どうかこのメッセージが、あなたに届きますように

嬉野K

どうかこのメッセージが、あなたに届きますように

脱獄

第1話 成り上がってやる

「しかしなフォル。お前さんみたいに脱獄を計画したやつは星の数ほどいるが、成功したのは一握りだぜ? 命かけてまで脱獄しようとするくらいなら、さっさと受け入れてしまえば良いだろう?」


 暗い地下の中、俺たちは小声で会話をする。


「だから俺はやってないんだって。冤罪で捕まってんのに、受け入れるもなにもないだろ」

「国王を殺しといて罪を否認なんて、そんな極悪人はお前くらいだよ」

「本当にやってないからな」


 やっていない罪を認めろというのは難しい話だ。

 追い詰められて自白してしまうという事象は聞いたことがあるが、あいにく俺は認めない。だってやっていないのだから。


「いいかクライム」俺は目の前の男の名前を呼んで、「俺はすぐに自分の冤罪を晴らし、成り上がってやるからな」

「いつもそれだな……」男――クライムは肩をすくめて、「お前がどうなろうがお前の勝手だがな……俺を巻き込むなよ」

「お前から話しかけてきたんだろうが……」


 そんな会話を凍えでしていると、


「おい! お前ら!」ムチを持った看守服の男が近づいてきて、「なにをコソコソしゃべっている? 仕事に集中しろ!」

「ああ、申し訳ない」クライムがフォルを指さして、「こいつが看守をボコボコにしたいって言い出すからさぁ……」

「なに?」


 詰め寄ってくる看守に、俺は両手を振る。


「そんなこと言ってねぇって……」

「またキサマかフォル……」看守は聞く耳持たず、「いつもいつも反抗的な態度だな……! 国王殺しの大罪人が……!」

「だから俺は――」言葉の途中で、ムチが俺の足を捉えた。「痛いんですけど……」

「ふん」看守は高圧的に言う。「国王殺しが偉そうに……死刑でないだけありがたく思え」

「そう、それなんだよ」足をさすりながら、「世間じゃ、俺が国王を殺したことになってんだろ? じゃあ、なんで俺は死刑じゃないんだ?」


 言うまでもなく、人殺しは重罪だ。それも国王を殺したのだから、とんでもない罪になるはずである。


 なのに俺は死刑になっていない。こうやって地下で奴隷になっているだけである。


「新たな国王の慈悲だろうな」

「ふぅん……慈悲深い人なんだねぇ……」


 国王が死ねば、当然新たな国王が据えられる。俺からすればよく知らない人物が国王になった、程度の認識だが……その人のおかげで生きていられるなら感謝しないといけない。


 とはいえ俺視点からすれば、恨みのほうが多いけれど。


「とにかく」看守はムチを構えて、「国王のために働け。お前も10年ここにいるんだ。脱獄が不可能なことは身にしみてわかっているだろう?」

「わかってますよ。だから最近はおとなしいじゃないっすか」

「……なぜ急に敬語を使う?」

「もちろん偉大なる看守様への敬意を込めて――」


 言葉の途中で折れはムチで打ち据えられた。何度食らっても耐えられない鋭い痛みだった。


「見え見えのお世辞だな。やはりお前、なにか企んでいるな?」

「そんなわけないっすよ……」なんで企みがバレているのだろう……「脱獄がバレるたびに殺されかけてるんだからさ……そろそろ反省したって」

「そうか」看守は、ついでとばかりにもう一度ムチを振るって、「まぁいい。どんな作戦を練ったところでこの場所からは脱出できん」


 逆に燃えてくるってもんだ。


 この現状から……必ず成り上がってやるよ。


 なんてことを思っていると……


 どこかで大きな音がした。 


「おいガラクタ!」見ると、看守がとある少女をムチで打ち据えていた、「なに休んでんだ! お前は機械なんだから、休みなんていらねぇだろ!」


 ……機械……? 


 どうやらこの地下の監獄には、機械の少女までいるらしい。

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