第8話 情報を修正

 過去……俺は何度も脱獄に失敗している。無計画に突撃しては脱獄できないということは経験済みだ。


 ならば……なにかしら作戦が必要である。


 しかし、俺の頭で作戦なんて考えても妙案なんて思い浮かばない。そして脱獄計画を多くの人間に知られるわけにもいかない。


 というわけで相談できる相手なんて、1人くらいしか思い浮かばない。


「探したぜ」俺はその人物の隣に近づいて、「どうやったら脱獄の成功率が10%を超えると思う?」


 話しかけた相手……シーラは一瞬だけこちらに目を向けて、


「それを私に直接聞きますか?」

「お前さんに聞くのが最速だろ?」


 シーラと一緒に脱獄するのだから、シーラと話すのが一番良いはずである。そんなことは頭の悪い俺にもすぐに分かることだ。


「近くに看守さんがいるはずですが」

「おう。そこらでトランプやってたぞ」アホな看守で助かった。「シーラはここで何をしているんだ?」


 シーラがいたのは、俺たちが作業をしているよりもさらに下の階層だった。


 シーラの他に奴隷は少なかった。たまに見かける奴隷は全員が屈強そうな男であることを考えると、力仕事中心の階層なのかもしれない。


「テンフォールド、と呼ばれる鉱石を探すように命令されています」


 テンフォールド……こないだクライムが説明してくれた鉱石か……


 気になっていたことを聞いてみる。


「その右腕は?」

「ドリルです」


 見たまんまだった。


 この間シーラと出会ったときと違って、彼女の右手はドリルになっていた。どうやら身体のパーツは付け替え可能らしい。


「それで岩を掘っていくのか?」

「はい。といっても鉱石を傷つけるわけには行きませんから、慎重に使わなければなりませんが」


 俺なら見つけた鉱石を破壊してしまいそうだな……慎重という言葉を知らない男だからな……


「大変なんだな……」

「私は機械ですので、苦痛はありません」そんなものなのだろうか。「大変といえば、フォルさんもよくこの階層にたどり着けましたね」

「おう。何回か脱獄を企ててるからな。この辺の階層までは把握してる」


 下の階層に何があるのか知りたくて、この場所まで侵入したことがある。そのときにはシーラは見つからなかったが、ともあれこのあたりまでなら侵入可能だ。


 シーラは俺を見つめて、


「情報を修正」

「……? どうした?」

「あなたの能力を過小評価していました。情報を修正した結果、脱獄成功確率は4%です」

「お……かなり上がったな」


 最初が2%だったのだから、かなりの進歩である。


 この調子で確率を上げていけばよいのだろう。簡単な道のりじゃないだろうが、やり遂げてみせよう。


 シーラはさらに言う。


「現状で4%ならば、1つだけあなたが脱獄する方法があります」どんな方法なのかと期待していると、「私の機能の1つに自爆機能があります。その爆発で監獄ごと吹き飛ばせば――」

「悪いが却下だ。お前さんを犠牲にする方法は、後味が悪い」


 しかし自爆機能ね……この監獄を吹き飛ばすレベルの自爆ができるらしい。


 ……そんな提案を無表情のままするかね……

 

 せっかくここまで来たので、ついでに聞いてみる。


「なぁシーラ。お前さん、意思とか心ってあるのか?」

「ありません」そんな即答しなくても……「人間の心を模した機能なら存在します。今現在のように、あたかも人間のように振る舞うことは可能ですが、それは心によって生み出されたものではありません」

「……あくまでもプログラムの一種、ってことか?」

「はい」


 データの集合体による総合的な判断ってことか……


 それを心というのか意思というのか、それともプログラムと呼ぶのか……俺には判別できない。

 

 なら……


「俺って、心があるのか?」

「あるのでは、ないでしょうか?」

「そうだよな。疑問形になっちまうよな」俺にだって俺に心があるのかなんてわからない。「仮に……シーラが記憶をなくしたとするだろ? そうしたら……心があるとかないとか、判別できないんじゃないか?」

「おそらくそうでしょうね。しかし、判別できないだけで存在しないことに変わりはありません」

「……そういうものなのかなぁ……」


 結局よくわからない。心があるのかないのか……心とはなんなのか。意志とはなんなのか……俺にはよくわからん。シーラにもわからないらしい。


 妹に聞けばなんとかなるだろうか。あいつなら頭が良いし……もしかしたら答えてくれるかもしれない。


 やっぱり、なんとしてでも脱獄して妹に会わないといけないな。

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