お前が俺にゲームで勝つなんて一億年早いわ!

とろり。

お前が俺にゲームで勝つなんて一億年早いわ!



 藤川達人ふじかわたつとは小さい頃からゲームを好み、特に格闘ゲームは得意中の得意。あまりに強く、他のゲーマーたちを常に圧倒していた。そんな彼は一部の熱狂的ファンに藤川達人ふじかわたつじんと呼ばれる。しかし親しい友達の間では普通にタツトと呼ばれることが多い。


 タツトは明日あす、ゲームの大会があるので集中している。

「余裕余裕」

 そう言いながらも明日の対戦相手の操作パターンを冷静に分析する。

「こうきたらこう……」

 前回大会の映像を念入りにチェックする。が、次の瞬間、ディスプレイは真っ暗になった。

「せーんぱい、あーそーぼっ!」

 逢坂愛あいさかあいだった。

「お前なあ、俺は明日――」

「先輩鼻毛出てますよ」

 タツトは素早く鼻に手をやった。しかし鼻毛は出ていない。

「だーまさぁれたぁ!」

「くらぁ!」

 毎度毎度邪魔をしてくる邪魔者は今日も絶好調。おかげで集中できやしない。

「今日はシューティングゲームで勝負しましょう。ポイントが高い方が勝ちです」

「そんな暇はない」

 愛のゲームの実力は低く、タツトとは相手にならなかった。愛はランダム性の高いゲームだと驚異の力を見せることがあるが、ランダム性が低いとすぐに負ける。

「えーつまんなーい」

「一人で遊んでろ」

 タツトの冷たい態度に、愛はゲーム対戦を諦めた様子。

「ところで先輩、私と先輩の差は何だと思います?」

「努力」

 断言した。すると愛は「ちっがーう!」と返した。

「じゃ、なんだって言うんだ?」

「コントローラーですよ」

「はぁ?」

 うわずった声が出てしまった。

「先輩! そのコントローラーを私にください!」

「嫌に決まってるだろ。誰がお前に――」

「先輩、鼻毛」

「引っかかるか」

「あ、先輩の好きなアイドル天木あまきちゃんがうしろに!」

「……」

「鼻くそ食べてる!」

 ゴッッツッッ!

「せんぱい! いたーい!」

「お前、いい加減にしろよ。そんなに欲しいのなら俺にゲームで勝ってからにしろ」

「勝てないから欲しいんです」

「ゲーム勝敗はコントローラーより努力。努力した奴が勝つ」

「そんなあー」


 ガラガラ


 そこにタツトの同級生の牧野真姫まきのまきがやって来た。


「あ、真姫ちゃん、こんにちわー」

「いつも先輩と呼びなさいと言っているでしょ」

「えー、嫌ですぅ」

「図々しい小娘ね……」

「何か言った、真姫ちゃん」

「いや何も……。それよりタツトは明日試合でしょ。あなた邪魔してないわよね?」

「気分転換って言うんだよ、真姫ちゃん」

「タツト、実際は?」

「邪魔」

 タツトは言い放った。真姫は愛を連れて部室から出て行った。

 タツトは真っ暗になったディスプレイに向き直るとそこには愛の姿が映っていた。

「ひっ!」

 驚きみじめな声をあげた。

「録音完了。スマホの着信音にしますね!」

「やめろおおおおおおっ!」

 真姫が戻ってきて愛を再び引きずり出した。「せんぱーい。助けてぇ。アイスおごってぇ」と愛は言う。

「お前なんかにおごるか。さっさと消えろ」

 ガラガラ

 戸が閉まる。タツトは安心してディスプレイに――

「って、またーっ!」

 と思ったが、よく見ると愛の等身大の人形だった。

「こわっ! いつの間にこんなものを……」

 タツトがそれを運び出そうとした時、「ひっ! ひっ! ひっ!」と聞き覚えのある声がした。愛がスマホを忘れていったようだ。

「こえーよ……」

 着信音が止むまでタツトは耳を塞いだ。

 着信音が止むと、愛の等身大の人形を片付け、ようやく対戦相手の研究を再開した。


 タツトはコントローラーをときどき見つめ「卒業式の時にプレゼントしてやるか」と呟いた。

 約半年後の卒業式。笑顔で卒業できたらいいなと消え入るような声を発した。



 翌日。ゲーム大会当日。

「わあー。人がいっぱいですね」

「全国大会はさらにいっぱい人がいるぞ」

 愛はタツトの言葉に耳を傾けず、キョロキョロと動き回っている。

 タツトはそんな愛を無視し、会場の中へ。

「む、あれは藤川達人ふじかわたつじんではないか?!」

 どこからかそんな声が響き渡ると、ざわざわと一部がざわついた。そして次の瞬間には多くの人に取り囲まれていた。

「さがって! さがって!」

 騒ぎに気づいた警備員がタツトをまもり、控え室に案内をする。

 試合はトーナメント形式でシード権のあるタツトの順番は比較的遅い方だ。念入りに対戦相手の操作パターンを再確認して待ち時間を過ごす。時には愛用のコントローラーを見つめ、日々の練習内容を思い返していた。

「藤川さん、次ですよ」

 ゲーム大会の運営スタッフにそう言われ、ステージに向かう。

 そして準決勝、決勝と楽に勝つことができた。全国大会への切符を手にし内心ほっとしたタツトだが、軽快な音とともに巨大なディスプレイに「エクストラステージ!」と表示され驚いた。

 黒い帽子、黒いサングラス、それにマスクといかにも怪しい格好の女性が現れると、「ゲスト参加、天木さん、登場です!」と司会者がそう言った。

 歌って踊れるアイドル兼プロ格闘ゲームプレイヤーの天木だ。タツトの好きなアイドル天木だ。

「えっ! えっ!」

 タツトは突然のことに驚き、動揺する。

「よろしくね」

 帽子などを取った天木が挨拶をする。かわいすぎて天使みたいな天木にタツトは倒れそうになる。

「さ、両者、席についてプレイキャラを選んでください!」

 タツトは一番使いなれているキャラを選ぶ。それに応じるように天木も使うキャラを決めた。

「さあ、運命の一戦! 地方大会優勝の藤川か! それともアイドルの天木か! レディー、ファイト!」

 前半は互いに様子見だった。しかし後半、天木はコンボを決めそのままタツトをKOにした。会場からは「おー!」と言う声があがる。

「勝者は天木さんでーす!」

 会場からは歓声がわき起こった。

 そして会場に天木のヒット曲『あなたをノックアウト!』が流れ出し、会場は大盛り上がりに。

 一方タツトはガッカリした様子でステージを後にした。

「タツト、ナイスファイト!」

 真姫が優しい言葉をかけた。



 時は流れ卒業式。あっという間に卒業式が終わり、部室。

 タツト達は部室に集まっている。いろいろあった三年間。タツトはしみじみと昔を懐かしむ。

「ぜんばーい、大学生になってもゲームを続けてぐだざいー」

 涙を流す愛にタツトは「これ、やるよ」と愛用のコントローラーを差し出した。しかし愛は受け取らない。

「ごれは先輩が大事に使ってぐだざいー。わだじ、ぜんばいがざいきょうのコントローラー……じゃなくてプレイヤーになる日までやっばりごれは受け取れまぜんー!」

 結局タツトは全国大会準優勝。高校生日本一のゲーマーにはなれなかった。愛はタツトがになることにこだわっていた。

 タツトはそんな愛の頭を小突き「お前なあ」と言った。


「さあ、みんなでゲームをしましょう!」

 真姫はそう言うと最新のゲーム機を取り出した。

「まっけませんよー、先輩!」と立ち直るのが早い愛。

「お前が俺にゲームで勝つなんて一億年早いわ!」

 タツト、愛、真姫の三人はゲームを遊び尽くし、そして笑い合った。



 ゲームがタツト達をつなぐ。そのことに嬉しくなってタツトはうっすらと涙を浮かべるのであった。




おわり



2023.09.23.

少し調整しました。

少し改稿しました。




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お前が俺にゲームで勝つなんて一億年早いわ! とろり。 @towanosakura

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