第4話 搭載されていません

 その後……俺はたっぷりと追加の作業を行うことになった。


「ちなみに……俺たちってなんの作業してんの?」

 

 ここに捕まって10年経過するが、いまだに自分たちが何を作っているのか把握していない。ただただ岩を運んだり砕いたり積み重ねたりしているだけである。


「お前たちが知る必要はない」

「目的があれば作業効率が――」


 またひっぱたかれたので、黙っておくことにする。相変わらずこの看守たちは会話が通じないやつが多い。


 しばらくして、なんとか開放された。その頃には真夜中になっていると思うが……暗い岩の中に10年もいるのだ。とっくに時間感覚など麻痺している。


 追加作業を終えて、俺は少女のもとに駆け寄る。


「悪い。またせたな」

「謝罪をするのは私のほうです」相変わらず機械的な声だった。「あなたは私をかばったことにより、追加作業を命じられました。その範囲の作業は本来、私の領分でした」


 なるほど……少女が壊れて動けなくなった分の作業を押し付けられたわけだ。どうりでキツかったわけである。


「気にすんなよ。こっちにだってメリットがある行為なんだからな」

「メリット?」

「ああ」俺は近くに看守がいないか確認して、「……お前、脱獄に興味ある?」

「ありません」即答だった。「私は機械です。人間に命じられた作業を遂行するのみです。それが地下であろうと地上であろうと変わりません」

「……こんなにぶっ壊されても?」


 少女の体はバラバラだ。彼女の性能が高いことは認めるが、明らかに負荷をかけすぎている。


「私は機械です」そればっかりだな。「壊れようが、命が消えるわけではありません。誰も悲しみません。壊れるならば、それまでです」

「俺は悲しいけどな」機械とはいえ、壊れるのは悲しい。「まぁ、その辺の価値観の違いは、ひとまずおいておこう」


 考えたところでわかりあえるとは思えない。それに、別に俺の考え方を押し付けたいわけじゃない。


「運ぶぞ」俺は少女の破片を拾い集めて、「狭っ苦しいところだが、我慢してくれよ」

「問題ありません。私が邪魔になる場合は、さらに分解してください」


 それはブラックジョークなのか本気なのか……反応しづらいな……


 ともあれ、俺は少女の欠片を集めて牢屋の中に戻った。


 牢屋……そう、牢屋だ。鉄格子で頑丈に固められた牢屋。それが俺たちの宿である。こんなところでも毎日寝ていれば愛着が……湧くわけもない。

 ゴツゴツの地面に寝転がって寝て気持ちが良いわけもない。稀に不機嫌な看守に、ストレス発散で殴られる可能性もあるのだ。安心して眠れるわけがない。


 当然、一人部屋ではない。何十人も辛気臭いのが絶望した顔で存在している。


 牢に入るのが遅れたのでムチで数発叩かれる。


 それから牢屋の看守が、


「それはなんだ?」

 

 少女の破片を指さして聞いてきた。


 正直に答えよう。


「俺にも、よくわかんねぇ」


 まだ名前も聞いていない。


 看守は少女の顔を見て、


「……なんだ……? 人形か……?」看守の様子を見る限り、少女の正体は彼も知らないようだった。「お前……そんな趣味があったのか……」

「そ、そうなんだよ……」適当に誤魔化しておこう。「妹が人形好きで……気がついたら俺も好きになってたんだよ」

「おう、そうか」割と気の良い看守だった。「たまには俺にも使わせろよ」


 使わせる……? なんのこっちゃ……?


 よくわからないが、なんとか怪しまれずに牢屋に入り込めた。


 そして看守から離れた牢屋の端っこのほうに行き着いて、少女の体を地面に並べる。


 その瞬間、少女が言った。


「私に性処理機能は搭載されていません」

「なに言ってんだいきなり」壊れすぎてバグったか? 「滅多なことでそんなこと言っちゃいけません」

「申し訳ありません。ですが、あの看守は私を性処理の道具として見ていました」


 ……


 ……


 使わせろって、そういうことか。


 つまりあの看守は……俺がこの子をそんな目で見ていると思ったわけだ。


「す、すまん……」最低なことをしてしまった。「気づかなかった……悪いことをした」

「問題ありません。私の容姿に対し、人間が性的興奮を抱くことは想定範囲内です。ですが私に性処理――」

「わかったわかった」あんまり性処理性処理連呼するな。「ともあれ……あんたを治すぞ」

「ありがとうございます」


 というわけで、彼女の修理が始まったのだった。

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