世界大戦-11

 1945年秋、アメリカにおいてM計画が成功。

最初の核爆弾が完成し、最初の核実験が行われる事となった。

 その直後イギリスのチャーチルからルーズベルトにやめておけという忠告と共に、M計画で開発された核爆弾2種類の設計図、ウランやプルトニウムの抽出方法などが詳しく書かれた資料が届けられた。爆弾こそ同じものでは無かったが、ほぼ同じ構造でより完成した物であった。


XB-36のジェット化の見通しは立たず、補助エンジンとしてジェットエンジンを追加する事なども試されたが、わずかに速度や高度を上げる代わりに航続距離が大幅に減ることとなった。

 

 「核爆弾は完成したが、運搬手段が無い。敵戦闘機と渡り合える戦闘機の開発の目処はたたず、フランスではイギリスが日本から買ったジェット戦闘機でドイツの戦闘機をバタバタ落としていると言う」

 「おまけにヨーロッパで戦うインド空軍までジェットやミサイルを使っているらしい。設計図を見る限り日本の奴らが核爆弾を持ってない理由など一つも無い。ウランだってイギリスの植民地のコンゴで採掘できる。イギリスから日本に渡っていない理由はない。さらに言えば奴らがそれを積んで太平洋を横断できる爆撃機を持ってないという根拠も無いのだ」

 「思えばこの戦争は最初から変だった。やることなす事裏をかかれて負け続きじゃないか。時代遅れの植民地経済に依存した欧州が第一次世界大戦と今度の戦争で没落し、20世紀はアメリカの時代となるはずだった」

 「まさかとは思うが、腐れジョン・ブルが裏で絵を描いて、かつての大英帝国の栄光を取り戻すために、日本に我々を叩かせたんじゃないのか」


 首まで赤くしてルーズベルトは執務室の中をイライラと歩き回る。この時ルーズベルトは酷い高血圧であった。まだアメリカには治療法は無く、頭痛や肩こりなどが彼を苦しめていた。


 国務長官のハルも同じように八方塞がりであった。

 ソビエトが東ロシア帝国に飲み込まれ消滅すれば、アメリカの労働者を団結させて共産革命を起こす事など不可能になってしまう。そしてモンゴルが世界で唯一の共産主義国家となってしまうが、そうなればモンゴルも遠からず共産主義を放棄してしまうだろう。

 太平洋からソビエトに援助を送る事は日本がある以上できない。大西洋からの援助はドイツがさせない。今の現状ではイギリスも邪魔をするだろう。

 核爆弾と爆撃機の技術をソビエトに渡す事も考えたが、帝国軍がウラル山脈を越えた今、ソビエトが独力で作れるとも思えない。

 大体、ロシア人は革命によりロマノフから解放され共産革命の理念を学んだのに、何故再び皇帝の元に集まりソビエトを攻撃するのだ。

 頭も良く、高等教育を受け生活に苦労をした事など無い彼には、労働者や民衆という言葉は

頭の中に存在する単なる言葉であり、実際の労働階級である季節労働者の農民や工員とは、会った事も話した事も無かった。


 結局、考えられていた日本本土やハワイへの核攻撃は無理であろうという結論となり、アメリカの核の保有とその威力を誇示して講和に持ち込み、アメリカとイギリス、それに日本を加えた核保有国主導による新しい世界秩序の提案を行おうということになった。

 ハルもソビエトが無くなる前に日本と講和。そして世界平和の名の元に日本を説得。東ロシア帝国への軍事援助をやめさせ、ソビエトと東ロシア帝国を講和させることにより、ソビエトを存続を図るためこれに賛成した。彼は自分の外交能力に自信を持っていた。


 1946年1月15日。予定通りニューメキシコのアラドモード砂漠にて最初の核実験が行われ、世界に事実が公表された。


 その1週間後、研究の中心となっていたロスアラモス、ウランを精製していたオークリッジ、プルトニウムを精製していたハンフォードの3箇所に高度15000mを飛ぶ大型爆撃機の編隊が飛来し、爆撃を行った。事前にレーダーは無力化されており、迎撃に上がった戦闘機もその高度まで届かず高射砲も役にはたたなかった。その爆撃の威力は凄まじく、アラドモードで爆発した核爆弾より強力な程で、遥かに広い範囲が、荒れ狂う炎の嵐により文字通り消滅した。


 その報告を受けたルーズベルトは脳卒中で急死。副大統領のハリー・S・トルーマンが33代大統領となった。彼は改造潜水艦に核爆弾を積み密かにハワイやミッドウェイ、アラスカなどに近づき乗員が脱出した後爆発させるというサンダーボルト作戦を発令した。


 1946年3月。西海岸のラジオ局が電波ジャックされ講和に応じなければ2週間後にアラドモード砂漠にて日本の核実験が行われるという放送がされた。

 トルーマンは、はったりであり、断固拒否する事を国民に告げた。その日、大気圏から突入した大陸弾道弾はアラドモードで爆発した。それはアメリカの核爆弾の数百倍の威力であった。

 議会において、トルーマンを非難する声が大きくなるなか、共和党のジョセフ・マッカーシー上院議員から、前政権と現政権、民主党議員の中にソビエトのスパイが沢山いるという告発がなされて証拠が提出された。

 FBIのエドガー・フーバーにより裏付けがなされて前国務長官のコーデル・ハルを始め沢山の逮捕者が出た。

 選挙で選出されてないトルーマンの立場は弱く、彼は辞任を表明せざるを得なかった。


 1946年8月。第34代大統領に共和党のアイゼンハワーが選出され、日本及び同盟国とアメリカの間に、国境も戦前のまま、領土割譲も賠償金もない講和条約が結ばれた。まだ、あちらこちらで戦火はあがっていたものの、これを持って一応の世界大戦の終結とみる歴史家も多い。


 アイゼンハワーは偏見や差別意識も少なく、

安定した手腕で国家運営を行ったが、FBIのエドガー・フーバーが大統領周辺、国会議員、企業経営者などに対して盗聴を行い、弱みを握って自由にしようとしていた事が発覚したり、戦争中生産力を上げるために中南米から沢山の労働者を雇ったが、戦後彼らが帰ろうとせず残ったため国内の治安が悪くなった事や、民主党のルーズベルトのやったこととはいえ、政府が国民に沢山の不都合な事を隠していた事が露見し政府に対する信頼は低下。彼の政権の後は共和党にも民主党にも属さない若き大富豪のジョン・F・ケネディが国民の圧倒的な指示の元、35代大統領となった。

 

 彼は軍事費削減、世の趨勢を反映した人種差別の禁止と黒人の公民権の拡大。それまでケネディ家と親密な関係であったマフィアの取り締まり、FBIの勢力後退の後、勢力を拡大し国内政治にまで影響を及ぼし始めたアレン・ダレス率いるCIAの予算削減と勢力を削ぐ事など、革新的な政策をとったが、短期間に敵を作りすぎ1963年テキサス州ダラス市内をパレード中に暗殺された。

 彼の暗殺後、アメリカは混乱状態となり5年に及ぶ内乱後アメリカ合衆国とアメリカ自由共和国に分裂した。

 

 戦後、形骸化した国際連盟は解散され、イギリスのチャーチルの提唱により、新たな世界組織、国際連合が組織された。全ての国が参加できる訳でなく、国家としてノーブレスオブリージュをなせる国のみが参加する、拒否権は存在せず、金銭で買えることのない平等な一票を持つ国の集まりとなった。

 国民に平等な参政権を与え、選挙が与えられている事。参加国としての義務を果たす事。

 国際連合にのみ所属する常備軍を置き、所属国に対する侵略や攻撃にはこれが対応。各国は災害対応部隊兼任の小規模国防軍を持つのみ。

 核兵器、生物兵器、化学兵器の所持を認めず、これは連合に所属しない国家に対しても認めない。核兵器を所持した段階で敵国とみなし攻撃対象とするなど巨大な軍事同盟的な性格を持つ組織であったが、力のある国が拒否権を待ち、彼らの同意なしには何も決められず、見せかけの平等の為に力も何も無い国も一票を与え、その一票が金で動いたり、真面目に行使して、会議で何かを決めても決定が強制力を持たないような国際組織よりはるかに平等であった。


 参加する意識と能力のあるものだけが参加すれば良いという姿勢は賛否両論あったが、参加する事が一流国の証となり、強権を持って紛争地への武器供給なども規制したため、世界平和を守るための組織と認識され、チャーチルは後に世界政府樹立の種を蒔いた傑出した政治家と評価された。

 

 「のう弾正。チャーチルのじじいは、国連の父とか、地球上の紛争を半減させた政治家とか言われて尊敬されておるが、わしは魔王とか、有史以来最高の詐欺師とか影の支配者とか、あまり良い評価が無いのは酷いと思わんか?」


 「まぁ、原子力発電を利用する以上、核兵器の技術拡散は避けられませんし、それを実力を持って平等に査察できる組織を作るのは現実的でございます」

 「何かある時に召集する国連軍では参加国の意向を無視できなくなります。現状国連常備軍によって各国とも軍事費抑制になっておりますし、彼奴のやった事はそれなりに評価すべきでしょう」

 「度量が狭いとか、銭で支配するとか、陰険だとか言われてないだけマシじゃないですか」


 「おまえ、口では上様とか言ってるし、頭も下げるけど本当はわしのことをバカにしてないか?」

 

 「まさか、わたくしは上様の事を、前世の頃より良い意味で世界中で1番愛しておりますよ。

上様はわたくしの『推し』というやつでございます」


「なんだ、推しと言うのは?よくわからんぞ」


 1973年夏。長らく国連軍太平洋艦隊として活躍した空母「尾張」が退役する事となった。あれや弾正、竹中提督など存命の者が集まり、式典が開かれ、最後に皆で艦橋に上がって旧交をあたためた。弾正と会うのも3年ぶりである。


 「400年をかけた我らが悲願。どうやらうまく達成できたようじゃの。お主の手のひらで踊っていただけのような気もするが、結果を見ればそれほど悪くは無い。改めてご苦労であった」


 「何をおっしゃいます上様。上様無くしてこの結果はあり得ませんでしたぞ」


 「そう言ってもらえると、わしも嬉しいのう。人生も残りわずかであろうが、満足して旅立てそうじゃ」


 「そうでございますか。では次に行きますかな」


 次?弾正をみると口が耳まで吊り上がっている。この顔は昔見た事がある。直後に奴の体が光り、俺の意識は消えたのであった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る