第6話 ふゆきと出会う

 ひとみから解放された男は、のびのびとした生活を送っていた。破局をするだけで、心はこんなにも軽くなるとは思わなかった。あいつといっしょだったことは、メンタルに大きなマイナスを与えていた。


 悪魔から解放された男は、夕食の買い物に出かけていた。牛肉、玉ねぎ、じゃがいも、人参と書かれていることから、カレーライス、シチュー、肉じゃがのいずれかであると推理した。三つの料理はすべて、巧の大好物である。


 ラブホテルの見える横断歩道の前で、50くらいのおじさんと手をつないでいる、ひとみを発見。年齢の近い男だけでなく、年輩の男に手を出しているとは思わなかった。


 複数の男に手をかける女は、パパ活にまで手を染めていた。私利私欲を満たすためなら、どんなこともやり遂げる女。近い将来に自滅するのは確実だ。


 未成年とパパ活をした場合は、罪に問われる。パパ活に手を出した男は、そう遠くないうちに地獄を見ることになる。性欲欲求を満たすために、すべてを失うのはおろかすぎる。


 ひとみはお客様に対して、愛想笑いを浮かべていた。あの表情を見て、お金として扱っているのは伝わってきた。


 コンビニの10メートルくらい前で、同級生くらいの女の子に声をかけられた。


「あの・・・・・・」


 巧は女の子を一目見た瞬間に、心を吸い寄せられていくのを感じた。彼女の発しているオーラは、他の女をあきらかに上回る。月とすっぽんは言い過ぎだけど、それに近いものはあった。


 女性の視線は、ひとみに向けられた。


「パパ活をしている女性は、いろいろな男に手を出しているようです。一週間前は別の男と手をつないでいました」


「あの女を知っているんですか?」


「はい。いろいろな男に手を出して、お金を儲けている大悪人ですね。正確な年齢はわかりませんが、おそらくは未成年でしょう」


 女性が情報に精通しているというよりは、己の情報弱者ぶりを思い知らされた気分だった。


「あの女は16歳です」


「やはりそうですか。18歳以上にはどうしても見えませんでした」


 ふゆきは息を小さく吐いた。

 

「どうして年齢を知っているんですか?」


「クラスメイトですから・・・・・・・」


「そうだったんですね」


「僕はあの女にひどい目に遭わされました」


「どんなことをされたんですか・・・・・・」


 巧の負の過去を、女性はしっかりと聞いてくれた。


「傷を慰めるために、頭を撫でて差し上げます」


 とっても優しそうな女の子に、頭を撫でてもらえる。都合のいい夢を見ているのかなと思った。


 女性はやさしい手つきで、角刈りの頭を撫でてくれた。


「傷を少しは癒せましたか?」


「はい。おかげさまで・・・・・・」


 同級生くらいの少女は、真っ白な歯をのぞかせる。


「お役に立ててよかったです」


 ひとみ、50くらいの男は、視界から完全に消えていた。50メートル先はラブホテルなので、そちらに向かったと思われる。元カノは一円でも多くもらうために、あらゆる手段を用いるのかなと思った。


 頭を撫でてくれた女性は、頭を深々と下げる。


「名宮ふゆきといいます。はじめまして」


「伊藤巧といいます。はじめまして・・・・・・」


 会話はあいさつで切れてしまった。お互いのことを知らないため、続きを話すのは難しいのかもしれない。


 ふゆきは鞄の中から、メモ用紙、シャープペンシルを取り出す。


「私の連絡先です。よかったら、連絡してくださいね」


「初対面なのに、連絡先を教えてもいいんですか?」


「普段は教えませんけど、今回は特別です。私のアドレスについては、誰にも漏らさないようにしてくださいね」


「ありがとうございます」


 初対面の女の子と、アドレスを交換できるのは奇跡だ。都合のいい夢を見ているのではないかと、疑ってしまった。


 ふゆきは頭を下げる。


「私は用事があるので、これで失礼します。連絡はあとで取りましょう」


「僕も用事があるので、これで失礼します」


 二人は一歩を歩みだした瞬間、同じ方向であることを察した。


「あちらの方角にいかれるんですか?」


「はい。スーパーに行きます」


「私も同じです。スーパーまで一緒に歩きませんか?」


 巧は断る理由もなかったので、ふゆきの提案を了承する。


「いいですけど・・・・・・」


「ありがとうございます・・・・・・」


 女性は嬉しいらしく、純粋な笑顔を見せる。巧もつられるように、笑みを作っていた。

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