世界大戦-10

 ルーズベルト大統領は腹心の国務長官コーデル・ハルを前に頭を掻きむしっていた。

 「2年の準備期間をかけ、起死回生を狙った作戦がなんたるざまだ」

 「残った空母を再編成して機動部隊を作っても、せいぜい2つ。日本も機動部隊を2つは持っているに違いない。4つの機動部隊を潰して敵の失った機動部隊はひとつ南太平洋の部隊のみだ」

 「おまけに敵のジェットエンジンの戦闘機にF6Fは全く歯が立たなかったというではないか。

国民には引き分けたと発表したが、実は負け続けているのではないかと言っている新聞もいるらしい。共和党の上院議員の中には講和すべきだと言い出した者もいる」


 「大統領閣下、イギリスが航空戦を制しドイツ空軍を追い払いました。そして地中海のUボートを沈め、イタリア海軍を港にとじこめて地中海の制海権をほぼ取り戻しました」

 「我が国の援助なしには成し遂げられなかった成果ですから、これを我が国の手柄として大々的に発表しましょう」

 「幸い、M計画は順調です。日本本土爆撃のために開発されていたXB-29をさらに発展させて6発の超長距離戦略爆撃機を開発。M爆弾による一発逆転しかありますまい。ジェットエンジンは我が国でも開発中です。そちらの予算も大幅に増やしましょう」

 「戦時国債を発行すれば予算の調達は可能です。勝ちさえすれば賠償金で償還可能です」

 「それと、イギリスが日本から航空機搭載の誘導噴進弾を買っているという情報があります。ひとつ手に入れられれば我が国でも量産可能かと」


 チャーチルは執務室から窓の外を見ながらトレードマークの葉巻を燻らせていた。スーパースピットをあれから更に1000機購入する事ができて、戦局はこちらに有利に傾いた。パイロットの損耗も減り戦いはだいぶ楽になった。現在ドーバーを挟んで勢力は拮抗しているが、条件によってはカレーあたりに逆上陸が可能だろう。

 アメリカが誘導噴進弾を渡すように言ってきた。断れば物資の援助を減らすという。地中海と北海を抑える事ができた今、Uボートの大西洋進出はかなり少なくなっている。インド、スエズ、ジブラルタルルートに問題なければ東南アジア、インドや中東から物資は入ってくる。

 アメリカに送り込んであるこちらの情報員の報告では日本が高性能のジェット戦闘機を使ったようだ。我が国でも研究しているが、実用化には数年かかるだろう。どうりで気前よくスーパースピットを渡してくるはずだ。ひとつの兵器だけ突出して高性能なはずはなく、他にもあれこれ隠しているに違いない。馬鹿なヤンキーめ、あれ程手を出すなと言ったのに。戦後のイニシアチブをとるには勝ち馬に乗らねばならぬ。何年も前に我が国と日本で世界の海を守ろうなどというたわけた申し出があったが、案外悪くない案かもしれぬ。

 とりあえず、アメリカの申し出は却下。ジェットと他のゲームチェンジャーになりそうな兵器が手に入らぬものか?案外、頼めば売ってくれそうな気がする。


 1943年晩秋。ドイツでシュタウフェンベルク大佐によるヒトラー暗殺未遂事件が起こった。

多数の上級軍人が関与していたため、ドイツでは逮捕者が続出していた。

 北アフリカ戦線は戦闘意欲の低いイタリア軍との共闘、兵站の断裂による物資や兵器の慢性的な欠乏などの悪条件にもかかわらず。ロンメル元帥の卓越した指揮により均衡状態を保っていたが、ヒトラーはロンメルを召喚して投獄した。

暗殺に関わった証拠は無かったが、その国民的な人気とかねてからヒトラーのユダヤ人やポーランド人に対する政策やソビエト侵攻に批判的であった事が、ロンメルにとって災いとなった。

 1943年冬。イタリアでムッソリーニが失脚。新生イタリア政府はイギリスと講和。中立を宣言し全ての国境を閉鎖。ドイツに断りなく北アフリカからのイタリア軍の撤退を開始した。

 ヒトラーは激怒し、イタリアへの進軍を命じたが、本大戦において、北アフリカ以外でほとんど戦っていないイタリア軍はかなりの兵力と兵器を温存しており、それを簡単に打ち破る兵力はドイツにも無かった。

 北アフリカからエジプト、中東へ進出する目論見でイタリア主導で始まった北アフリカ戦線であったが、1943年の時点では北アフリカに有望な油田は発見されていなかった。

 ここの奪い合いをしても兵力と物資を無駄に浪費するだけとなり、地中海の制海権を確立できない状態では、ドイツにとって北アフリカに兵力を注ぎ込む事は全く意味が無かったのである。

 ただ、ヒトラーの面子の問題もあって撤退する決断ができなかった。ロンメル不在により押された戦線に更なる兵力を注ぎ込み、すり潰す事は全くの愚策であったのだが。

 

 結果、全ての戦線が膠着して兵力の慢性的な消耗がつづくドイツは八方塞がりとなってしまった。同じ頃、スターリン東ロシア帝国による西進に悩まされていた。政権をとった後、あまりに多くの国民を粛清したスターリンは国民に恨まれていた。

 ロシア皇帝の支配下にあった時は長い間、農奴が沢山いてそれを少数の貴族たちが搾取する禄でもない時代だった。アレクサンドル2世が農奴解放を行ったが、生活は苦しくなり、息子のニコライ2世がが跡を継いだが、生活は変わらず、レーニンが立ち上がり、ニコライ2世が東に逃げた。

 少し自由になった気がしたが、すぐに帝政と同じ窮屈な生活になった。貴族に代わって共産党員という赤い貴族が現れ、更にスターリン時代になったら密告や賄賂が横行し、粛清という名目で隣人や家族が次々と殺された。農地を取り上げられて集団で荒地に強制移住させらたり、宗教が禁止されたり、何のために行っているのかわからないような政策が次々と行われて、ツァーリ(皇帝)の時代が天国にも思えたものだ。

 東に逃げて国を作ったニコライ2世の跡を継いだアレクサンドル3世は、立憲君主制という貴族も平民も平等の国を作ったらしい。税も公平、賞罰も公平、神を讃える事も許され、ユダヤ人差別なども禁止されているという。

 進軍してきたロシア帝国軍は赤軍兵士のような暴行も処刑も略奪も行わず、食料や薬を配り、今度こそ、自分達の力で自分達の国をつくろうと訴えている。

 それにどう見てもロシア帝国軍の方が武器も良く、痩せてやつれたような兵士もいないし圧倒的に強い。侵攻地の民衆は帝国を支持した。

 赤軍でも政治将校や督戦隊がスターリンに対する忠誠を誇示するため、一般兵士達を背後から撃ったため脱走兵が相次ぎ、脱走した彼等は己の身を守る為、帝国軍に寝返った。

 ウララ山脈で何とか帝国軍の侵攻を止めることができたが、これは赤軍の力でなく、兵站が伸びすぎた東ロシア帝国が、そこで止まっただけであった。

 

 1944年初頭。ドイツとソビエトが電撃的に講和した。だが、お互いに信用する事ができず、国境線に大軍を残したため燃料と弾薬の消費こそ抑えられたが兵力を他にまわすことは出来なかった。

 

 スターリンは何が起こっているのか理解していなかった。いや、理解していたが、わかりたくなかった。今日も腹心のモロトフに当たり散らしている。


 「共産主義革命のおかげでツァーリから解放されたというのに、頭の悪い人民どもはロマノフ家のクズどもにエサをちらつかされてまた農奴に戻りたがっている」

 「ルーズベルトのクソのおかげで何もかも台無しだ。日本と戦い、全体主義に勝利するとかほざいておったが、本気で戦っているのか。海戦を何回かしてヤケドをしたくらいで、やる気が見られん。日本の武器がアレクサンドルのガキに大量に提供されているではないか、まさかアメリカ製の武器を日本経由で渡してるんではあるまいな」

 

 モロトフはわかっていた。大ロシアの人民は共産主義革命なんて理解していない。彼らにとってはロマノフ家の皇帝が、レーニン皇帝になり、スターリン皇帝になっただけだ。

 権力欲が強くて、冷酷で残忍、猜疑心が強くて、恐ろしいカリスマ性を持つこの男はロシアの歴史上最も多くの国民を殺した皇帝なのだ。

力を落としたツァーリを倒す革命は正しいとすり込んだのだから、国民にとってはスターリン皇帝を倒す革命を起こす革命は正義なのだと。

 彼は西をドイツ軍に、東をロシア帝国軍に抑えられたこの状況でスターリンに殺される事なく、家族と自分が無事に亡命する方法を考えていた。


 1944年夏。イギリス軍とドゴール率いる自由フランス軍の20万人がドーヴァーを渡りノルマンディに上陸した。イギリス軍の上陸作戦が企てられているという情報は1943年秋ごろからドイツ軍も把握していたが、ドイツの守るべき海岸線は長く、最終的にカレーかノルマンディのどちらかであろうと分析された。が、結局確証は得られないままであった。

 1944年春よりカレー周辺の砲台や飛行場が次々と爆撃を受けて破壊されていった。ドイツ軍防衛部隊の戦力は低下し、カレーに上陸されても防衛しきれない程になったため、ドイツは各地から兵団を引き抜き軍をカレーに集めた。


 その日の閣僚会議において、チャーチルの直属情報機関MISより数枚の写真とその分析が提出された。ここ数日の大陸におけるドイツ軍の配置が航空写真のような写真と共に正確に調べられている。

 MISはチャーチルが首相になって設立されたチャーチル家、その一族スペンサー重工業などの情報分析部門を母体として組織された私的直属機関であり、運営予算もチャーチル家や一族の財閥から出ている。規模も構成員もわからない全てが謎に包まれた情報機関である。

 情報はピンポイントで、情報源も全く不明であったが、今までもたらされた物は恐ろしく正確で間違っていた事はない。


 情報と分析の正確性のみで評価するなら膨大な予算と人員をつぎ込んでいるSIS、通称MI-6をもってしても足元にも及ばなかった。ただ、MISという組織が、国内の他の情報機関をもってしても全く影すら掴むことができないのは、その実態について長であるはずのチャーチルすら知らないからである。MISの実態はチャーチルが執事の前で、○○について意見を聞かせてくれないかなーとか、知りたいなーと呟くと数日後の朝食時にチャーチルのテーブルの上に茶封筒が置かれているというアラビアンナイトの世界のような物であったからである。『良い執事のする事に口を挟まないのが良い主人』というチャーチル家の家訓に従って彼が彼について何かを聞いたり、余計な口を聞く事はない。封筒の中身に目を通して、ご苦労と頷くのみである。


 戦艦と巡洋艦の艦砲射撃と王立空軍RAFの強力な支援のもと、イギリス軍は短時間で橋頭堡を確保した。次いで上陸してきた工兵と重機により飛行場やレーダー基地が設立され、イギリス本土から次々と航空機が飛来した。そのあまりの手際の良さに不意をつかれたドイツ軍は部隊立て直しのため、パリの北西まで部隊を下げたのであった。ドイツは新兵器、飛行爆弾V1を投入したが、スピードが遅く飛行高度もそれほど低くない為、レーダーで把握されスーパースピットの対空噴進弾で撃墜された。

 

 この時期、日本軍はアメリカ西海岸の軍港や基地、兵器廠などを爆撃していた。高射砲でも迎撃機でも届かない成層圏を飛んできて爆撃をしてきたり、どこから発射したのかわからない対地ミサイルや巡航ミサイルが突然飛来する。

炸薬量は多くなく、威力も戦艦の艦砲ほど大きなものではないが、軍事関連の施設をピンポイントで攻撃してくる。ほとんど防御不能な上、レーダーを無効化する電波が度々使われ、しかも妨害電波だけで攻撃が無い時もあり、防衛側はストレスが蓄積する。

 事前に橋や鉄道を破壊すると言う通告が、乗っ取られたラジオ放送でされるが、日時や時間は告げられないため、常に緊張状態を強いられる。最初は団結を訴える声もあがり、志願兵の応募が増えたが、具体的に防ぐ方法が無いため、なんの役にも立たない。結局政府に対する批判が増える事になった」

 

1944年秋。ルーズベルトの執務室で、ハル国務長官がルーズベルトに報告をあげていた。

 「XB-36の試作機ができまして、試験飛行は大成功です。高度12000メートル以上を飛び、作戦行動半径は4000キロをこえます。M計画も順調で特殊爆弾をXB-36に搭載すれば敵の都市も艦隊も、一発で壊滅します」


ここ数ヶ月、慢性的な不眠と頭痛に苦しめられていたルーズベルトはこめかみを押さえながら言う。

 「敵のジェットは高度15000を飛んで来るそうではないか、XB-36を飛ばしたとて、目的地に着くまでに撃ち落とされよう。こちらもジェットエンジンを搭載する航空機を実用化して更にその上空を飛ばねば撃ち落とされるために飛ぶようなものだ」 

 「M計画は順調だが、開発中のどちらの爆弾も4トンを超える大きさだ。運べる航空機は爆撃機しか無い。重量と威力が大きすぎて、攻撃方法が限られるのだ。どこで計算が違ったのか、大西洋はともかく太平洋は負け続きだ」

 「議会では早期講和を求める声も上がってきている。黄色人種をつけあがらせるのは不本意だが、一旦講和して戦力を整える必要があるかもしれない」


 ソビエトが東ロシア帝国に押されてドイツと講和した事はハルも知っている。ここでアメリカが日本と講和したらソビエトに対する圧力は更に強くなり、最悪ソビエトの消滅もあり得るだろう。

 人類が、貧富の差と、富める者による弱者に対する搾取を無くし、労働者が働いた分だけ報われる社会を作るためにたどり着いた共産主義という叡智をここで失う事は許されない。

 M計画に関わる者たちの中にも細胞はあるはずだ、最悪M計画の成果をソビエトに渡し、起死再生の起爆剤とするべきだ。 

 「閣下、最悪潜水艦で新型爆弾をハワイかアラスカ、ミッドウェイあたりで起爆させ、我が国の力を誇示した後で講和すべきです。奴らは航空機や噴進弾、レーダーなどの技術は残念ながら我が国を上回っているようですが、一つ一つの兵器の威力はかなり弱いです」

 「大型爆撃機や大型爆弾を使った事はありません。長い鎖国状態にあったため、防衛目的の兵器しかないのではないかと考えます」

 「今まで受け身であった日本軍から攻撃を仕掛けてきてはいますが、西海岸に小規模な攻撃を繰り返しているのみです」

 「彼らもこの広いアメリカ大陸を上陸占領するような力はありますまい。ましてや今、西進する東ロシア帝国を援助しながら、イギリスに武器や軍需物資を売っております」

「西海岸攻撃は彼等からの講和のサインとみることもできます」


 久々の日本。

 「抜けない棘というか、喉に引っかかった小骨というか、いやらしい攻撃は流石上様というべきですな」


 「此度の戦のために50年もかけて準備してきたが、アメリカが思ったより消極的なせいか、かなり武器が余っておる。この際旧式武器は使ってしまうか売り払ってしまいたい。古い余剰武器など持っているだけで維持費がかかるし、変な所に流れでもしたら、それはそれで問題じゃ」

 「ロシア帝室にも恩を売れるし、恩だけでなくかなりの金も貸しておる。更にイギリスに売って大量の国債を買い込めば、戦後主役の1人となるだろう彼の国の経済に影響力を持つことができる。アメリカもこのまま、ちまちま虐めて時期を見て火をつければさぞかし見事な花火が見られよう」


 「左様でございます。アメリカ国旗のような沢山の星が見られるかもしらませぬな。いずれにせよ、今のところは、ほぼ我らの目論見通り」


 話は一年程戻って1943年冬。チャーチルはジェット戦闘機と巡航ミサイルが手に入らないかと執事に相談していた。執事によると不可能ではないが、どちらも操作や操縦、整備技術などが特殊でありオーストラリアからの技師や数名のパイロットの派遣では不可能。

 ベテランパイロットを訓練しても最低1年以上の期間が必要であるという事で、120名のパイロットと同数のジェット戦闘機。巡航ミサイルを運用するためのミサイル巡洋艦2隻とそのための船員や兵器の整備技術者として8000名の人員をオーストラリアに運び、訓練をほどこした上でジェット機とミサイル巡洋艦と共に戻すのはどうかという提案がされた。船舶は今余っている巡洋艦の改造品でよければ格安で提供するとのことである。もちろん性能には全く問題がない。

 また、数があれば戦略的運用が可能となるため、インドの王立インド空軍からも同数の人間を派遣する事も提案された。

 

 チャーチルは優秀な人間であったので気付いていた。

 戦時中でしかも大陸をドイツに抑えられ、島国に押し込められて困窮しているはずの英国が、半年前くらいから妙に好景気である事を…

 半年前、日本から来た船団と共にやってきた日本政府の高官から、正式な国交樹立と戦後相互に大使館を開設すること、相互通商条約が提案された。

 何故か議会の反対もなく承認され、女王陛下がサインされて条約締結となったあたりから、地中海の制海権が復活し東南アジア、インド、中東から物資が入り始めた。いつのまにか設立されたスペンサーエレクトロニクスなる会社から、新技術が次々と発表され、レーダーや通信機から真空管が消えて耐久性が上がり、小型化して性能がどんどん良くなった。

 コンピューターなるものが導入され、弾道計算などが格段に早くなった。

 いつのまにかテレビ放送が始まり、街角の常設テレビで国民に直接訴えることができるようになり、工場では自動化や作業のライン化が導入され、効率が良くなった。安くて性能の良いトラックや車が売り出され、国内の物の流通が良くなった。


 日本に膨大な額の国債を渡しているが、この戦時下であっても、軍備以外のイギリス経済の拡大がかなり大きくなっている。無視できるほどの額でないのはもちろんだが、将来経済の足を引っ張る事もないだろう。

 戦前から、世界各地の植民地で独立の機運が高まっていたが、このままいけば、各地の植民地が独立してもイギリスはやってゆけそうである。20世紀に入って植民地経営に頼った国家経済は行き詰まりを見せていた。21世紀に向けて新しい国家経済の運営を考えてゆく時期であろう。

 もちろん今起こっている事が、彼の政治家としての能力とまったく関係なく、他の誰か、神のような力を持った何者かの意思によるものである事はわかっている。更に、もしたら執事のブラウンの意思によるものかもしれないという

考えが浮かんだりもするのだが、そこはチャーチル家の家訓『執事を疑うことなかれ』を思い浮かべて毒をくらわば皿までと思い流れに身を任せるのであった。


 そして1945年初頭。フランス戦線にドイツのジェット戦闘機Me262が登場した。パワーはあるものの、旋回性能が悪くドッグファイトに向かない。燃費が悪く30分程度の作戦行動しかできない。エンジン寿命が24時間くらいと、欠点の多い機体ではあったが、その高速性能は突出していた。追尾式噴進弾を装備するスーパースピットにとって発熱量の多いMe262は最初に噴進弾を発射すれば落とす事は簡単であったが、

搭載できる噴進弾は一基だけであったので、それを発射した後のスーパースピットにとってMe262は厄介な相手であった。

 

 Me262に加えて、高高度戦闘機Ta152、更に高性能なジェット戦闘機Ta183が戦場に出現するようになり、流石にスーパースピットでは不利になってきた頃、イギリスの機動部隊が地中海に入ったという連絡がチャーチルの元にもたらされた。なんの事かわからないので確認をとっているうちに船団はイギリスに到着する。

 空母が4隻とミサイル巡洋艦6隻、数十隻の輸送船が300機のジェット戦闘爆撃機と共に、大量の巡航ミサイルや地対空ミサイル、高性能レーダーなどを積み、駆逐艦に護衛されて到着した。

 

 空母はアングルドデッキと二基の蒸気カタパルト、甲板の両脇にエレベーター。艦橋の前後に見慣れない形の砲塔を持った対空機銃らしい物、他にいくつものレーダーを装備している。戦闘爆撃機の他に一隻につき対潜ヘリ2機、早期警戒機1機も積んでいた。巡洋艦も沢山のレーダーを装備、砲塔は2基で、甲板上にはやはり2基の砲塔を持つ対空機銃とミサイルの発射装置のようなものが何基か装備されている。

そして巡洋艦の一隻は武装を減らして通信機能や指揮機能を充実させている。

 ただ、よく見れば艦首の形、艦橋の形などから元はアメリカの空母と巡洋艦、日本に売ったイギリスの巡洋艦であった事がわかる。たくさん買って頂いたし、兵の訓練費用も充分にいただいたので空母はサービスですと言われて引き渡された。


 イギリスの新型戦闘爆撃機の登場により、ドイツ空軍は壊滅的な敗北を喫し、パリは解放されたのであった。同じジェットであっても、それ程両者の性能はかけ離れていた。機体の差だけではない。レーダーでより早く見つけ、他対空ミサイルで混乱させられたところに突っ込まれたら勝ち目はないのである。

 また、イギリスが独自に開発した、強力な双発エンジンを積み、防弾性能をあげ、40ミリ機関砲と多数の誘導対地ミサイルと小型爆弾を積み、低速飛行のできる対地攻撃機ドラゴンフライによりドイツの誇る機甲部隊は次々と破壊されていった。


 イギリス政府は日本から兵器を買い付けた方が、結果的に安くて高性能。自国民の被害も大幅に減るという事で、一方的な貿易赤字ではあったが、積極的に購入したのである。

 イギリスに沢山の物が入り込み、一部は既に国内で生産されたり整備されている。一部特許料は発生するが、これだけの物をぽんぽん渡してくる日本の技術はさらに上を行っていると思われる。ただ彼らも同じ人間である。特別優秀な訳ではない。技術供与時に特許などの契約が細かく決められているのは、それをきちんとしておかないと追いつかれ追い抜かれると思っているからだろう。今回の武器や技術の購入によるイギリスの技術や知識の底上げをうまく扱えれば、今後の世界の中でイギリスは技術立国として植民地無しでも世界のリーダーの一角としての立場を維持できるだろう。彼等は既に戦後をみていた。


 巡航ミサイルの祖先、V1飛行爆弾は600キロという速度と、飛行高度の高さ故、対空ミサイルに撃ち落とされた。

 ドイツの秘密兵器V2ロケットも、発射されてしまうとマッハ5にも達するため撃墜不能であったが、発射に4〜6時間を要し、射程は320キロに過ぎず誘導システムが未熟な為目的地に到達出来るものは半分も無かった。ヒトラーがロンドンの破壊にこだわったため、それがわかってしまうと発射地点を見つけやすく、金のかかる兵器の割には効果は低かった。また、誘導システムの未熟さ故に展開している敵部隊を狙って発射するような事も出来なかった。

 前世界ではそれなりの効果をあげた兵器も、ある程度の性能を知られてしまうと対策され効果が低くなってしまった。


 イギリス軍は、ミサイルの性能を生かすためにと、ヨーロッパ上空の偵察衛星と衛星測位システムにリンクする方法と権限を供与された。

 巡航ミサイルや地対地ミサイル、航空機による爆撃はドイツ国内の工場、送電網、ダムなどの発電所、鉄道、橋などをピンポイントで攻撃した。ドイツは地下壕に工場を移して対抗したが、発電所や電気が足りなくては充分に稼働できず、ドイツの工業生産は急速に低下したのである。

 チャーチルは執事に何故もっと早く教えてくれなかったのかと聞いてみたかったが、大人なので我慢したのであった。聞かれませんでしたのでと言われそうだったからである。


 1946年春。ドイツでヒトラーが死亡。ドイツ国内で海軍による反乱が起き、空軍と一部陸軍が同調。ナチス幹部が大量に逮捕された。

 ロンメルが解放され暫定政府を作る、俗にいう雪解け革命が起き、ドイツは英仏に対し無条件降伏した。

 ヒトラーの死は暗殺とも病死とも言われるが戦後の調査でも真偽は不明であった。

 

 ドイツ降伏に乗じてスターリンがドイツに進攻したが、勢いに乗るイギリス軍と報復を恐れて武装したまま本国に戻りつつあったドイツ軍に、はね返された。

 最後の賭けに負けたスターリンは権力を失い、共産主義国であったモンゴルに亡命しようとしたが、途中行方不明となり歴史の舞台から姿を消した。

 後継の書記長となったニキータ・フルシチョフはイギリスに接触。東ロシア帝国との講和の仲介を依頼したが、その返事は共産主義を放棄するならというものであった。

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