第12話 事件現場に行くということ
水奈はその映像を最後まで見届けた。
普通の女子高生ならばこういった場面を見れば発狂するだろう。
しかし、水奈は自分が死んだ際に無茶苦茶になった自分の身体を見たからなのか、それともこの任務を受けることになったという諦めの感情の為か、そんなに恐怖を感じなかった。
「酷い……」
水奈はその現場の映像を見て、ただただ残酷だと思った。
深夜のコンビニで、一方的に押し入ってきた強盗により、店員は殺され金を奪われた。
目的の邪魔になったから殺された。
何も悪いことをしたわけでもない、ただ自分に与えられた仕事をしていただけなのに、要求を飲まなかったからというだけで犯人の自分勝手な都合で巻き添えにされたのだ。
この被害者はどれだけ恐ろしかっただろうか。
突然店に乗り込まれ、無茶な要求をされ、その要求を飲まなかったが為に、殺された。
ほんの先ほどまでは自分が死ぬだなんて思っていなかったのだ。
周囲に人がいなかった為に、助ける者もおらず、助けを求めることもできなかった。
軍人でも警察官でもなんでもない。戦闘能力を一切持たない一般人が武器を向けられる。それはどれだけ恐ろしいことか。叫んでも誰にも助けてもらえない状況。絶望的な状況。
そして、理不尽に凶器で身体中を刺され、絶命までにどれだけの恐怖を味わい、苦しみ、痛かっただろうか。
「これが、今回選ばれた人です」
メディウムはこのすでに起きていることへやることを説明した。
これはこの人物が死ぬ直前に起きた出来事である。
メディウムはこうやって、死ぬ者の魂を回収する為に探知する能力を使う。
その能力で選ばれた者の死ぬ瞬間を映し出し、こういった場面を死神達に見せるのだ。
「私達ができるのは死者への干渉であって、私達の姿も生者には見えません。なので状況を変えることはできないのです。ですが、こうして事件のあった場所から死者の魂を回収するのが私達の役目なのです。」
あくまでも見ることができるのは、事件が起きた直後の人が死に至るまで。
すでに終わっていることの映像を見るだけだからあの現状を変えることはできない。
こういった現場を見せ、なおかつ死ぬまでを見ることができても止めることはできない。
しかしだからこそ、その魂を回収するのが自分達なのだろう。
この死者がどういった苦しみを味わいながら死んでいったのか、それを目にすることで、この者にはどういったケアが必要かを実感させる。
「私達は、その男性の魂を回収することと、遺族のケアをするのです。そうすることで死んだ者の魂も安らかになり、残された者も悲しみを和らげる」
これから行く場所はそのくらい責任の重い仕事なのだ。
「あの、メディウム様……」
「なんですか?」
「私達が、この事件の目撃者として警察に伝えるとかはできないのでしょうか?」
自分達はこの事件現場を見ている。それならば殺した者の犯人の姿も見える。
それをその現場に来た警察などに伝えることはできないのかと。
「先ほど言ったとおり、私達にできるのは死者への干渉であって、生きてる者には干渉できません。向こうから見れば私達の姿も見えないでしょう」
「そうですか…‥」
やはりここにいる死神達にできることは魂の回収が目的なのだ。
そうなると、そういった事件解決の手がかりになるものを生きてる者に伝えるといったことはできない。
「わからないことがあるなら、あとはファリテに聞きなさい。では、お願いしますよ」
メディウムは水奈とファリテに門に向かうように指示した。
「さあ、行くのです」
門の先に移動すると、水奈がここに来た時と同じ広間があった。
今日はその中央に、金色に渦巻く空間が足元にできていた。
「この空間が私達がここと現世を行き来できる扉。今からここに入るのよ」
これが現世へと繋がる扉なのだろう。
水奈が目覚めた場所がここだったように、どうやらここは現世とこの場所を繋ぐ場所なのかもしれない。
「ここをくぐれば現世よ。あなたがついこの間まで住んでいた世界」
もう二度とあの世界に戻ることはないと思っていたのに、再びそこへ行くのか。
水奈にとっては、自分が死んだことにより、もう二度と行くことはないと思っていた世界。
しかも今度は死神という重い役目で。自分はすでに死んでいるというのに、そんな形で今度は行くのだ。
「なんか……怖い」
水奈は怖くなってきた。これから行く場所には死んだ者がいる。
先ほど人が死ぬ場面を見せられた。今度は自分達がそこへ行き、なおかつ死者の魂を回収するのだ。死んだ者の運命を自分達が握ることになる。
「人の生死に関わることなんて、今までなかった」
水奈にとって、人の死というものは恐ろしいものでしかない。
自分はすでに死んだ存在なのだから、恐ろしいというとなんだかおかしなものでもある気はする。
しかし医師でもない。あくまでも一般人としての生活をしていた水奈に人の生死を扱う、そんな重いことができるのか。
「ここで怖がってたら、今後この仕事なんてできないわよ」
望んでこんな仕事をしたかったわけではない。この役目だって無理やりにしろと押し付けられたようなものだ。断ることもできず、巻き込まれたような状況でもあった。
「こうしている間にも、現世では次々と亡くなる人が多いわ。私達が行かないと、さっきのあの人の魂もちゃんと回収できない。さ、行きましょ」
ファリテに手を引かれる形で、二人は金色の空間に飛び込んだ。
下へ歩き進めると、足元が階段のように降りられる感触がする。
足の踏み場は見えないが、段差になっているようだ。そこを階段のように降りることができる。
扉である空間の中は、まるで幻想的な世界だ。周囲がまるで異次元のように金色に輝き、風景も何も見えない。ただ目的の場所に向かって歩くだけなのだ。
ここを歩いて行けば、きっとあの場所に出るのだろう。先に進みたくないが、ここまで来ればもう研修として後には引けない。死んだ者がいる場所に行くなんて恐ろしくもあった。
目的地に向かう途中、水奈は歩きながらファリテにあることを聞いた。
「この任務のターゲットってどうやって決めるの?」
クレイドルデスゴット達が魂を回収しに行く対象となる者はどうやって選ばれるのか。
ただの抽選なのか、それとも意味があるのか。
先ほどの男性店員はなぜ自分達に選ばれたのか、それは疑問だった。
「この世でもうすぐ命を落とす人を探し当てて、より一層私達の役目が必要そうな者達の場所へ行くのよ」
それは答えになっているのかどうかよくわからない回答だった。
必要そうな者、とはではその必要という基準はどんなものなのか。
「私達が任務に行くのは誰なのかは直前までわからないけど、この仕事だって大切な役目よ」
ファリテはそう答えた。
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