第3章 宇宙へ-1

 西暦3742年。ワープ航法を手に入れた人類は新たな新天地を求めて、やっと太陽系を脱出しようとしていた。


 西暦3822年。250万光年離れた隣のアンドロメダ銀河からやってきたガラミス帝国が、隷属か死を選べと戦いを仕掛けてきた。こんなに宇宙は広いのだから、知的生命体のいない豊かで居住可能な星など無限にあると思うのであるが、彼らはやってきたのである。

 文明の進歩にはある程度上限もあるようで、武器の性能で大幅に劣った訳では無かったが、太陽系にはもう資源も少なく、じわじわと劣勢となっでいった。


 西暦3952年。敵は木星まで迫っていた。ガラミスは小惑星帯より、推進装置をつけた隕石を地表に落とし始め、わずかに生き残った人類は地下都市群にこもり抵抗を続けていた。

 人類は今まさに滅亡の危機に瀕していた。


 私の名前はノブナガ・オダ。地球連覇アジア軍管区ニホン軍団に属する宇宙戦艦ムサシの艦長である。同じニホン軍団に所属する5隻の戦艦と3隻の巡洋艦と共に、地球最後の艦隊に参加、木星の第3衛星ガニメデを挟んでガラミス艦隊と対峙している。

 

 これに勝っても、もう戦艦も巡洋艦もこれっきりである。最終的に人類に勝ち目は無く結果は変わらないのであるが、我らにも意地がある。栄光ある地球宇宙軍の最後の艦隊として、対峙しているガラミス艦隊は相打ちになっても殲滅する覚悟であった。100年を超える戦火の中、60歳まで生き残れたのだ。命は惜しく無い。だが、ただでは死なつもりは無い。


 艦隊司令官のアカンベー・クロダ元帥がガニメデの右手から突撃する。敵艦隊に近づくにつれ陣が長くなる。見方によっては鶴翼陣を作ろうとしているように見える。ガラミス艦隊からすれば、数の少ない地球艦隊が鶴翼陣を作るのは自殺行為である。気が狂ったと思っただろう。ガラミス艦隊は紡錘形に陣形を変える。陣を食い破って殲滅するつもりだろう。

 だが、陣形を変える時のわずかな隙にニホン軍団所属の我々8隻が突入する。我が身の安全を顧みない特攻攻撃である。目標は敵の旗艦である。うまく敵の旗艦を沈められるなら大成功。

 とにかく敵の旗艦に突入することにより、敵の攻撃を短時間で良いからこちらに集中させられれば、タケナカ司令官の本隊が高速90度ターンにより敵の横っ腹に突撃する。船体の負担が大きすぎるため通常はやらない機動だが、最後の戦いならどうでも良い。

 

 突入速度が早いのと、8隻しか無い、艦隊とも言えない少数の艦船であるため、突入は成功。敵旗艦とその周囲の戦艦の砲門がこちらを向く、だが僅かに遅い。こちらの方が僅かに速い。向こうが先に砲撃するなら8隻の船など一瞬で消滅する。だが、わずかでもこちらが先に撃てるなら旗艦とその周囲の何隻かは破壊できるだろう。そしてその混乱の僅かな隙に本隊が突入する。中に入ってさえしまえば乱戦となる。多少の戦力の差など無いも同然。最後はどちらが命知らずかを競う根性勝負だ。

  

 旗艦の砲口はまだこちらを向いてないが、たまたまこちらに砲門を向けていた一隻の巡洋艦の方向がこちらを向いて砲撃を開始した。

 そんな物、痛くも痒くもないわと嘯きながら砲撃開始と言いかけた時、横にいた巡洋艦『アメカゼ』が突出、船体の方向を変え敵巡洋艦の砲撃を受ける。

 馬鹿か!ムサシを守っているつもりらしい。

完全にこちらの射線を塞いでいる。艦長のマサノフ・ツジ大佐から通信が入る。先に逝かせていただきますとかほざいて、見事なサムズアップ。

 俺は中指を突き立て、くたばれと怒鳴る。絶好のチャンスを逃した俺たちはタコ殴りにされる。ああ、これで本隊もガラミス艦隊の中に突入するチャンスを逃してしまったに違いない。船体のあちこちが爆発するムサシの中で、遠のく意識の中、来世でツジと会うことがあれば絶対ハメゴロシにしてやると俺は誓っていた。


 頭痛が酷い。俺は知らない部屋で目が覚めた。どうやら異世界ではなく病院らしい。


 「お気づきになられましたかな?」


 参謀長のダンジヨー・H・マツナガ准将である。またこのパターンか。


 「弾正、今度は何をせいと言うんじゃ。もう艦も兵もおらぬ。わしは何でも出てくるポケットもついて無いし、チート魔法など使えんぞ。ただのジジイじゃ」


 「上様が覚醒されるだけで充分でございます。あれこれ予定はあったのですが、ガラミスの青っ面共が横から割り込んでまいりまして、全くふざけた話でございます」


 「話が見えんが、ガラミス人にしかかからぬ殺人ウイルスでも見つかったのか?それともタイムマシンでも作ったのか?」


「上様に率いていただく艦隊はございます。これでガラミスと戦い、お家芸の殲滅戦を行っていただきます」


「我らがやられたのが最後の地球艦隊であったはずだが、古い宇宙戦艦でも発掘したのか?」


 「いえいえ、最新型の宇宙戦艦200隻でございます。地球政府にはもう何も残っていませんが、これはオダの私設宇宙軍の戦艦です。こんな事もあろうかと密かに準備しておいた物でございます」


前回それを出していれば、勝ち戦だったかもなどと考える俺はおかしいのであろうか?

 となると、ツジ大佐はこいつに操られたのか?考えまい。今更戦艦200でガラミスを倒せるとは思えないが、先日の戦いで敵も全く無傷とは思えない。うまく戦えば海王星に作られたガラミスの前線基地くらい潰せるかもしれない。


 「わかった。我等の手にある艦船、物資、人的資源全てを教えよ。わしは表に出ている地球連邦の戦力しか知らぬ故な」


 「承知でごさいます。早速上様の補助記憶装置に転送いたします。当然の事ながらウエスギ大将、タケナカ参謀、キノシタ少将、クロイワ少将などは既に上様の元に馳せ参じております」

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