第9話 若く見えるだろう?

「仮になんだが――」言葉の途中で、看守の足音が聞こえてきた。「おっと……ちょっと失礼」


 慌てて、俺は岩の陰に隠れた。


「誰かいるのか?」看守がシーラに向かって歩きながら、「話し声が聞こえたように聞こえたが……」

「気のせいではないでしょうか」かばってくれるらしい。「ここには私しかいませんよ」

「ふむ……そうか……」カンの良い看守であるらしく、周囲を見回していた。「……この場所に行きつけるとするなら、フォルだろう?」


 バレてる。この場所に侵入できるのが俺しかいないということがバレている。いや、他にもいるだろ。もっと頑張れよ他の奴隷。


「なるほど……」どうやら看守には俺がここにいる確信があるらしい。「脱獄のためにシーラに目をつけたか……」


 なんでそこまでわかるんだよ。超能力者かよ。それとも俺がわかりやすいだけか?


「シーラ」やけに話したがる看守だな……「もしもお前とフォルが組んで脱獄を企てた場合、成功確率はどれくらいだ?」

「5%です」

「俺が加わった場合は?」


 なんとも予想外なことを言い出すものだった。


「看守という立場を持ったあなたが加われば、成功確率は8%まで上昇するでしょう」

「それでも8か……」


 たしかに看守が仲間になってくれたら確率は上がるだろう。それでも8となるとかなり厳しい……


 って、ちょっと待て。


「なぁ看守さん……」どうやら味方っぽいので、俺も姿を現そう。「お前さん……どういうつもりだ?」

「話は聞いていただろう?」こうして向かい合うと、かなり長身な看守だった。「脱獄に協力してやると言っている」

「……なんで……?」

「現国王の政治体制に不満がある」嘘を言っているようには見えないが……「俺は20年前からここの看守をやってるが……明らかに奴隷の質が変わった」

「質……?」

「ああ。昔の奴隷は……言っちゃ悪いが更生の余地がないクズ野郎ばかりだった。だが最近は……まだ更生の余地があるようなやつも多い。それどころか……お前のような冤罪で地下に落ちてくるやつもいる」


 冤罪……冤罪……


「信じてくれるのか? 俺が国王を殺してないって」

「ああ。お前が国王を殺すなんてありえない」人柄を信じてもらえたのかと思ったら、「10年前、お前はまだ15歳程度だろう? そんな若造に王が殺されるなど……そんなことがありえるわけがない」


 なるほど……信じているのは俺じゃなくて前国王なのか。


 どっちでも良い。とにかく協力車が増えることがありがたい。


 なのだけれど……


「あんた……20年前から看守をやってるって言ってたよな?」

「ああ」

「……今、いくつなんだ?」

「43だ」

「えぇ……」


 どう見ても20代後半にしか見えない。同い年かちょっと年上くらいだと思っていた。


「若く見えるだろう?」なぜか悲しそうな看守だった。「……ヒゲでも生やせば、大人っぽく見えるだろうか……」


 どうやら若く見られるのが悲しいらしい。


 たしかに……若いといえば聞こえは良いが、威厳がなさそうに見えるとも言える。


 ……若く見えるってのは良いことばっかりじゃないんだなぁ……


 それと、まだ気になることがある。


「看守のあんたなら、自分1人でさっさと逃げれば良いんじゃないか?」

「看守も閉じ込められてるんだよ」それは初耳だ。「どういうわけか、かなり前から地上に出られなくなってる。俺たち看守も、奴隷として働かされてるようなもんなんだ」


 ……だから看守たちもイライラしてたのか……そう考えると、ちょっと彼らも不憫だな……


「まぁ俺の話は後回しだ。今は一刻も早く脱獄計画を考えるとき……違うか?」まったく違わないので、素直にうなずく。「さて脱獄計画……どんなものがある?」

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