第7話 そういうプログラム

 そうして、今夜はシーラと別れた。これ以上引き止めておける話題もなかったので、仕方がない。


 さてさっそく脱獄計画を考えようとしていると、


「おい」クライムが俺の肩を叩いて、「お前、あいつと知り合いだったのか?」

「あいつって……シーラのことか?」

「あの機械、シーラっていうのか?」

「そうらしいぞ。本人がそう言ってたからな」

「まぁ名前なんてどうでも良い」じゃあ聞くなよ。「お前、あいつを仲間に入れて脱獄する気なのか?」

「ご名答」


 俺が笑ってみせると、クライムはため息とともに


「やめとけよ。あいつと関わってもろくなことないぞ」

「シーラのこと、なにか知ってるのか?」

「逆にお前、知らねぇのかよ……」


 知らん。まったく知らん。


 ともあれ、シーラはそこそこ有名人らしい。


「しばらく前にこの地下によこされた機械だよ。たぶん……テンフォールドを発掘するために寄越されたんだろうな」

「……テンフォールドってなに?」

「お前、アホか?」そうだよ、と答えようとした瞬間。「そうか。アホだったな。俺が悪かった」

「気にすんなよ」傷ついたのは俺だけだ。「で、テンフォールドってのはなんだ?」

「最近見つかった鉱石だよ」

「鉱石……?」


 重要な話らしく、クライムはさらに声を落とす。


「ああ。なんでもいろんな力を増幅させる夢のような鉱石だとか……人類の歴史を変えるかもしれない、とまで噂されている鉱石らしい」

「人類の歴史を……?」

「ああ。光やら火やら水やら……どんなエネルギーも増幅させる鉱石だ。大量に集めて使えば、それだけで国を吹き飛ばせる威力になるかもしれない、なんて噂だぜ」

「ふーん……」規模がデカすぎて、いまいち伝わらんが……「要するに、ヤバい鉱石ってことだな」

「そういうことだ。まぁ実際のところは採掘量が少なすぎて、そこまでの威力は期待されてないみたいだがな」


 なるほど……凄まじい鉱石であるがゆえに希少なのだろう。そりゃそんな威力の鉱石が簡単に見つかっても大問題だからな。


「そんで、その鉱石とシーラがどうつながるんだ?」

「あいつはその鉱石を採掘するために来たんだから……パワーが半端ねぇんだよ。専用のドリルとか使えば、1人で岩盤とか壊せるらしい」

「へぇ……」そりゃ良いことを聞いた。「脱獄の協力者としては、最高じゃないか」


 パワーもある。しかも協力さえしてくれたら、かなりおとなしく従ってくれるだろう。


 そんな最高戦力と関わるなと言われても、そりゃ無理ってもんだ。


「強すぎる力は、人間を狂わすって話だよ」俺が首を傾げると、クライムが続ける。「あの子には人間を簡単に殺せるような力がある。そんな力は……個人が保有すべきじゃないってことだ」

「……俺がシーラに命令して、誰かを殺すかもしれないってことか?」

「簡単に言えば、そういうことだ。そんなことはしないってお前は言いたいだろうが……力を持った人間は変わっちまうことがあるからな」


 力を持った人間……


 権力や武力、財力を持って変わってしまう人間というのは、たしかにいるのだろう。


 俺もそうなのだろうか。シーラという武力を手に入れて、変わってしまうことがあるのだろうか。


「だがなクライム……結局俺がシーラと一緒に脱獄することに変わりはねぇよ」

「……そうか……まぁ、たしかに彼女の力があれば百人力だからな」

「それもあるが……言っちまったからな」

「なにを?」

「シーラの生きる意味を見つけにいこうって」改めて言葉にすると、なんだか恥ずかしい。「それに、シーラにはシーラの意志があるみたいだからな。俺の命令を聞くわけじゃない」

「そうなのか?」

「ああ。俺の脱獄の提案……断られたからな」

「……それは彼女の意志っていうより、そういうプログラムってだけじゃないのか?」


 ……言われてみれば確かに……


 彼女は機械なのだ。思考というプログラムが存在するのなら……それは彼女の意思なのだろうか?


 とはいえ……仮にプログラムだとしても、それが彼女の意志なのか? そもそも意志ってなんだ……? 俺たちは意志を持ってるのか?


「……うーむ……」難しいことを考えると頭が痛くなる。「よくわからん。またシーラに会ったら聞いてみよう」


 直接聞くのが早いだろう。


 そもためにも……なんとかして脱獄の方法を考えないとな。

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