第10話 ギャング

 思わぬ仲間……看守が仲間に加わって、作戦会議。


 の前に聞きたことが2つばかりある。


「他の看守は?」

「まだトランプをやっている」アホか看守。「私が見回りに行くと言ったら、安心してトランプに熱中していたよ。まったく……最近は看守の質も落ちていて困る」

「脱獄するならラッキーだな」

「……そういうことだ」


 看守が無能なら脱獄確率も上がるだろう。


「もう1つ質問。あんた、名前は?」

「ヴォラーレ。発音しづらいから、ボラって呼んでくれ」シィラみたいなもんか。「まぁ、名前なんてどうだって良いだろう」

「まぁそうだけどよ……区別しづらいからな」看守と呼んでいたのでは、他の看守と紛らわしい。「ともあれ、俺の質問はこれで終わりだ」

「そうか。じゃあ、話を戻すぞ」それからボラは話題を戻す。「この地下牢獄を脱獄したやつは、ほとんどいない。脱出不可能といっても差し支えないくらい、完璧な監獄だよ」


 なるほど……道理で俺が脱獄しようとしても、手応えがないわけだ。


「質問があります」シーラが言う。「ほとんど、ということは誰かが脱獄したのですか?」

「ああ。その昔……ギャングが1人脱獄したんだ。ここから逃げ出したやつは、そいつ1人しかいない」たった1人か……「まぁ当時のセキュリティは今とは比較にならないくらい高かったからな。今なら……もう少し脱獄しやすいだろう」


 その最高レベルの過去のセキュリティを1人で突破したギャングがいるのかよ……なかなかのバケモノだな。


 それからボラはため息をついてから、愚痴を言う。


「昔はギャングが街の平和を守ってたんだけどな……」

「ギャングが?」

「ああ。たしかにあいつらははみ出し者で、悪いこともしてた。だけどむやみに暴れることはしなかったし、街の危機となれば国よりも率先して動いていた。要するに……自警団的なギャングだったんだ」


 ああ……そういえばそんな感じだった時期もあったような……


 しかし過去形ということは……


「今は違うのか?」

「現国王が、ギャングの排除政策を打ち出したんだ。結果としてギャングたちは殺されるか、あるいはこの地下に追いやられた。結構大規模な政策だったらしいからな……大多数のギャングが淘汰されたよ」

「つまり、生き残ってるやつもいるんだな?」

「ああ……ついでだから、1つ警告しておく」なんだか重要な警告のようだ。「もしも地上に出てギャングを見つけたら、そいつらのことはもれなくバケモノだと思え。国を敵に回して生き残ってるような奴らだからな……」


 今生き残っているギャングは、政策として狙われて生き残ってるやつってことか……

 なるほど。そりゃバケモノ揃いだろうな。


「この監獄から脱獄したってやつは生きてるのか?」

「……脱獄してすぐに殺されたって聞くよ。燃やされて殺されたとか。あんな強いやつでも殺されるってことは……まぁ上には上があるってことだ」


 バケモノよりも強いバケモノがいるってわけだ……俺なんかじゃ手も足も出ないだろうな。


「って、こんな話は脱獄を終えてからだ」そりゃそうだ。「この地獄の監獄から、どうやって脱出する?」

「大喜利か?」

「爆笑させてくれるなら、一度だけボケて良いぞ」

「やめとく」鼻で笑われるのがオチだ。「1つ提案がある」

「なんだ?」

「この監獄……死体はどうやって処理される?」


 死体が外に出されるのなら、死体のふりをすればなんとかなるかもしれない。


 そんなことを思ったが、


「残念だったな。死体は……エサになる」

「エサ?」

「ああ。ここからさらに下の階層に……怪物を飼ってるんだよ。前の国王の時代に偶然生み出された……人を食らう怪物がいるんだ」

「……死んだらそいつのエサになるってことか……」

「ああ。まぁ怪物さんの機嫌が悪い場合は、生きてる人間もエサになるけどな」

「絶望的な追加情報をどうも」全然嬉しくない情報だ。「じゃあ、死んだふり作戦もダメか……」


 死んだふりをして少しでも上の階層に運ばれるのなら、やる価値はあるかとも思った。だけれど、さらに下に連れていかれるのなら意味がない。


 俺はさらに提案をする。


「シーラ。お前さんのドリルで地上まで穴を掘るってのは?」


 地上への道を探し回って迷子になるくらいなら、自分で風穴を開けてしまったほうが早い。そう思ったのだが……


「不可能です」だろうな。できるならシーラから提案があるだろう。「正確には時間をかける、あるいはさらに高性能かつ巨大なドリルを装備すれば地上まで穴を作ることは可能です。ですが、その際に生じる音や衝撃によって、看守に気づかれてしまうでしょう」


 そりゃそうだろうな……無音で掘り進めるわけにはいかんだろう。大音量で……その間ずっと看守を足止め、なんてできるわけがない。


 どうやったら騒ぎにならず、脱出できるだろうか。


「ちなみにシーラ。穴を掘って脱出するなら、どれくらいの時間がかかる?」

「最大出力で安全性を考慮しなければ、1時間が最速です」

「1時間か……」


 その間、できる限り静かに遂行できれば良いわけだが……


 ……


 ……


 待てよ……?


 逆に考えれば良いんじゃないか?


「逆に、大騒ぎしてしまえば良いのでは?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る