第18話 罪人の魂の裁き

冥界にたどり着き、メディウムの間で報告する。

「メディウム様、ターゲットの魂を持ち帰りました」

 ファリテはそう言うと、日草の魂が押し込められた黒い檻をメディウムに渡した。

「ではこれからこの者をどう処理するかを水奈にも見てもらいます。これが私達の役目ということを」

 メディウムは檻を抱えつつ、画面を出現させ、片手で画面に円陣のような模様を描いた。

 すると、画面の下に円陣が現れ、それが赤く光り、禍々しい空気を放った。

「ここに入れば黒いゆりかごの間に繫がります、行きましょう」

 言われるがままに、三人はその円陣の中に入った。

 そして、そこからテレポートした先には、石造りの長い通路に出た。

 窓のない暗い空間で、ひんやりとした雰囲気はまるで地下だ。それもアニメなどで囚人を連れて行く地下の雰囲気にも似ている。

「黒いゆりかごの間ってどんなところなの?」

 これから行く場所とはどんなところなのか、と水奈はファリテに聞いた。

「処刑場、みたいなものかな」

「処刑場?」

 それはなんとも物騒な響きに聞こえる。

「魂をゆりかごから振り落とす、つまり叩きつけて消滅させる。ある意味では処刑というものと合っているのですよ」

 穏やかな外見と裏腹に、メディウムはそう説明した。

「罪を犯したものは、殺された者が安らかに次の世へゆりかごで送れるように、そうやって処分せねばなりません。亡くなった方が、転生した先で同じ人間に会わないように」

 同じ世界に、人を殺した者と殺された者が同時に存在してはいけない。それではまた同じ世で二人が遭遇する可能性もある。それには犯罪者も裁きを受けなければならない。

「ここが黒いゆりかごの間です」

 到着したのは、重い鉄の扉だった。

 メディウムはその扉の前で空中に画面を出現させ、操作する。すると、扉が開いた。どうやらキーを外したのだろう。

「黒いゆりかごの間」には魔法陣のような模様が床に敷かれていた。

薄暗い部屋だが、魔法陣の周囲は燭台によって火がともされており、禍々しい器具なども置いてある。まさに地獄か、拷問室という雰囲気が合っているかもしれない。

 その中央には黒い籠が置かれている。

 これもゆりかごの一種かもしれないが、とてもゆりかごと呼べるような穏やかなものではない。中には扇風機のように中央の周りを囲むように刃がついている。

扇風機というよりも、まるでミキサーのような刃だ。

もしもこんな場所にでも入れられたら、その刃が身体に突き刺さるだろう。

「さあファリテ、魂をこちらへ」

 ファリテはメディウムから檻を受け取ると、日草の魂を檻ごと刃のついた籠の中の中央に置いた。

「では一度、日草の魂を起こしましょう」

 籠の中に置いた檻へとメディウムは手を掲げ、その手からはまるで赤い霧のようなものが出て来た。これもまるで殺された者の返り血を思い出させる。

「なんだここは!? 俺の身体はどこ行った!? お前ら、さっきはよくも痛い目に遭わせてくれたな! おい、お前らさっさと俺を元の身体に戻せ! 早くここから出しやがれ! お前らもぶっ殺してやる!」

 檻の中で身動きもできず、脱出もできない日草の魂はそう叫んだ。

「俺はどうなるんだ!? 早く身体に戻せ! ここから出せ!」

「残念ながらあなたは輪廻の輪からは外されます。二度と現世に生まれることはできません」

 メディウムは慈悲もなく、冷酷にそう告げた。

「ふざけんな! 俺は死んだとしても生まれ変われないっていうのか!?」

 日草は意識がある分、どこまでも反抗的な態度だ。

 こんなに直前になって起こした魂がわめくのであれば。魂を眠らせたまま処刑を行えばいいのではないかと思うが、あえて直前に魂に意識がある状態でそのまま処刑をすることに意味がある。

「おい! 俺はどうなるっていうんだよ! そっちの女! 俺を助けろ!」

 この期に及んで日草はまだ叫ぶ。

 悪いことをしたのだから、もう人としては生きていけない。それだけ人を苦しめることをしたのだから、再び生を受ければ同じことを繰り返すかもしれない。命を奪っただけでなく、その者が大切にしてる人までを苦しめた。家族を失った者の苦しみは、この男にはわからない。

 ただ邪魔だったから殺したという理由だけだったのだから。

 魂をここで処理し、そして黒いゆりかごから叩き落す。

 ここで魂を消滅させることで、殺された方の仇を取る。

「では、裁きの時です」

 メディウムはゆりかごの傍にある、恐らくこのゆりかごを動かすであろう用途の専用のレバーの元へ移動した。

 いよいよ処刑が始まる。

 メディウムがゆっくりとレバーを引くと、ゆりかごが回転し始めた。

 ゆりかごが回転することで、そのかごの中央にある、刃もゆっくりと回転し始めた。

 これはまさに、ミキサーのようにこの中の物を砕くのだろう。

「た、助けてくれ! もう殺しはしねえから! おい、ここから出してくれ!」

 最後の最後にと日草は命乞いをした。ここで魂を消滅させられれば、永遠に生まれることができない。

「さようなら、永遠に苦しみなさい」

 メディウムは、最後にそう告げた。

いつもの母性のかけらもないような冷たい言い方だった。

 黒いゆりかごが徐々にスピードを増し、激しく回転し始めた。

 それはまるでミキサーのようにとてつもない速度で回転する。

「ぐあああ……と、止めてくれ」

 ゆりかごの中で魂が激しく刺激されていく。

 それは回転による酔いもあり、叫んでるのかもしれないが、何よりも恐ろしいのは刃だ。

籠の中にある刃にて、本当の意味でミキサーのようにその中にいる日草の魂は刻まれるのだ。

 ちゅいいいーんんと嫌な音が鳴り響き、魂は形が裂け始め、粉々になっているかのように、形を失っていく。

 そのうち、日草の声はしなくなった。恐らくもう話せる状態ではない。


「仕上げです」

 メディウムがそう言うと、日草の魂だったものが入っていた籠はゆっくりと浮遊した。

 すると、その下の床に描かれていた魔法陣が急に光を失って暗くなった。

そしてそこには床が開き、大きな穴が出現する。下には真っ暗な空間が広がっていた。

 底が見えず、それはまるでどこまでも深く、終わりがない穴に見えた。

「さようなら。あなたの魂はゆりかごから振り落とされます」

 メディウムがそう言うと、日草の魂が入ったゆりかごが下に向けられた。

 その穴に向かって、急に重力がかかったかのように、ゆりかごごと魂が勢いよく落ちていく。

恐らくあの速さで落とされた魂は、物理的な力がかかるぶん、叩きつけられれば一たまりもないだろう。

しばらくして、底の方から何かが砕ける音がした・

 黒いゆりかごごと、この部屋から深い穴へと振り落とされたのだ。

 ゆりかごは粉々に砕けたのだろう。恐らく中の魂も同時にそうなったのだろう。

 魂は衝突して、砕けるように、散ったということだ。

 これでもうこの魂は二度と輪廻の輪には入れない。二度と生まれ変われない。

 

 一連の処刑が終わり、メディウムはようやく一仕事を終えた、とばかりにいつもの優しい表情を取り戻した。悪魔のようだが、やはり女神である。

「人を殺した者は、こうやって裁きを受けるのです」

 たった今、命乞いした者を凄まじい処分方をしたというのに、メディウムにとってこれはいつもの仕事でしかないのだろう。

「さあ、これであなたたちには次にやるべきことへ移ってもらいますよ」

 この魂の処分だけが重要ではない、クレイドルデスゴッド達には最後の役目があるのだ。

「死んだ人へのアフターケアよ。私達は今度は春樹さんの家族へ会いに行くの。そして、最後に家族と……うん、ここから先は実際に行けばわかるわ」

 ファリテは次にやるべきことを説明した。そう、これが一番重要だ。



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