第2話 メインシステム稼働率45%

 見に覚えのない国王殺し。その冤罪で捕まってから、もう10年が経過した。

 

 この場所は地下の監獄。明かりも少ない薄暗い。空気も悪い薄い。看守も粗暴なやつばっかりで、体の弱い人間はさっさと死んでしまう。


 岩に囲まれた冷たい空間。太陽の明るさなんてとうの昔に忘れてしまった。


 ここでは多くの奴隷が働かされている。みんな、希望なんてなにもないって顔で毎日働かされている。


 どいつもこいつも罪を認めろと詰め寄ってくるが、俺はそんなことをするつもりはない。必ずここから逃げ出して身の潔白を証明してやる。


 その決意とともに……最初の数年は何度も脱獄しようと行動してきた。しかしその度に捕まって半殺しにされて……そう簡単に脱獄できる場所じゃないってことがわかってきた。


 計画を練らないといけない。それと看守の油断も必要。そして……協力者も必要だ。俺一人じゃ、この監獄攻略はどうにもならん。


 誰もが脱獄なんて諦めて、抵抗するのは俺くらいになっていた。


 そんな地獄のような地下施設で、珍しく騒ぎが起きていた。


 大きな音が聞こえたあとに、看守の怒鳴り声。


「なに寝てんだ! さっさと運べ!」


 見ると……巨大な岩が地面にあった。大人が10人で担いでも持ち上がらないような大岩だった。


 その真下に少女がいた。大岩に押しつぶされるようにして地面に転がる少女がいた。


 あんな巨岩に押しつぶされたら、命はないだろう。なのに、


「早く起きろ!」看守は少女の顔をムチで打ちつける。「壊れたフリして休むな!」


 ……壊れたフリ? いったい看守は何を言っているのだろう。それにあの少女は……何者だろうか。初めて見る顔だが……


 大岩の下敷きになっている少女は……何歳くらいだろう。まだ20にもなっていないように見えるが……なにしろ体の半分が岩の下敷きなので、詳しくはわからないな……


 ともあれ……さすがに見過ごせない。少し距離はあるが、少女の場所に向かおうと思って歩き出すと、


「おい……」クライムが俺の肩を掴んで、「やめとけよ。持ち場を離れると、また拷問だぞ?」

「慣れっこだよ」


 体力には自信があるので、拷問されても死なないだろう。


 騒ぎに乗じて、俺は目的の場所までたどり着いた。


「おいおい……」俺は看守と少女の間に割って入る。「その辺にしとけよ。明らかに動ける状態じゃねぇだろうが」

「なんだお前は……!」やたら血走った目の看守だった。「持ち場に戻れ!」

「持ち場に戻るのは良いですけどね……」適当に敬語を使いながら、「まず、この大岩をどかしませんか? こんな岩が作業場の真ん中にあったら、効率が悪いでしょう?」

「む……」一応理性はあるようだった。「……それもそうだな……おい奴隷!」


 看守は周囲の奴隷たちに呼びかけて、岩をどかすように指示を出した。


 数人の男たちが集まって岩を押すが、ビクともしない。それほどの重さの岩だった。


 ……潰されている少女は、助からないだろうな。こんな大岩に押しつぶされて……


 そうしてさらに援軍。結局15人ほどの奴隷の協力で、なんとか大岩をどかすことに成功した。


 そのまま岩は奴隷たちの手によって運ばれていった。なにに使うのか知らないが……まぁ、なんか必要なんだろう。


 さて俺は少女に手でも合わせようかと思っていると……


「なんだ……?」


 岩に潰されていた少女の体を見る。


 血は出ていない。下半身はバラバラになっているが、内臓やらは見えない。


 というか……人間に見えなかった。機械的というか部品が転がっているというか……そんな状態だった。


 この少女は何もなんだろうと思っていると、


「あ、……」突然、少女の口が動いた。「あ、ありがとう……ご……ございます……」

「へ……?」完全に死んでいると思っていた少女が話し始めて、驚いてしまった。「ど、どういたしまして……?」

「……言語……げ、……言語システム損傷……復旧率80%……メインシステム稼働率45%……バ、ックアップシステム稼働……」


 時折バグったように言葉が詰まる少女だった。しかし苦しそうとか、そんな様子には見えない。


 身体から、バチバチと火花が散っていた。そして口から発せられる難解な言葉……


 ……


 ……この女の子……まさか看守の言う通り、マジで機械なのか……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る