魔物の友達
俺はさっきの森に1人で訪れていた。なんとなく、1人になりたかったからだ。そして、頭の中を整理する時間が自分には必要であると感じたからでもある。転生前からの習慣だった散歩をしたくなる時って、「塁」から「ルイ」に変わっても、なくならないのだ。自分を失っていないようで安心した。それに。ゴンゾーとの思い出も俺の中で生き続けている気がして、少し嬉しくなった。ゴンゾー、助かったのかな。今頃、元気にしているかな。
森の深くまで入り込み、川沿いをゆっくりと歩いていく。空気が澄んでいて、とても美味しい。
少し疲れてきた。俺は川の岸辺に腰を下ろし、じっと水面を見つめた。自分の美しい姿が映り、思わずうっとりする。しかし気を取り直し、考えごとを始める。
ゴンゾーは、可愛かったなあ。思えば、俺はゴンゾーなど動物にしか、本当の意味で心を開けていなかった気がする。犬は何でも敏感に察しとるから、俺と分かり合えたけど、人間に対してあんなに無愛想にしていたら、「能面」とか言われるのも当然か。はあ、ゴンゾーが恋しい。異世界転生したのはいいが、もうちょっとだけゴンゾーと遊んでいたかったな。あの人生は、思えばそういう意味で動物がつきものだった。
そんなことを考えながら水面をぼんやりと眺めていると、俺の背後に何やら丸いものが映っていることに気づいた。
「オメエ、さっきのニンゲンじゃねえか。こんなところで何してんだ?」
「スライムか」
「オイラ、ロピーだ。よろしくな」
「ロピー? 名前か?」
「そうだ! オメエ、ニンゲンにしてはいいやつだから特別に教えてやったのさ!」
「ふふっありがとうな」
「オメエは?」
「ああ、俺はルイ」
「ルイか。ルイとロピー。もう友達だな。オイラ、ニンゲンの友達ができたのははじめてだ」
「ははっ。俺も魔物の友達ができたのなんて初めてだよ。そんなことよりロピー。川の中を覗いてごらん。何が見える?」
ロピーは不思議そうに、水面を覗き込んだ。
「オイラのカオ以外は何も見えねえよ」
「そう。それでいい」
ロピーは怪訝な表情で俺の様子を伺っている。俺の次の言葉を待っているようだった。
「水面に映った自分の顔、綺麗だろ?」
「それは、川が綺麗だからだろ」
そう言って、ロピーは笑った。俺も笑った。2人で笑い合った。
「そうなんだよ。川は、人の内面を映すんだ」
「えっ」
「みんな、本当は綺麗なんだよ。どんな悪魔みたいな怖い見た目してる奴だって、本当は綺麗なんだ。それは川が全部、教えてくれるさ」
「ほぉ〜」
ロピーは、感心したようにうんうんと頷いた。
「オメエの言ってること、難しくてオイラわかんねえけどさ、いいこと言うね。ニンゲンって賢いんだな」
「ははっ」
ロピーはいいやつだ。可愛いし、ロピーと話すのは癒される。少しだけゴンゾーを思い出す。
そうこうしていると、近くでいくつもの悲鳴が聞こえてきた。俺は思わず立ち上がった。
「なんだ!」
「ヤバい、オイラの仲間達の方だ!」
ロピーは青ざめていた。元々青いけど。
転生したらスキルが「説得」だった件について。 星の国のマジシャン @wakatsukijaji
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