてこの少女達はいったいなんなのかと。
「あなたは先ほど死亡しました。私達はあなたをお迎えに来た者です」
「へっ。じゃあお前らは死神か地獄の使いか何かってわけかい。俺みたいなやつのとこに天使が来るわけねえからな。どうせ地獄行きなんだろ? 俺みたいなのが天国なんて行けるわけないからな」
ファリテが何も言わなくても、岡崎は「死神」という言葉を使った。
本来、クレイドルデスゴッドは死者本人には死後の絶望を与えない為に「死神」という身分を明かさない。しかしこの男は、自分の行いから、ここに来た者は「死神」だと認識したのだ。
「あなた、自分が何をしたのかわかってるんですか? とんでもないことをしでかしたんですよ。それに、あなたも一緒に死んじゃったんですよ?」
自分が死んだというのに、全く臆しない岡崎に向かって水奈はそう言った。
「俺はあいつらに復讐したかったんだよ。その念願が叶った今は満足だ。俺はあいつを巻き込めるなら自分が死んだっていいと思ってた。だから俺は死ぬことなんざ怖くねえ」
自分が死んだことを満足という、それはなんだかおかしなような気もする。
「地獄へでもどこへでも連れて行きやがれ。俺は憎んだあいつを道連れにできただけでももう十分だ。これだって俺の望んだことだ。俺はもう未練なんてねえんだからな」
自分の上司だった罪なき人を巻き込んでおいて、岡崎はなおこんな態度だった。
「あなたは地獄に行くよりも、恐ろしい目に遭います」
ファリテはそう告げた。
「おー、どこへでも連れていきやがれ。俺はもうどうなってもいいからな。どんな目に遭わされたって、どうせ死んでるんだから気にするこたねえよ」
岡崎は抵抗することもなく、それを受け入れた。
「わかりました。では連れて行きます。それと、あなたは無抵抗なので、そのまま連れていきますね」
抵抗する様子がないことと、被害者と同じ死に方をしたのだから、魂を引きはがす際に同じ苦しみを遭わせるという仕打ちはなしだった。
ファリテは岡崎の魂に手をかざしてそれを掴む。
ファリテは出現させた黒い檻に岡崎の魂を入れた。
無念を唱える被害者と違い、加害者の魂は実にあっさりとした回収だった。
「さ、帰りましょ。もうここには用はないわ」
「うん……」
ファリテは空中に扉を開き、水奈と共にそこへ入った。
冥界の間に戻る途中の扉の中で、水奈は気になっていたことを言った。
「これでいいのかな。岡崎って人は自分が死んだことに悔いはないみたいだし、むしろ罰を与えても、なんの裁きにもなってない気がする」
これからあの処刑を行うとして、輪廻から外されたとしても、これは岡崎にとってはお望みの処遇なのではないかと思えてしまう。
「私達の役目はあくまでも死者とその遺族のアフターケアよ。それならばこうしないとあの事件に巻き込まれた上田さんって人は安心して次の人生を歩めないもの。命を奪った者を輪廻から外さないと、生まれ変わってまたいつかそいつと出会ってしまう可能性もある」
しかし、岡崎にとってはそれがある意味これでいい、と思えたことなのかもしれない。
復讐したいという意思を達成させ、自分はどうなってもいいと言っていた。これは反省にも罰にも裁きにもなっていないのではと。
「これじゃ上田さんが殺されたのって、自殺に巻き込まれたようなものだよ……」
最初から死ぬつもりなのなら、元上司を巻き込む必要などなかったのではないか。それとも岡崎にとっては憎んだ上田を殺す上でどうせ自分も死ぬつもりだったということだろうか。
どちらにせよ、もう遅い。亡くなった者は生き返らない。
「メディウム様、回収してきました」
「よくやってくれました」
加害者の岡崎と被害者の上田の魂を回収し、冥界に戻った二人はメディウムにまず、檻に入った岡崎の黒い魂を見せた。もちろん輪廻から外す処刑の為に。
「では裁きの間へ行きましょう」
今回も以前と同じように、処刑が始まる。
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