世界大戦-4

西暦1929年。

 予定通りというか、お約束と言うか、アメリカのニューヨーク株式市場が暴落。これに関しては俺は何もしていない。損したろうって?不自然に株価が上がり始めた段階でこの世界でも大暴落が起きると予測するのは当たり前。去年まで様々な経路で買いまくり、今年になって空売りしまくったので、濡れ手に粟のぼろ儲け。でも、俺の名義になっているわけでは無いので得した気分だけ味わう。来年底値になるから、GEとか、U.S.スチール、軍需関係、自動車辺りを買い込むように指示する。


 逃げてきたユダヤ人達が東エルサレム共和国を建国。アメリカとソビエトが東エルサレム共和国、満州帝国、東ロシア帝国の3カ国にフィリピンなどの4カ国を合わせて日本の傀儡国家であると非難する。

 何を根拠に非難しているんだかさっぱりわからん。要はアメリカは市場を解放しろ、ソビエトはそこは俺たちの領地だと言ってるらしいのだが、それを言えば、市場を解放すれば一方的な貿易赤字で農業以外の国内産業が全て壊滅する。下手をすれば農業すら支配されてしまうのがアメリカであるし、ソビエトだって、お前達のいるそこは、もともとロシア皇帝の領地だったろうって話だ。もっともアメリカについては恐慌によって経済が悪くなっているため、新たな市場を求めているとか、弾正が裏で動いて世論操作をしているため対日感情が悪くなってきているというのもある。


西暦1930年

 恐慌のなか、アメリカは太平洋の平和の為に失業対策も兼ねて、超巨大戦艦12隻を中心とする大艦隊建造に取り掛かると発表。

 ダムを作るよりマシだろうとは思う。はるかに金もかかるし。短時間にダムより沢山の金を使える。そんな戦艦はパナマ運河を通れる大きさではないし、そもそもこの世界でパナマ運河を管理しているイギリスが自国以外の戦闘艦のパナマ運河の通行を禁止しているため、新たに西海岸に巨大な造船所や発電所も作るらしい。予定通りというか、予定以上に上手くいっている。


西暦1933年。

 この年、アメリカでフランクリン・D・ルーズベルトが大統領に就任。ドイツでアドルフ・ヒトラーが政権をとった。ソビエトでは9年前からスターリンが権力を掌握している。役者は揃ったようだ。開幕は近い。


 ホワイトハウスの新たな主人となったルーズベルト新大統領は考えていた。やっとここまできた。大恐慌からは少しずつ回復しつつある。

手をつけたのは、前大統領の功績ではあるが、仕上げは自分である。やりようによっては全て自分の功績にも出来よう。


 彼は野心家であった。


 不況はいつまでも続かない。この国は若く、フロンティア精神に満ち、膨張したがっている。しかも世界最大の工業生産力と資源を持っているのである。

 アフリカはヨーロッパの古い国々が搾取しすぎた結果、市場としては魅力に欠ける。インドはイギリスが手放すまい。今世界て誰も手をつけていない巨大市場は中国である。

 そのために邪魔なのは日本だ。有色人種連合を作り、北極から南極までベルトのように支配している。あれを排除すれば、我がアメリカ合衆国の西と東から回した手が結ばれる。ドイツが再軍備を準備しているらしいが、所詮ヨーロッパの一国に過ぎない。ソビエトは侮れぬが太平洋に向けた港を持たない。それに今の所社会主義国はソビエトとモンゴルのみだ。中国に手を伸ばしているが、我が国とイギリスが蒋介石に武器を援助している限り難しいだろう。

 ソビエトはロシア帝国の頃から日本には辛酸を嘗めさせられているので、対日本に関しては共闘できるだろう。日本を料理して食ったあと、デザートにしてやろう。

 中国ほどでは無いにせよ、日本と仲間の国々も市場としては魅力的ではある。人口はわからないが、面積から考えても、数千万人の人口規模であるのは間違いない。

 イギリスの指導のもととは言え、超巨大戦艦を作っているし、高値で取引きされている色鮮やかな日本製の織物などを見ると、有色人種のくせにそれなりの技術力はあるようだ。アメリカ企業が進出し、日本人を使って生産したものを中国に売るという流れが出来れば、20世紀と21世紀はアメリカの時代となるだろう。

 優秀な白人が、劣っている有色人種を支配し導くのは、神から与えられた崇高な使命なのだ。そのためにも、まずは日本を屈服させて、太平洋の覇権を握らねばなるまい。アメリカを中心とした新しい世界の骨組みを私が作るのだ。


 黒岩八助元帥は悩んでいた。

 北方領土の陸軍を統括する立場としてカムチャッカで第10、11、13師団、第4、5戦車師団、第2、7、9機甲師団、約500機の基地航空部隊を麾下におき、北方軍団本部長として守りについている。

 最前戦で国防にあたる任務は男子の仕事として大変やりがいのあるものではあるが、ここは敬愛する上様からあまりに離れている。しかも、上様の横には佞臣の松永弾正がいる。前世でやつが上様を殺したというのは自分だけが知る秘密である。もっともそれを言っても誰も信じないだろうし、下手をすると自分が闇から闇へと葬られる可能性もある。当の上様が何も言わないのは黙っていろという事であろう。弾正を見張るためにも上様のお側で仕えたい。絶対碌でもない事を考えているはずだ。

 だが、自分が上様の脇に控えた場合、この地を俺に代わって守れる者が日本陸軍にいるのだろうか?アラスカの長宗我部は動かせぬ。太平洋諸国をまとめている羽柴もむり。統合参謀本部長の上杉は言うに及ばず、南方本部長の足利も無理。海洋国家なので仕方がないのだが、海軍に人材を取られすぎている。いっそ松永を亡き者にとも考えるが、奴と松永一族が日本という国にどれほど食い込んでいるのかがわからない。もしかしたら日本という国そのものが松永一族なのかもしれないなどと恐ろしい事も考えてしまう。

 自分に向いていると考え、陸軍を選んだ段階でしくじった。


西暦1935年。

 ドイツが再軍備宣言。前々から準備がしてあったようで、1年余で強力な陸軍が出現。同じファシスト政権のイタリアのムッソリーニと同盟を結び、ソビエトとの間に相互不可侵条約を結ぶ。

 アメリカと有志国連合が、東ロシア帝国、満州帝国、東方エルサレム共和国に秘密調査団を派遣するも、日本の傀儡国家であると言う証拠は見出せず、後にそれが露見し3国から強力な抗議を受ける。


西暦1937年。

 アメリカが仮装巡洋艦に重装備の海兵隊員2000名を乗せてハワイに寄港しようとしていたのが見つかり、検挙される。上海に向かう途中であったと抗議したが、武装した軍を無断で領海内に入れた段階で違法だと言われ相手にされず。全員が懲役50年の刑を言い渡されたが、アメリカが5億ドルの賠償金を払うことで合意。純金とイギリスポンドにて支払われる。


西暦1938年。

 ドイツ軍とソビエト軍がポーランドに侵入。ポーランドを分割領有することになった。

 ドイツ、ソビエトからのユダヤ人の脱出が大幅に増える。東方エルサレム王国の人口が大幅に増加。これに対し日本からの援助が行われる。

 日本とイギリスの間で、スピットファイア戦闘機1000機の購入契約とライセンス生産の契約が結ばれる。これに対しアメリカよりイギリスに抗議があったが、イギリス政府は現在、イギリスと日本は戦争関係になく、イギリスから日本への武器の輸出は200年以上前から続いており、これをやめることはイギリスの労働者の雇用のためにもできないと一蹴した。


西暦1939年。

 ドイツ軍がベルギー、オランダに侵入。

 イギリスではこれを受けてチェンバレン内閣が総辞職。ウィンストン・チャーチルが首相就任。ドイツに対し宣戦布告。

 ドイツ軍は進軍を止めることなくマジノ線を突破。パリを占領。

 ルーズベルト大統領はラジオを通じて、多くの国を力で支配する全体主義国家として日本とドイツの名をあげて非難。他民族の廃絶すら行なっている国家を打ち倒し、彼等に支配された国を解放し、世界の民主主義を守るべく、自由の守り手であるアメリカ合衆国国民に立ち上がることを要求した。

 アメリカ国民はこの演説に熱狂し、モンロー主義を捨て、民主主義のために立ち上がらなければならないという世論が高まり、アメリカはドイツに宣戦布告を行った。

 同時に、アメリカの国務長官コーデル・ハルによる日本に対する開国と市場解放。将来独立させるために植民地の支配権をアメリカへ移管すること。太平洋と日本にアメリカの租界を認める事などの要求書がイギリス経由で届いたが、当然のことながら無視された。


 日本でも元々、アメリカ合衆国は、移民を送り込み、独立運動を起こして、住民の総意だと言ってアメリカに合併吸収したり、言いがかりをつけて軍を送り込む、たちの悪い国家だと言う認識であったが、最近のいわれなき非難と挑発の連続に対しては、開戦やむなし、いう世論が高まった。



1940年夏 ある日の俺と弾正の会話


 「アメリカは馬鹿に盛り上がっているが、何か焚き付けるようなことをしているのか?」


 「いいえ、白人至上主義のルーズベルトが絶好調なだけでございますよ。副大統領のトルーマンは対抗馬のウォーレスを嵌めて蹴落とした、ルーズベルトに輪をかけた差別主義者ですし。何もしなくても事は進みます」

 「まぁ、向こうの新聞社に日本が如何に非道かとか、日本をこのままにしておく事は自由主義を否定する事だとか、日本から支配下の国々を解放するのはアメリカの使命であるとか書かせましたがので、アメリカの世論は理由も考えずに日本とドイツは敵だと言って盛り上がってますな。書いた記者達もなぜ日本を倒さなければならないかなんてわかってないでしょう」


 「準備も整ったし、まぁ、頃合いではあるか」


 11月になって、アメリカの駆逐艦フィラデルフィアが行方不明になり、日本軍に沈められたと言う噂がアメリカ中に流れ、国内は沸いた。

アメリカ政府はそのような情報は無いしアメリカ海軍にフィラデルフィアなどという駆逐艦は存在しないと発表したが、定例会見の時に、ひとこと言っただけであったため、国内は日本を非難する声一色となり、遂に過激な白人優位思想を持つ艦長の乗ったアメリカの潜水艦が、ハワイ王国に向かう日本の駆逐艦隊に対し魚雷を発射した。


 魚雷は回避され、潜水艦は撃沈された。日本の厳重抗議に対して、アメリカは日本が不当にアメリカ海軍の潜水艦に攻撃を加えたとして、日本と太平洋島嶼連合、フィリピン、インドネシア、オーストラリアに対し、12月8日に宣戦布告を行った。

 

 アメリカ西海岸、サンディエゴ海軍基地では太平洋艦隊の出航準備が進んでいた。一気に太平洋の要となるハワイを奇襲占領する作戦である。

 現在アメリカでは超巨大戦艦9隻が完成している。半年後にあと1隻。1年後にあと2隻が完成する。ドイツは海軍はUボート主体で大口径砲を積む巨大戦艦も持っていない。完成した戦艦は全て太平洋で運用できる。日本軍の戦艦6隻が完成しているにせよ主砲は一隻あたり6門で6隻だから36門。こちらは一隻あたり9門を積んでいるので81門である。しかも日本の戦艦の55センチ砲を超える56センチ砲を装備しているのである。戦艦同士の戦いは言うなればベビー級ボクサーの正面きっての殴り合い。主砲の口径が大きく、数の多い方が強いのは常識である。しかもこちらの主砲は1センチ大きい。わずか1センチでは無い。1センチもなのである。

 砲数を増やして防御を強力にした結果、20ノットしか出せず、航続距離も短くなってしまったが、ハワイを占領、太平洋艦隊の本拠地にできれば全く問題ない。日本はこれまで戦艦、巡洋艦をイギリスから買っていたし、航空機もまだイギリスから買っている。たまたま大口径砲を積んだ戦艦を造れたにせよ、所詮は有色人種の作ったものなど、二流品である。アメリカ艦隊の敵では無い。ルーズベルトと海軍上層部は強気であった。


 アメリカ太平洋艦隊司令官はハズバンド・キンメル大将。

 麾下にレイモンド・スプルーアンス中将率いる第7艦隊。56センチ砲3門×3基を搭載する10万トン級の戦艦アイオワ、テネシー、ペンシルベニアの3隻に空母ワスプ、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦12隻。

 ウィリアム・ハルゼー中将率いる第3艦隊は同型戦艦ニューヨーク、バージニアの2隻に空母エンタープライズ、ホーネット、レキシントン、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦14隻。

 その他海兵隊3個師団、多数の輸送船、油槽船が続く。航空機も最新鋭のF4F戦闘機150機、SBDドーントレス艦上爆撃機150機、TBDデバステイター艦上攻撃機70機が積まれている。それは全アメリカ海軍の3割、太平洋艦隊の半分以上にも達する歴史上最大の大艦隊であった。

 

 アメリカ艦隊の出航は衛星情報と現地情報員に感知され、即時に統合参謀本部に報告された。圧縮されたデジタル信号を衛星経由で送るため、敵には知られない。直ちにハワイ周辺に進出していた南方方面艦隊に出動命令が出された。

 艦隊は艦隊司令長官竹中半蔵大将の元、伊達重宗中将率いる第一機動部隊が、空母尾張、紀伊の2隻を中心に駆逐艦10隻、攻撃型潜水艦4隻で構成される。

 九鬼家治中将率いる第二機動部隊は空母甲斐、武蔵の2隻に同じく駆逐艦10隻、攻撃型潜水艦4席で構成され、機動部隊に加えて対潜潜水母艦である筑後と高速油槽船3隻、同じく高速武装輸送船4隻も伴っている。


 尾張型空母は基準排水量10万2000トン。原子力推進で最大速度は33ノット以上。アングルドデッキとカタパルト4基を持ち、戦闘爆撃機・紫電を80機、早期警戒機・飛鷹2機、対潜ヘリ・稲妻3機、多目的ヘリ・雲雀3機を積む。武装は8連ミサイルポッド4基、レーダー管制機関砲6基と少なめであるが、プロペラ機を相手にするのであれば十分な武装であると考えられている。

 利根型駆逐艦は基準排水量9000トン。ガスタービン推進で最大速度は33ノット以上。10センチ砲1基、16連ミサイルポッド4基、レーダー管制機関砲2基、対戦ヘリ・稲妻2機と多目的ヘリ・雲雀1機を積む。

 海竜型攻撃潜水艦は基準排水7000トン、原子力推進で水中速度22ノット以上。前部に魚雷発射管4門を持つ。

 渦潮型攻撃潜水艦は基準排水量3000トン、ディーゼル推進で水中速度22ノット以上。同じく魚雷発射管4門を持っている。

 武装輸送船はレーダー管制機関砲1基と3連ミサイルポッド1基、ソナーを持つ。


 日本海軍はハワイとトラック諸島、台湾に借地した軍事拠点を持っている。アメリカ軍の攻勢に対して、現在、ハワイの防衛戦力は増強されており、佐渡型上陸支援艦2隻、駆逐艦10隻と通常動力の攻撃型潜水艦15隻、航空機1000機、海兵隊1個師団が駐屯している。

 上陸支援艦は基準排水量19000トン、ガスタービン推進で最大速度30ノット。ヘリと垂直離着陸機合わせて14機、ホバークラフト、装甲車両などを積み、ミサイルや機関砲を武装として持つ多機能艦である。

 

 日本海岸連合艦隊指令長官、竹中半蔵大将は、旗艦尾張の艦橋でコーヒーを嗜んでいた。

近年はインドネシアでも栽培されているため、コーヒーは日本でもよく飲まれているが、

彼の飲んでいるのはイギリス経由で輸入されたジャマイカ産の高級品である。煙草はやらず、酒と女は嗜む程度という彼にとって、コーヒーは唯一の贅沢品であった。高級取りとは言えない軍人であるが、大将ともなると多少の贅沢をする余裕はある。

 敵の行動は予定通りの動きである。太平洋に拠点を持たないアメリカ軍がハワイをとりに来るだろうというのは、戦略的にも理にかなっているし、可能性としては1番高いと考えられていたのではあるが、今回は上様よりあれこれ言われていたので気を抜けなかったのだ。敵の動きが決まれば対応も決まる。竹中司令官的には第一段階クリアといったところで、コーヒーが美味いのであった。

 

半年前、上様に呼ばれた竹中半蔵は、

 「貴官程の頭脳を持つ人間に、武器や情報機器の差がこれほどある戦いで、ただ勝てと言うのはあまりにつまらなかろう。面白くするために余が縛りをつけてやろう」

 「こちらの航空機の性能や技術を敵に見せないこと。できれば空母と潜水艦も見せたくない。無傷でなくて構わないので、敵の大物艦船、戦艦や空母をできるだけ奪い取ること、捕虜は面倒なので取らないこと。もちろん皆殺しにしろということではないのはわかるよね?」


 と言われた。もちろん、戦術と戦略の天才、竹中半蔵にとって不可能という言葉は無いのであるが、いかにも上様らしい、敵の心を挫くような作戦である。やるならば段取りとタイミングが最重要であろう。敵の将の心を考え、戦意を喪失させて降伏するように仕向けなければいけない。

 ハワイを狙ってくるだろうとの予測はついたが、敵の数なども確定していない。柔軟に対応できる作戦計画を立て、半年間みっちり演習と訓練を行なったのだ。それがこれから報われるのである。

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