宇宙へ-6
アリアナ星系へ向かった我々は、そこにある補給基地に到着した。100年くらい前に古くなったために破棄された今は無人の基地である。
存在することすら忘れているガラミス人も多いだろう。
広さと大きさだけはあるし、多少の物資も残されているので全艦隊を収容して修理する事は可能である。
足りなければ基地を解体して使ってしまってもば良いのだ。
ガラミスでは大混乱が起きていた。名将ロメールが新造戦艦3000隻と共に消えてしまったのだ。
我トラファルガー星域において星籍不明の艦隊と交戦中という連絡を最後にして文字通り消えてしまったのだ。
トラファルガー星域にはブラックホールが出現しており、これに吸い込まれたと考えられた。
戦艦3000隻はガラミス全体から見れば5%に過ぎない。屋台骨を揺るがす程の影響は無いが、ロメール提督とその歴戦の部下全員も失ったとなるとその被害は決して無視できるものでは無い。
ルーベルト総統はハル軍務大臣を怒鳴りつけていた。
「一体何が起こっているのだ、なぜロメールは消えた。ロメールはトラファルガーで何者と戦っていたのだ?」
ハル軍務大臣は答えられない。
「以前、建設中の基地を喪失した時に目撃された艦隊が航行中という情報を得て、訓練ついでにロメール提督に確認を頼んだのですが、何故こうなったのか私めにもさっぱり……」
「で、その艦隊はいたのか?」
その後は目撃情報などは無く、最初からいなかったのか、ロメール提督と共に消滅したのかなんとも言えませぬ」
大ガラミスとは言っても、拡張に次ぐ拡張を繰り返してきた大帝国である。現在も抵抗を続けるレジスタンスも多いし、巨大な組織も一枚岩とは言えない。
どんなに小さな艦隊でも、ガラミスに連戦連勝ともなれば抵抗勢力の旗印にされるだろう。
それは絶対避けねばならない。巨大な軍を持つガラミスにとって、外部の敵より内部の敵の方が怖いのだ。
「この件は情報大臣のフバーに一任する。敵がいるのかどうか、いたなら何者なのか知る事が最優先だ。みつけても戦闘行為は禁止する。
軍部はフバーに協力せよ」
ハルの評価は下がっただろうが、解任されなかっただけマシであった。
ハル一族に有力者が多いのと、妻の兄はは財務大臣なのでそれで助かったのかもしれない。
今は引いても、いずれ挽回するチャンスもあるだろう。ハルはフバーに協力することにした。
「上様、基地に思いの外資材が残されておりましたので修理は順調でございます」
「ただ、あくまでも応急修理でありまして、損傷の酷い何隻かの艦は部品取りとして使わざるを得ませんでした」
「何隻使えなくなる?」
「7隻でございます。機関は壊れておりませんので残念でございます。何より砲が足りませぬし、キールをやられたり、連携システムが不調で艦隊機動についてこれませぬ」
「ならば、3隻と4隻に分けて、それぞれをまとめた上で残っている資材を全て使って超強装甲の巨大装甲艦を造るのじゃ」
「エンジンを暴走させて敵に突っ込ませれば、さぞかしびっくりするじゃろう」
「承知いたしました」
3ヶ月あまりの間、艦隊の整備に時間を費やした我々は再びガラミスに向かって航海を始めた。
よく見ると継ぎ接ぎだらけの巨大な艦が2隻加わっている。
どうせ突撃するだけで、武器も積んでいないからと悪ノリして幽霊船のような仕上がりにしたので、とても不気味な外観になっている。
他の艦も、あっちこっちにやっつけ仕事の補修や補強がなされており、傷だらけである。
ガラミス帝国情報部は、ディスタス星系で敵艦隊を捕捉することができた。
天の川銀河からみれば、もうすぐアンドロメダ星雲という場所である。
敵の艦隊規模は超大型空母かもしれない巨大な艦船2隻を含む180隻程度の、ガラミスの基準で言えば小艦隊である。
黒い船体に不思議なマークが描かれている。
アンドモメダ星雲のガラミス本星に向かって航海しているようだ。
これに対しルーベルト総統は、第3方面軍総司令のハルゼス提督に戦艦7000隻を与えこれに対応させた。
明らかにオーバーキルであったが、獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。目障りな蝿は叩き潰さねばならない。
総統の勅命をうけ、ハルゼス提督は艦隊を組織してディスタス星系へ向かう。戦時中であり、軍の準備行動は早い。
ハルゼス提督は敵について考えている。敵はエメラルド星系に建設中だったガラミスの基地を壊滅させたかも知れず、タラバット星系のガラミス艦隊を殲滅して、タラバット星系自体も壊滅させたかも知れず、ロメールの率いる3000隻の戦艦も殲滅したかもしれない200隻弱の艦隊だという。
かもしれないというのは、あまりにもいい加減ではないか?少なくとも軍事行動を起こす理由としてはありえない。
だが、総統の勅命として彼には7000隻の戦艦が与えられここにいる。
大体ガラミス人以外は劣等種族なのである。
その劣等種族の200隻足らずの艦隊に上層部は何を怯えているのだ。
敵の小艦隊に対して7000隻で当たらなければならないような理由を知っているなら、それを教えずに出撃させるのはいかがなものか。
ロメール艦隊消滅の話は兵員達のあいだに徐々に拡がっている。死神や魔王が出たなどと言う話も出ているらしい。
宇宙をワープで飛び回るこの時代でも船員というやつは迷信深い。
皆、お守りの一つくらい持っているし、魔除けのまじないの一つくらい知っている。
おかしな話が広まる前に決着を付けないといけない。
「おい弾正、最近艦隊内でおかしなドラマがウケているらしいのう」
明日をも知れぬ航海ともなれば、娯楽も必要でございます」
「我らには艦隊内全てで共有できる、娯楽チャンネルが用意されておりまして、音楽からドラマ、ちょっとお子様には見せられぬようなものまで非番の時に楽しめるようになっております」
「ほう。で、なぜわしだけそれを知らぬ?」
「そうでございましたか?そんな筈は無いのですが、後でチャンネル表をお渡ししましょう」
「それはありがたいが、そこで『織田信長公・夜の天下布武』とか言うのをやっていて、わしそっくりなAI俳優が面白い演技をしているというのは、うぬの差し金か?」
「安土・桃山時代という独自の様式と芸術を開花させた上様らしからぬお言葉ですな。前衛的なゲイ術は中々理解されない物。ただ此度の作品では上様のゲイ術を下々に理解させやすいように工夫いたしておりますので、非常にウケております。上様も是非御照覧くださいませ」
「弥助、離せ、離さんか、ガラミスより先にこいつを始末してやる!誰がご乱心じゃ。こら、離さんかー」
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