今更な気づきと後悔

制裁が終わり天使の手によって私達はダンジョンの外へと追い出された。

 

 弱くなった事実を受け入れられない気持ちと弟の幻覚が怖い気持ちがぐちゃぐちゃになった私は仲間を置いてすぐに誰もいない私だけの家へと帰り引き篭もった。

 

 なんでこんな事になったのだろうと思った。

 

 家で私の力が本当に没収されたのか試した。そしてもう『英雄』の力も弟の力も使えなくなった事が分かった。本当に没収されていた。

 

 引き篭もってから約三日、家の中でも弟に殺されかける幻覚を見る。その幻覚から逃げるために一回寝たらゾンビみたいに体が所々腐った姿になった弟に殺される夢を見た。

 

 そんな幻覚もたまに優しくしてくれる。

 

『姉ちゃん大丈夫か?ちょっと待っててね、ご飯作ってくるから。』

 

 声が聞こえる。死んだはずの弟がニコニコと優しい笑顔を向けて来る。まるで本物みたいだ。

 

「代夏…。」

 

 優しい代夏の幻覚を見てつい名前で呼んだ。返事は返って来ない。

 

 いつからだろう、代夏を名前で呼ばなくなったのは。

 

「私が…『英雄』になった後…。違う…追放した後。」

 

 ああ、そうだ。私が代夏を名前で呼ばなくなったのは私が『英雄』になり代夏を追放したあの日からだ。そしてあの日から私がこうなる事は決まっていたのだろう。

 

 私は代夏に理不尽な仕打ちをしたのだ。こんな人間が天使になんかなれるはずが無い。そんなのちょっと考えれば分かる事だった。そして私は初めから罪を犯していた事を今になってようやく分かった。

 

「ああ、ごめんなさい!ごめんなさい代夏!私は代夏になんて事を!代夏が何度もダンジョンで死にかけたのも、代夏が高校やギルドで虐められていたのも、代夏が今まで過ごして来たこの家を出ていったのも、代夏が死んだのも全部全部私のせいじゃない!」

 

 私は今になって過去の行動を後悔した、代夏はもう死んでいるのに今になって代夏に謝罪した、あのボスの言う通り私は弟が大事だった、姉弟二人でまた仲良く過ごしたいと願った。

 

 そんな事もう出来ないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る