弟たち ①

次男君が来春から高校の先生になる目処がつきました。

「次男君よりは早く卒業したい」

あなたはそんな事を言ってましたね。


高校中退から高校卒業程度学力認定資格をとり、同年の友達よりは一年遅く大学に入学したあなた。そこから留年を2回。大学5年を経て6年目の秋でなんとか次男君より先に卒業できるかと思っていたのにね。

「卒業は出来なかったけれど、卒業論文は良く出来てました…」

ゼミの先生が卒論発表会の時の様子を録画したDVDを持ってきてくれましたよ。まだ見れてないけれどね。


あの日、あなたと最後に会話をしたのは次男君だと警察の人に聞きました。

警察の人によると、あなたは午後4時ぐらいにふらっと次男君の部屋にきて、ひと言ふた言、会話をしたらしいと。

何を話したのでしょうか。未だ母は次男君に聞けずにいます。

ただ、次男君がその後「ちょい出かけてくる」と言って出て行ったのは覚えています。母が唐揚げを揚げてる最中だったので5時すぎぐらいでしたでしょうか。


母があなたの変わり果てた姿を見つけ、救急隊や警察が来てバタバタしている時に、いつの間にか次男君は帰って来ていて、リビングにいました。


次男君があなたと最後に会話をした後、もう話すことも出来ないあなたの姿を見たのは翌日の午後でした。

あなたの遺体が運ばれた葬儀場にはなかなか行こうとせず、「もう翌日には棺に入ってしまうから」と半ば強引に母が連れて行きました。


次男君は和室に寝かさているあなたを立ったまま、じっとみつめていました。

母が座らせてその手をあなたの手に添えてやりました。

きちんと最期のお別れをしてほしかったのです。

次男君は母にされるままに、あなたの手にその手をそえて、あなたの顔をじっと見ていました。次男君は泣くのを堪えているようにも見えましたが、1分もすると怒ったように手をはなし立ち上がりました。

「帰るわ」

呟くように言うと1人で帰っていきました。


「なんでだろう。けっこう平気なんだよね。」

あなたの死から10日ほど経った頃に次男君が言いました。本当に平気なのかは分かりません。

仲の良い兄弟だったのは確かです。2人でちょくちょく一緒にご飯を食べに行ったり、出かけていましたね。

次男君は今年、あなたに誘われたのかあなたと同じサッカー応援団にも入りました。

毎週火曜日の夜には草野球ならず、草サッカーもあなたと一緒に楽しんでいました。


あなたが逝った後も次男君は続けていますよ。



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