宇宙へ-7

 それは偶然だった。ワープしてきた織田艦隊と、反対からワープしてきたハルゼス艦隊がエングル星系付近において出会ったのだ。

 たまたま起こった巨大な太陽フレアにより次元レーダーが機能しない為に起こった事だった。

 7000対180が正面から向かい合った。大人と子供ではない。獅子と鼠だろう。


 「上様、第三方面軍のハルゼスと名乗る敵の司令官からこちらの所属と目的を教えろと言ってきておりますが、如何されますか?」


 「こちら織田艦隊旗艦尾張。貴様ら青っ面を地獄から迎えに来た第六天魔王、織田信長じゃ。正々堂々、正面から弱兵揃いの貴様らを打ち果たしてやろう。と送り返せ」


 「挑発するような事をされてよろしいので?」


 「構わん。青っ面共に目にもの見せてやろうぞ」


 ハルゼス提督はブリッジで敵からの通信を受信した。

 敵の織田信長という奴は、品性には欠けるようだが、腰抜けでは無いようだ。それが武人の勇気なのか、蛮人の無知なのか試してやろう。


 「全艦に伝えよ。我らはこれから第六天魔王、織田信長の艦隊と交戦に入る。敵は我がガラミス艦隊を何度も撃破した強者共である。各艦奮闘せよ」

 

 機は熟し、ガラミス艦隊が少し前進。織田艦隊から2隻の巨大な艦が突出する。ガラミス艦が発砲を始めるが全く効果が無い。まるで大きな鉄の塊に拳銃弾を撃ち込んでいるようだ。

 それと同時に残りの織田艦隊は後進して次々にワープして消えてゆく。


 「敵艦隊はワープポイントでなくてもワープできるようだ。全方向警戒を密にせよ」

 「出現したら味方の損害を考えず囲んで集中攻撃するのだ。敵は死兵だ。油断するな」


 ハルゼス提督はある意味正しく、ある意味間違っていた。

 巨大艦2隻を除く全艦がワープした直後に、エンジンを暴走させたまま突撃していた巨大艦が爆発してそこに2つのブラックホールが生まれた。2つのブラックホールは喰い合いを始め、巨大なブラックホールになり、ディスタス星系をハルゼスの艦隊と一緒に飲み込んでゆく。

 生き残ったのはガラミス戦艦一隻のみであった。彼等の口から織田信長の名がガラミスに伝わる事となった。


 「上さま、正々堂々ではなかったので?」


 「正々堂々、正面から後退したでは無いか。ガラミス艦隊も討ち果たしたぞ。文句があるのか?」


 「確かに、嘘もついてはいませんし、有限実行ではありますが、なんと申しますか、まぁ上様の事はわかってた事でございますし、文句は無いのですが、もうよろしゅうございます。弾正、感服いたしましてござりまする」



 「ロメール艦隊に続いて、ハルゼス艦隊も消滅したというのか?」


 「その通りでございます。地獄から我らを迎えに来た第六天魔王を名乗る敵は、どうやらブラックホールを自在に作り出す兵器を使用するようでございます」


 「そんな兵器を持つ相手が今までどこに隠れていたのだ」

「そんな物を使われたら、対抗できる物などある訳が無いだろう。しかも立て続けに2回も使っている。まだまだ持っているという事であろう」


 「さよう。それだけでなく、そんな無茶苦茶な兵器を乱用するなら、銀河すら消滅いたしましょう」

 「幸い、バトランティスの第6方面の拠点トゥールを落とすことに成功いたしまして、バトランティスから和議の使者が参っております」

 「トゥールを落とされてはバトランティスは楔を打ち込まれて二分されたも同然。完全に負ける前に、少しでもましな条件での和議を望んでますから、少し条件を緩めてやれば停戦となります」

 「ここはお腹立ちとは思いますが、ガトランティスと停戦し、全兵力で第六天魔王の艦隊を討伐。返す刀でバトランティスを叩けば良いかと」

 「いくらなんでもブラックホールを後10も20も作ることはできますまい」


 ガラミスを目指して進む織田艦隊は知らぬ事であったが、織田艦隊を主敵と認識したルーベルト総統率いる大ガラミスはバトランティスと即時停戦、お互いの艦隊を本国まで戻すという和議を結び、その艦隊75000をもって織田艦隊に当てようとしていた。


 その頃、ガラミス軍の再編成と出撃準備のため一時的に放置プレイをされていた織田艦隊はアンドロメダ星雲の外周に近づいていた。


 「我らが銀河を出る事はかなうまいと思ってありましたが、さすが上様。アンドロメダに到着いたしましたなぁ。弾正感激でございます」


 「多分誰もわからないから、聞かなかった事にしてやる。武士の情けじゃ」

 

 「ところで上様、ガラミス君情報では、この辺りにガラミスの経営するカジノがあるようでございます」


 航宙図を出して説明する。


 「ここの売り上げはガラミスの総統府の独自財源になるらしく、揺さぶればかなりの嫌がらせになのではないかと愚考いたします」


 「で、あるか。ならば行かねばなるまい。貴様と青っ面共にゴッドギャンブラーと呼ばれたわしの腕を見せてくれよう」


 艦隊は通称博打星と呼ばれる惑星キョンファに向かったのであった。戦艦で乗り込むような野暮な真似はできないのは言うまでもない。

 ちゃんと航路の途中で見つけた高級クルーザーを捕まえて奪い、それで乗り付けたのは言うまでもない。

 

 信長がキョンファ星で挑んだのはブラックジャック。人を撲殺するあれじゃない。トランプのゲームである。

 ガラミスにも、ほぼトランプはあり、ルールも地球のブラックジャックとあまり変わらなかった。

 ある程度完成された文明や文化は似てくるという例であろう。


 その頃ガラミスでは織田艦隊を見失い大騒ぎになっていた。

 今まで本星を目指してほぼ一直線に進んでいた艦隊が消えたのである。 

 まさか銀河を1/4も回ったところで博打を打っているという発想は無く、探しあぐねていた。


 信長がテーブルについて5日目。もうもうと葉巻をふかしながら手札を見ていた。

 彼は既にカジノを4つ潰していた。腕が良いだけではない。何かに憑かれているとしか言いようがない程ついているのだ。

 そして5つ目のカジノが信長のものになった。

 高級クルークルーザーの持ち主、バンドル星の不動産王ガルバガルバのふりをしていた信長は彼のまま儲けた金でガラミスの為替相場、株式相場に手を出し大勝を続け、3ヶ月後ガラミスの富の10%がかれのものになっていた。

 信長との為替戦争に負けたガラミスは経済的に大打撃を受けたのである。


 半年後、古い宇宙ステーションに閉じ込められていたガルバガルバはそこを管理してきたガラミス君2号により解放されたが、彼は知らぬ間に銀河一の大富豪になっていた。

 しかも信長がガラミスの企業に大して大量の売り発注をかけたままであったため、9ヶ月後彼は宇宙一の大富豪となる。

 彼は生涯、自分は神の配慮で地獄の悪魔に会って、人生を悔悟する機会を貰ったのだと信じていた。

 そしてその膨大な財産を使って、慈善事業や搾取される人々を救う事に残りの人生を費やし聖人と呼ばれることになる。

 

 

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