第24話 復讐の悲劇

「なんで……こんなこと……」

 映像で事件の顛末を見ると、水奈はやはり悲しみでいっぱいになった。

 なぜこうして大惨事を引き起こし、憎んでいたからと、自分の知人を殺すことができるのか。 

 自分の命を巻き添えにしてまでこんな事件を起こす必要があったのか。

「なんでこんなことするの……。自分も死んじゃうのに」

 死ぬのならばせめて一人で死ぬ方がマシなのではないのか、とすら思った。

 外では人質として残された部長の家族がひたすら懇願していたというのに、その家族すらも不幸に陥れたのだ。

 あまりの理不尽な事件に、水奈はつい涙をこぼした。

「水奈、辛いかもしれないけど、これが私達の仕事なのよ」

 水奈達がやるべきことは、ここで亡くなった者の魂を回収することだ。それには今すぐここへ向かわなければならない。

「わかってる、わかってるけど。こんなの辛いよ……」

 やはり水奈にとっては人が死ぬ瞬間など辛いだけだ。

 理不尽な死、殺された者がどれだけ恐ろしかったか。

 この犯人は周囲を巻き込むだけ巻き込んで、最後は自分ごと自害して逃げたのだ。

「こうしている間も、この人の魂は彷徨う。早く私達が回収しなきゃ」

 きっと今頃、この魂がいる場所は悲惨なものだろう。

事故でもなく、一人の人間の身勝手な行為で奪われた

 あれだけの大爆発が起きたのだ、絶対に死体も綺麗なものではないことくらいわかる。

「では、今回のターゲットのプロフィールです」


 上田武夫。五十二才。サラリーマン。妻と息子の三人暮らし。家族との仲は好調でごく普通の家庭だった。仕事を率先して引き受けるタイプだったので社員からの信頼も厚い。

 趣味は家族旅行。家庭を愛するよき夫、父親だった。


家族と仲が良い、というのももう二度とそれはできない。

「さあ、ファリテ、水奈。行くのです」

 こうしていても行かないわけにはいかないのだ。

 ファリテは扉を出現させ、水奈を連れてその中へ飛び込んだ。


 降りた先はもちろんあの事件現場だ。

 水奈達が冥界で映像を見ていた間に、立てこもりの起きた室内にはすでに警察が入り、捜査をしていた。爆発の原因などを調べる為に。

 そして犯人と人質になった者の二名の遺体が回収されたと。

 やはりあの二人はあの大規模な爆発で死亡したということだ。


 遺体はすでに外に運び込まれていた。

 遺体は納体袋に収納されていたので、爆発に巻き込まれたであろう、激しい損傷などが見れないことだけは水奈にとっては幸いだった。

 この遺体はこの後、家族に引き渡されるのだろう。

 激しい損傷の遺体など、それを見て家族は果たして平常でいられるのだろうか? と水奈は考えるだけでも心苦しい気持ちになる。きっと家族はもう正気でいられないほどにショックを受けるのではないだろうか、と。

「水奈、深く考えちゃだめ。ここで他者のことを考えたりしたわ、私達もこの任務ができなくなるわ。心苦しいのはわかるけど、それだと何もできなくなるわよ」

「わかってる……わかってるけど……」

 水奈はそう言われても、やはり考えずにはいられなかった。

 きっとこの人も、死を迎えるまではどれだけ恐ろしかっただろうか。

 わずかながらでも自分は救助される、と希望を持っていたのに、それが叶わずここで人生を無理やり終わらされるなんて、それは無念でしかない。

「じゃあ、やるわ」

 水奈の心情もわかるが自分達はやるべきことをやらねばならない。

ファリテは前の事件と同じように、魂を回収する為に被害者のそれを出現させ、声を聞いた。

「あれ……私は死んだのでは……あなたたちは誰ですか? ここはどこでしょう」

 魂はまだ、自分が死んだとわかりつつも、状況を理解できていなかった。

「残念ながら、あなたは亡くなってしまいました。私達はあなたを、お迎えに来た者です」

「ああ、私はやっぱり死んでしまったのですね」

 その現実を知ると、上田の魂いは悲し気な声を漏らした。

「岡崎君はどうなったのでしょう? 彼が火をつけたのなら、私と一緒にいたはずですが」

「その方も亡くなりました」

「そうですか……やはり私は巻き込まれたのですね」

 男性社員はガックリとした声でそう言った。

「私はこれからどうなるのでしょう? あの世とやらに連れていかれるのでしょうか?こんな理不尽に人生を終わらせたくない、家族に会いたい、まだまだ生きていたい。やりたいことだってたくさんあるのに。お願いします。助けてください。死にたくない。死にたくない」

 無念を吐いた上田の言う「助けてくれ」というのはやはり「生き返らせて」といった意味だろうか。懇願している。

「ごめんなさい。それはできないのです。あなたはいずれ、自分の人格も記憶も全て失います」

「そんなの嫌だ。私が私でなくなるというのか。死んでしまったらもう終わりか」

 この人だって生きていたかった。それが無理やりに人の手によって終わらされた。

 理不尽でしかない。これにより、もう生きていけない。家族に会うことも、やりたいことも何もできない。なぜ自分が、ときっと無念だろう。

「私は岡崎…‥あいつと同じ場所に行くのでしょうか。嫌だ、あんなやつと一緒になんて。

「安心してください。あの人はあなたと同じ場所へはいけません。私達が手を下します」

 ファリテはそう言うと、例のゆりかごを出現させた。

 男性の魂を赤子を抱くように、そっと優しくゆりかごに乗せる。

 これで被害者の魂の回収は完了だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る