宇宙へ-2

 西暦3834年。連邦政府も巻き込んで、俺の立案したガラミス討伐計画は実行にうつされた。そして、人類の期待を一身に背負い、俺達195隻の艦隊は地球を後にしたのであった。


 「時に弾正。何故我が旗艦はオワリなのだ?やはり、こういう場合、日本人的にはヤ○トではないか?」


 「上様、色々な問題があってその名前は使えませぬ。あそこはその手の問題には厳しいですからな」


 「だが、お主は大和国の国主であったではないか。それでもダメなのか?大体最期の旅路を行くフネがオワリでは終わりみたいで縁起が悪いでは無いか。それにあの歌もオワリでは締まらんでは無いか」


 「ダメと言ったらダメです。大体、出航後艦名を変えるなんてできる訳ないじゃ無いですか。

子供じゃ無いんだから我慢してください。歌なんて歌う必要はありません」


 馬鹿な事を言い合いながら艦隊は進む。この艦隊のエンジンは今までの核融合エンジンと違って全くの新機軸、重力波エンジンを積んでいる。

 まず構造が簡単で、小型な上に圧倒的にハイパワー。出力向上に伴い主砲を始めとする艦砲の威力が段違いに向上している。それに重力波干渉により、今まで恒星や惑星間の重力断層などを利用して設定していたワープポイントをかなり任意に設定できる。

 従来の核融合エンジンを使うガラミス鑑ではこんな真似は出来ないが、我々の重量波エンジンは多少の問題はあるものの、艦の能力を圧倒的に上げそれを可能にするのだ。

 何のために弾正がこんなものを造っていたのかについては、なんとなく想像出来なくも無いのであるが、今は言うまい。これが無かったら間違いなく、あのままオワリであったのだ。


 火星軌道を過ぎた所で海王星軌道にワープ。従来の艦では絶対出来ない移動である。敵前線基地の真ん前に跳んだ我々は砲撃開始。主砲のエネルギー砲が敵基地と停泊中の敵艦を蹂躙する。

 まさかワープポイントの無い警戒線の内側にワープしてくるとは思わなかったのだろう。抵抗らしい抵抗もできないまま敵基地と艦隊は壊滅状態となった。

 弾正が敵を討伐しろと言ったのはこの艦あっての事だ。従来の艦ではここで相打ち、旅は終わりであったろう。後顧の憂いを無くすために長宗我部少将に戦艦10隻をつけて太陽系内に残存するガラミス艦の掃討を命じる。


 その間に、我々は敵の生き残りを尋問しなければならない。なぜならガラミスはアンドロメダ方面から来たらしいという事しか分かってないのだ。敵の本拠地がどこにあるのかすらわからないのでは討伐のしようもない。俺は捕虜の連行を命じた。

 

 連れて来られたのは敵の基地の副司令官と艦隊の提督らしい。


 「我々は、アスペルギルス条約に基づく捕虜としての待遇を要求する。そちらの質問には一切答えるつもりはない」


 なかなか可愛いことをいうではないか。

 ガラミス人は我々とほとんど同じ体格の人類型の知的生命体である。肌の色が青いのと、顔付きが少々違う事を除けばほとんど地球の人類と変わりは無い。発声器官の構造などもほとんど変わらない。言語は違うが翻訳機を使えば普通に会話ができる。俺の補助脳には艦のメインコンピューターとリンクさせなくても膨大な情報とアプリケーションが入っているので、ガラミス人との会話には全く問題ない。


 「一方的に攻め込んで200億もの無辜の民を殺しておいて何を言うか。アスパラ条約など知らぬ。我は第六天魔王じゃ。人の世の掟など我らの埒外の事じゃ」


 「だが、わしの前で平伏さぬその気迫が気に入った。うぬをわしの配下に加えてやろう。これは特例じゃ。喜ぶが良い」


 我らを見ているガラミス人の膝が震えているのがわかる。


 「連れてゆけ」


 数日後艦橋に新しい仲間が加わった。例の分析ロボットに似た、青いガラミス君1号と赤いガラミス君2号である。彼らはガラミスに関する事なら知る限りなんでも答えてくれる。しかも美味いコーヒーやお茶を淹れられる機能付き。スバラシイ

 これで金髪の美人看護師さんがいれば完璧なんだが、それは言うまい。

 

 戻ってきた長宗我部隊を加えて、我らは太陽系外の航海にのりだしたのであった。


 ガラミスの前線基地から接収したデーターとガラミス君達の情報から、ガラミス本星までは順調に航行しても半年近くかかるらしい。燃料も物資も充分。特に期限のある旅では無い。行き着ける保証もないのだ。


 その日ワープポイントから飛び出した我々はガラミスの小艦隊を発見した。この辺りにはガラミスの基地は無いはずだ。

 とりあえず撃破して、生き残りを尋問する。


 「上様、青っ面共は海王星基地に惑星破壊ミサイルを運んでいたようです。我らを一気に殲滅するための新兵器らしいですな」


「青蛙どもめ、碌なものを造らんな。で、破壊したのか?」


 「いえ、勿体無いですから使わせて頂くことにしました。6基もありますし、どうせ破壊するなら敵の基地なり星なりで破壊した方がエコでございますから」


 「それってエコなのか?」


 「作ったやつの労力を無駄にしないという意味ではエコであるかと」


 「こちらで操作可能なのか」


 「専属担当の黄色いガラミス君3号をお迎えいたしましたので問題ありません」


 「デ、アルカ」


 新たな情報から、ガラミス帝国がこの辺に巨大軍事基地を作っているらしい事がわかった。ここをハブにして我らの天の川銀河と大小マゼラン星雲を制圧するためであるとか。

 目的のある旅ではあるが、急ぎの旅ではない。知った以上捨て置くわけにも行かぬ。


 天の川銀河の外周近くのエメラルド星系にそれはあった。2つの恒星が持っそれぞれの惑星系か゛交差している非常に珍しい配列となっている。

 複雑な重力関係により、その場所はいくつもの自然のワープポイントが存在し大艦隊の移動などに便利な場所となっている。

 しかも居住可能な惑星が3個あり、労働力の確保も簡単である。


 宇宙図を俯瞰していた俺は弾正に指示を出す。

「決死隊を組織して2日後の0840にこちらの太陽系の惑星N3のこの位置で惑星博多ミサイル2基を爆発させよ。そして4時間25分12秒後にN3のこの位置であと2基爆発させるのじゃ」


 俺の作戦は直ちに実行にうつされた。惑星N3表面で大きな爆発が起き、惑星は丁度そこに1番近づいたもう一つの太陽系の惑星S7の重量に引っ張られふらふらと軌道を外れて動きだす。一時間後、惑星S8と接触、さらに方向を変えて自分の太陽系のN5に向かう。S8も軌道を変えS3とぶつかる位置に向かって動き……


 「上様、なかなか壮観な眺めでございますな。少なくとも惑星やこの宙域に居た者は無事では済みますまい。いくつかの惑星は恒星に飲み込まれましょうし、ワープポイントも安定せず、この宙域に基地を作るのは100年かそこら不可能になりましょう」

 

 「弾正、良い物が見れたであろう。名付けて惑星ビリヤード。ガラミスの計画を文字通り粉砕じゃ。これより我らは銀河系を離れアンドロメダに向かうぞ」


織田艦隊よりはるか遠くアンドロメダ星雲にあるガラミス帝国本星にて、大ガラミス帝国の主ルーベルト総統はハル軍務大臣より報告を受けていた。


 「かねてより建設中でありましたエメラルド星域の基地が壊滅いたしました」


 「何故か?」


 「何者かの攻撃により、基地周辺の惑星軌道が乱されましてございます。あの場所は狭い空間に存在する2つの恒星と多数の惑星が相互に重力を及ぼしあうという特殊性故にワープポイントが多数ございましたが、逆手に取られ惑星同士の衝突が人為的に起こされました」


「責任者のマッカシー将軍と第六軍団は?」


 「我が軍の将兵五千万と労働奴隷のパラル人とサリウス人20億人は絶望的です。敵は最も人口の多い星を狙って攻撃しております」


「敵は何者か?」


 「不明でございます。艦は隣の銀河の地球の物に似ておりますが、我らとの戦に負けた滅びつつあるあの星に、この宙域まで進出できる艦があるとは思えませぬ。軌道変更に使われた兵器も作れないと思われます」

 

ハルが腕に装着されている末端を操作すると目の前の空間に宇宙船が投影される。その船体には織田木瓜が描かれていた。


 「偶然撮影できた敵の戦闘艦でございます。地球の物に似ておりますが、船体マークは未確認の物です」

 「只今、索敵部隊を派遣した敵の確認をしておりますれば、遠からず敵の正体はわかると思われます」

 「只今はバトランティスとの戦が最優先でございます。この件は私が善処いたしますので

お任せください」


 ルーベルト総統はこの時始めて、織田艦隊の存在を知ったのであったが、国務に忙殺される中、それはいつの間にか忘れられてしまった。

 

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