第15話 ふゆきの巨大弁当

 ふゆきは鞄の中から、大きなお弁当を取り出す。

 

「巧さんのために作ってきました。約束した通り、残さずに食べてくださいね」

 

 弁当の蓋を開けると、おむすび6個、巨大から揚げ4つ、卵焼き4個+αが入っていた。おなかがすいていたとしても、とても食べ切れる量ではなかった。


「ふゆきさん、弁当の量が多すぎないかな」


「男の人なので、これくらいは食べられると思っていました」

 

 一般男の胃袋を明らかに過剰評価している。これを食べ切れるのは、バリバリのスポーツマンくらいだ。


「僕はそこまで大食いではないよ」


「すみません。次回からは量を調節します」


 彼女の胸の内では、次も作る気持ちがあるようだ。巧はありがたくもあり、申し訳ない気分になった。


 ふゆきの体はどういうわけか、ブルブルと震えだした。気温は高めなのに、どうしてしまったのだろうか。


「巧さん、背中を撫でてもらえないでしょうか」


 心が軽くなってほしい。その一心で背中を撫で続ける。


「ありがとうございます」

  

 ふゆきは空に向かって、大きな息を吐いた。


「体が震えた理由は、過去を思い出したからです。男たちにしつこく付きまとわれたことは、後遺症として残っています」


 ストーカー被害で心を苦しめられる。美人にはよくありがちな、シチュエーションといえる。


「僕とは普通に話しているけど・・・・・・」


「巧さんは一緒にいるだけで、心に落ち着きを与えてくれるんです。他の男とは一緒にいられないけど、巧さんならOKです」


 地味で目立たない男のどこを気に入ったのか。頭の中に新しい謎が浮かんでいた。


「時間があまりないので、弁当を食べてください」


「ふゆきさん、ありがとう・・・・・・」


 巧は弁当の半分を食べ終えたところで、大きなゲップをしてしまった。


「巧さん、お水です」


「ふゆきさん、ありがとう」


 水分補給したことで、ようやく元気を取り戻すことができた。


 ふゆきは鞄の中から、自分用の弁当を取り出す。大人二人分はあろうかという、超特大弁当だった。


「でか・・・・・・」


「たくさんのカロリーを使うので、昼にたくさん食べるようにしているんです」


 ふゆきは箸を左手に持つと、すさまじい勢いで食べ始める。巧もつられるように、巨大から揚げを口にする。

 

 巧は弁当を完食したあと、トイレに一直線に向かった。通常の倍以上を食べたことで、おなかを壊してしまったらしい。

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