第9話
「
おっらっ、と吠えて、メラメラと燃える大剣を振り下ろした。
「っぎゃぁっ!」
ミシマは情けない悲鳴を上げ、腹で、カルロスさんの剣を受けた。
ミシマは慌てて立ち上がり、逃げ出そうとするがカルロスさんは素早い動きで、一瞬見せた背中に鋭い一撃を加えた。
「ひっ……」
何とか立て直そうと、地面を這いながら逃げるが、もはやそれは自殺行為に等しかった。
背中と腕、足をそれぞれ攻撃し、さらにそれを続けていく。
「や、止めて……」
だんだんと火の勢いが弱くなる。最近の魔法には、平和を実現するために時間制限があるものが数多くあり、炎の剣の効果が切れ始めたのだろう。だが、それでも大剣は大剣。
「俺のファニーに何かしてる奴には、死んでもらう」
ポッと、顔が熱くなった。
「ひ、す、すみませんでした、どうか命だけは……」
顔を真っ青にして額を地面にこすりつけている情けない経営者の背中に、カルロスさんは重力に任せて剣を振り下ろした。
「ぎゃっ」
この軽い一撃で、ミシマはひっくり返ってしまった。
「あ、ありがとうございました……」
「まあ、マイハニーが痴漢に合っているのなら、それを許すことは出来ない」
「や、止めてください、マイハニーなんて……」
心臓が騒いでしまう。
――けど、ちょっと嬉しい。
「そうなんだから仕方がないだろう」
この言い方がダメなのだ。
何の表情も無く、低くハンサムな『イケメンボイス』でこんなことをさらりと言われてしまうと。
「そもそも、俺の歩くスピードが速すぎたのと、女に絡まれてすぐに振り切れなかったのがいけないところだった。すまない」
「い、いやいや、そんなことは無いですよ」
「いや、十分問題だ。……許してくれるか?」
全くの無表情だが、『許してくれるか?』という問いには、どこか甘えたような印象があった。
「もちろん。こっちが守ってもらってるんですから」
「そうか……ありがとうな」
と、カルロスさんはいきなり私を両手で引き寄せ、そっと抱きしめてきた。
頭が当たっている胸板はとにかく分厚くて大きかった。首筋には、薔薇の棘を描いたタトゥーが入っている。腕もゴツゴツしていて、明らかに鍛えていることが分かった。
「すごいですね。鍛えてるんですね」
「まあな。グロリア王国のそこそこ名が売れてる剣術道場で教えているからな」
「……カッコいいです」
少し躊躇いながらも、私は思い切って言ってみた。
謝られてばかりなのだから、そのお返しと言っては何だが褒めないと。
「ありがとな」
フフ、と笑って、カルロスさんはそっと私の頭に手を添えてくれた。
私は、ただ口をもぞもぞ動かしていることしか出来なかった。
だが、そんな幸せな時間も束の間だった。
「やはり、お嬢ちゃんはこの無感情冷徹男の彼女だったのか……コケにしよって……」
ハッと、私とカルロスさんは振り返る。
恨めしそうな顔をした、高級スーツをまとうハゲ眼鏡変態ジジイ……。
「起きて来ていてたのか」
面倒くさそうに、カルロスさんははぁ、と息を吐いた。
頭上には、カクカクした細字で記されているHPが浮かんでいる。残り六十。
「あと六十を消費すれば……手伝ってくれ」
「え?」
「頼む」
そう言って、カルロスさんは大剣を持って飛び出していった。
「っらっ!」
ザクっという音がして、ミシマの腕から血が噴き出てくる。
「畜生、もうお前にはやられねぇよ」
ミシマは銃を構えた。
「また金を出すのか」
「当たり前じゃないか、そりゃあ実弾を使うよ」
ニヤリと不敵に笑い、銃弾を見せつけ、ミシマは銃を構えた。
「ヤバい」
大してヤバくなさそうな声でカルロスさんは剣を構えた。
「いいのかぁいぃ?」
カルロスさんは無言で相手を睨みつけている。
ミシマはウフフッ、と笑い、引き金を引いた。
パパーン
私は思わず目を閉じた。
シューという、火薬の臭いがする。
恐る恐る目を開けば、カルロスさんの黒マントが少し焼けていた。
「さっきのは、威嚇射撃。次は、容赦ないからねぇ? 今すぐお嬢ちゃんを渡さないとねぇ?」
「わ、私は行きませんっ」
少し涙腺が緩んでいる状態で、私は毅然と言い放った……つもりだった。
「ふぅん、良い度胸だ。ならもう、容赦は、しない」
蛇が舌をちょろちょろと出し入れするかのような顔で、ミシマは弾を詰めた。
「ま、魔法解放、
ボン、という音とパン、という音が複雑に混じり合った。
モワモワという魔法を使うことによって出る煙と、火薬が爆発した煙がどちらかどちらか分かりません。
「わっ」
と、煙に身を隠し、カルロスさんもタンスの後ろにやって来た。
「良くやってくれた」
そっと頭を撫でてくれる。
「あとは、俺に任せろ」
煙が晴れ、目の前にミシマが迫っていた。
「そんなところにいたのか。畜生、都合のいい時に変なもの出しやがって」
「俺の彼女はバカだが、意外にも気が回るみたいでね」
多分褒めていないが、カルロスさんに言われるのなら何でも褒め言葉だった。
「クソっ、魔法解放、
銃をカルロスさんに向けた瞬間だった。カルロスさんは目にも見えぬスピードでミシマに近づき、手首の関節を百八十度折り曲げ、銃口をミシマへ向けさせた。
「な、何ッ……!」
シュバッ
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