衝撃の事実

「ただいま帰りました!」


 とりあえず元気よく挨拶してみる。すると少女に頭を引っ叩かれた。



「ひぃっ! 何すんだよ!」



「ルイ! 屋敷では静かにしないとダメでしょ! アンタ、今日何かおかしいよ?」



 少女は心配そうに俺の顔を覗き込む。この時俺は、ヒロインというものは凄いと思った。みんな顔立ちがはっきりしていて、美しい。そうだ。俺は自分の顔を鏡で確認してみたくなった。



「お手洗いはどこ?」



「アンタって人はッ! 自分家でしょうが!」



「いてぇ! お前いちいちなんなんだよ!?」




「お前ですってぇ?」




「痛い! わかったよ、悪かったよ! 僕が悪うござんした!」



 俺はどうして自分が叩かれるのか、まったく理解できなかった。自分とこの娘との関係性も掴めないし。腹立たしい。

 なんだかんだ無理に頼んでお手洗いに案内されると、とても大きな姿見があるのに気づき、前に立ってみた。




「美しい…」




 あまりの自分の美しさに、俺は思わずそう呟いた。目鼻立ちがくっきりしていて、蒼く澄んだ瞳。金髪で落ち着いたヘアースタイル。それに全身はというと、とにかく脚が長い。スタイルがいいが、それでいて筋肉もある。隆々とまではいかないが、恐らく細マッチョだろう。


 元の場所に戻ってくると、年配の夫婦が2組、そこにはいた。俺は軽く会釈した。よくわからないまま会釈したのでまた例によって叩かれるかと不安だったが当の彼女は夫婦達が現れ、いきなり猫を被り出した。

 


「おい、ルイ。どこに行っていたんだ。ちゃんとラザンティ伯爵にご挨拶なさい。それと許嫁のアルサ様にもな」



 夫婦の片っぽの方の男性が、偉そうに指示してきた。恐らく父親だろう。というか、今聞き捨てならない言葉を耳にした気がする。許嫁? そしてこの娘はアルサ。ようやく関係性が見えてきた。この娘、許嫁だったのかよ。しかも、当たりキツすぎるだろ。まったく、先が思いやられる。



「ラザンティ様。アルサ様。ご無沙汰しております」



 とりあえずありきたりに挨拶すると、ラザンティ伯爵は恭しく一礼してきた。こちらはいい人みたいだ。ただ、気に入らないのは、ラザンティ伯爵の後ろに隠れるように立っていたアルサも、さっきまでの態度とはうってかわって、よそよそしく俺に頭を下げてきたことだ。話が違うじゃないかよ!



「これからご子息は学園に通われるのですってねぇ」



 ラザンティ伯爵夫人が口を開いた。これもまた聞き捨てならない言葉だ。ただ、今は黙っておこう。口を挟めるような空気ではない。大人同士の会話をしている。



「ええ。息子にはパルシテント学園に通わせようと思っておりますの」



 この後もよくわからない会話がひたひたと続いたその中で俺でもなんとなく理解できたことは、俺はアルサと既に婚約していることと、学校に通わなくてはならないということだった。

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