宇宙へ-3

 天の川銀河最外周で我々は漂流する一隻の小型戦闘艦を見つけた。

 数人の生命反応がある事がセンサーで確認されたため調査のために船外艇を派遣する。

 結果ガラミスの艦艇ではなく、爆弾や機雷も仕掛けられていない事がわかり尾張にに収容したのであった。

 3日程で船員の治療が終わり、彼等は尾張の会議室に集められた。


 「私が本艦隊の司令長官を務める織田信長である。貴官の所属、名前、なぜあの場所にいたかを伺いたい」


 「ワタシハ、タラバットセイケイノ、オマールセイウチュウグンショゾク、ケガニーデアル」

 「ワレラハ、ガラミストコウセンチュウデアリ、オマールサイゴノカンタイトシテ、アノバショデタタカイ、ハイボクシタノダ」


 解析結果からも嘘ではないようだ。俺と弾正は補助装置により念話が可能だ


 「弾正、これはアレだな」


 「でございますな。ただ上様のお考えは少々不味いのではないかと愚考いたします」


 「不味いわけはなかろう。わしは絶対美味いと思うぞ」


 「私も喰えば美味いと思いますが、流石に宇宙船を飛ばすほどの知的生命体を喰ってしまうのは不味いのではないかと」


 そう。オマール人はどう見ても俺の基準から言うとカニとしか思えない二足歩行の甲殻類。最近生まれた地球人はガラミストの戦争で地球が荒廃したため、カニなど食ったことは無いだろうが、この艦隊の人間は皆戦国以来の転生者。あちらこちらで唾を飲み込む音がする。

 

 「で、貴官達はこれからどうする?乗っていた艦は応急処はしておいたので航行可能ではあるが」


 「ユルサレルナラ、コキョウニカエリ、ドウホウトトモニ、サイゴヲムカエタイ」


 「許可しよう。それに乗り掛かった船だ。

貴星まで護衛しよう」


 艦隊はケガニーを護衛しながら惑星オマールに向かうことになった。オマールには喰って良い非知的生命体もいるに違いない。俺の、いや、俺達の頭の中はカニ色であった。


 オマールに着いた時、星はガラミスの大艦隊に囲まれ、海は干からび、大地は汚染され鉄錆色に変わり、まさに最後の時を迎えようとして

いた。

 地球も同じような状態であったので、最後の艦隊が決戦を行ったとケガニーから聞いた時、オマールがこの状態である事は予測すべきであったが、頭の中をカニ鍋や焼きガニが駆け巡っていたため気づかなかった。いや、気づきたくなかったのだ。


 ケガニーは我々から離れ母星に向かう。なんとか包囲網を破って帰星するそうだ。

 ガラミス艦隊の一部が分離しこちらに向かう。総数ではこちらの10倍以上。向かってきた艦隊だけでも3倍はいる。


 「ガラミス討伐は我らの目的じゃ、ここに青蛙が集まっていたのはちょうど良い。カニ祭りを台無しにした報いを彼奴らの命で贖ってもらおう」


 俺の脳みそが高速演算、最適解が算出され、全艦隊に指示が出される。こちらに向かって来た艦隊の射程に入るギリギリまで突進、直前でワープ。惑星オマールの重力に囚われるギリギリに出現。ガラミスから貰った惑星破壊ミサイルをオマールに撃ち込む。すかさず再度ワープ。

 星の近くでのワープは絶対禁忌である。なぜならそれにより付近の重力バランスが大幅に狂い、軌道すら簡単に変わってしまう。

 ただ、そんな事のできるエンジンは無いので理論上の行為であって、現実には不可能であったのだが、我等には可能だ。


 結果、オマールの月がオマールに引き込まれ落ちてくる中、オマールが爆発。月の急激な重力変化により艦隊編成を乱され、僅かに対応が遅れたガラミス艦隊はそれに飲み込まれる。

 残りの艦隊の側面に出現した織田艦隊は出現と共に一斉射撃。3隻の戦艦を失うも完勝したのであった。


 「完勝でありましたな。さすが上様。ただ、オマールにはまだ数百万人のオマール人が残っているとケガニーが申しておったような気がするのですが」


 「あとは死ぬばかりだから、最期は同胞と居たいと言ってたではないか。少しばかり早まったとて大して変わらん。喰えぬカニなど居ても居なくても同じだとは思わぬか?絵に描いたカニと言うやつじゃ」


 「無茶苦茶な事を言ってる気がしますが、まぁすんでしまった事ですな。では航路を元に戻してガラミスに向かうと言う事でよろしいですかな?」


 「うむ。良きにはからえ」



 ガルバッチョ・ケガニー著「最後のオマール人」より。


 ガラミス艦隊に挑んだオマール最後の艦隊はその圧倒的な戦力差に為す術もなく消滅したのであった。戦闘中に生じた重力偏位により飛ばされた私の艦はもはや自力航行も不可能となり宇宙を漂っていた。

 そして、我々はアレに遭遇した。ガングレイに塗装された戦艦のみで構成された艦隊。それはまるで地獄の底から現れたような邪悪なオーラを纏い、突然我々の前に現れた。

 我々は武装解除され、彼等の旗艦に収容された。その船に乗っていたのは、まさに地獄から来た亡者であった。

 見ず知らずの我々の傷の治療をして、船を直してくれたのだから、彼等が親切なのは間違いない。だが、我々を見る彼等の目は、地獄から出てきて、ヒトを喰う悪魔の目であった。

 あれから数十年の時が過ぎたが、彼等のあの目は忘れられない。

 母星に戻って同胞と死ぬつもりで帰星した我々であったが、ガラミス艦隊の包囲網を突破しようとした時、大きな重力変化と共に爆発に巻き込まれ、再び飛ばされた。今回は飛ばされたと言うより、転移したと言った方が良いほどで、気がつけば大マゼランにいたのである。幸い艦も乗員も無傷であったが、我らの艦ではオマールに戻るのに3年以上の月日を必要とした。

 そして、やっとの思いで戻ったそこには母星は影も形もなく、小惑星帯が存在するのみであった。

 後に我々は第六天魔王に遭遇してしまったのではないかと思い当たったが、それを調べる術は無い。ただ、今でも時々夢に見て飛び起きる事のある、彼等の姿とあの目を思い出すと、あれは魔王であったに違いない。

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