第12話 反抗的な態度のクズ野郎
その日は明日に備えて、早めに就寝した。俺にしては珍しく、早めの入眠だった。
体力を蓄えないといけない。少しでも長く眠って、翌日の作戦を成功させる確率をあげないといけない。これで俺の睡眠不足で成功確率が9%とかになったら、笑い話じゃすまないからな。
地下施設は暗闇のくせに、夜は明かりが多かったりする。そっちのほうが監視しやすいからなのだろうが、睡眠の邪魔であることこの上ない。
結局緊張して、あまり眠れなかった。とはいえ、それは言い訳にはならない。どれだけ睡眠不足でも、作戦は成功させなければ。
翌日……俺はいつものように地下監獄で働いていた。
この場所でなにが行われているのかなんて知らない。だけれどさらに最下層に怪物を飼っているという情報があるあたり……まぁ、合法な施設ではないのだろうな。
そんなこんなで働きながら、ボラを探す。事前の打ち合わせ通り、ボラは少し高めの場所に位置していた。すぐ近くには階段があるので、その階段から転がり落ちればよいのだろう。
というわけで大きめの岩を持って、階段を登り始める。いつもなら作業をサボるために小さめの岩しか運ばないが、今日は転げ落ちるために――
「おい、お前」なぜか看守に話しかけられた。「珍しいな。お前がそんな大岩を運ぶとは」
ヤッベ……普段サボってる弊害が出た。いつも手抜きしてるから、珍しくやる気になってるのがおかしかったようだ。
「や、やだなぁ……」とにかく、ごまかさなければ。「労働の素晴らしさに気づいただけですよ。いやぁ、汗水垂らして働くってのは良いもんですねぇ」
「お前が敬語を使うときは、なにか企んでる時だよな」なんでバレてんだ。そんなに俺、わかりやすい? 「また脱獄でも企んでるのか?」
「まさか……もう、あんな拷問は御免ですよ」
実際、脱獄がバレたときの拷問はなかなかの苦痛だった。毎回死ぬかもしれないと思うような拷問だったが……
今回の脱獄計画は、地下の怪物を使った大規模なものだ。それの首謀者が俺だとバレたら……今度こそあの世行きだろうな。
だからこそ、ここは全力でごまかさなければ。
「とにかく……早く行っていいですか? この岩、結構重いもんで」
割と無理して担いでいるのは本当なので、階段の途中で引き止められるとつらい。
「そうか……」看守はニヤリと笑って、「じゃあ、もっと追加してやるよ」
そう言って、看守は近くにあった岩を俺が担ぐ岩に乗せた。
これはラッキーである。
「あ……!」
俺はその岩の重みに耐えきれなかったふりをして、階段から転げ落ちた。そして小さめの岩のほうにわざと当たって、階段の下のほうで大の字になった。
「おい! なにしてる!」ボラの声が聞こえてくる。どうやら看守と話しているらしい。「なにがあった」
「あ、いや……あ、あいつが勝手に階段から落ちて……」
奴隷に岩を乗せた結果、その奴隷が転げ落ちて死んでしまった。その事実は看守としても問題があるのだろう。しどろもどろでごまかそうとしていた。
「大丈夫か?」ボラが俺に駆け寄って、心臓に手を当てる。「……ダメか……即死のようだな……」
当然俺は生きているけれど、ボラが死んだことにしてくれた。
ここまでは計画通り。あとは怪物のエサにされるのを待つばかりである。
「いつも通り、処理してくるよ」ボラが俺を担いで歩き始める。「事故死ってことにしとけ。奴隷が1人や2人死んだところで、大して影響はないからな」
ボラも演技がうまいものだ……本当に奴隷が死んで、冷たい対応をしている看守の1人に見える。
運ばれている最中、言ってみる。
「大した演技力だな」
「余計なことは喋るな」
まったくもってその通りなので、さっさと口をつぐむ。
しかし……アホな看守のおかげで割と簡単に死んだふりができた。勝手に足を滑らせたのではなく、看守が邪魔をしたから足を滑らせたという演技が容易にできた。
看守の質が下がっているということに、感謝しないとな。
そのまま目をつぶって、どこかに運ばれる。こうして担がれているだけだと、どこを歩いているのか見当もつかない。とはいえ目を開けるわけにもいかないので、黙って運ばれていくことにする。
しばらくして、
「お……」他の看守の声がする。「また死体か?」
「ああ。足を滑らせてな」
「ふぅん……」看守が俺の顔を見ている気配がする。「……こいつ、フォルだよな? あの脱獄ばっかして、反抗的な態度のクズ野郎」
誰がクズ野郎やねん。
「そうだな」演技とはいえ、肯定されるとつらい。事実なのが余計に堪える。「憎まれっ子世に憚るというが……どうやらアテにならんことわざらしいな」
「そうだな……」
看守の顔が近づいてくる。死んだふりだとバレたのかと思って緊張してしまったが……
「こうしてみると、かわいい顔してんなぁ……」不意に看守の指が折れの顔をなでた。「生きてる頃はヤクザの下っ端みたいな顔だと思ってたが、大人しくしてれば悪くないじゃないか」
顔をなで回される。悲鳴を上げそうなくらいゾワゾワしたが、なんとか無反応で耐え抜く。
看守は続ける。
「まだ温かいな……」
「そりゃ死んだばっかりだからな」
「ふぅん……本当はまだ生きてたりしてな」ドキッとしてしまった。顔には出ていないと思う。「まぁ、どっちでもいいか。どうせ……あの怪物ちゃんのエサになるだけなんだ。今は生きていても、同じだよな」
「そういうことだ」
ボラは強引に話を打ち切って、また歩き始めた。
そしてどこかで立ち止まって、
「おいフォル……」小声で俺に言う。「そろそろ落とすぞ。そうなったら……目の前には怪物がいる。せいぜい殺されないように粘るんだな」
「あいよ」
生命力と悪運には自信がある。怪物だかなんだか知らんが、俺を殺せるものなら殺してみろ。
そうして俺はボラの手から離された。
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