世界大戦-3

西暦1912年。

 ヨーロッパは不穏である。親戚筋だというのに、イギリスとドイツの関係が悪化。

19世紀末に統一され、ドイツ帝国となり、近代工業国に脱皮しようとするドイツにとって、英国の持つ数々の特許が非常に邪魔になっていた。

 更に、ドイツの工業国化と市場進出は英国の市場縮小につながる事。ドイツの軍備拡張と国力増強を隣国フランスとロシアが脅威に感じ始めていた事。

 衰退期に入っていたオスマントルコ帝国がドイツと組んで復活を目指した事や、オーストリア帝国の衰退による影響力の低下、歴史的経過からロシアとトルコの仲が悪かった事などが複雑に絡み合い、バルカンではそれぞれの思惑が反映され戦闘すら起こっていた。

 この年、清国で辛亥革命が起き、中華民国が成立。清国皇帝は父祖の地満州に逃れ、満州帝国を作った。満州帝国成立には口も手も出さなかったが、裏から手を回し資金と武器の援助を行なった。何故なら満州の地は地下資源が豊富である。将来是非貿易を行いたい。ぜひ安定した国に支配してもらい、中国の内戦に巻き込まれないで欲しい。

 満州帝国の成立により、朝鮮王国は中華民国とも、ロシア帝国とも直接国境を接することがなくなり、大朝鮮帝国を名乗るようになった。

旧主国の満州帝国に援助を、求めたが、それどころではないと断られたらしい。我が国とは国交は無いが、民間レベルで古くからの鉄の取引がある。最近は取引量も少なくなっているが、ルートは残っている。混乱の中、庶民が困ってるらしいので食料援助を行おうとしたが、格上に頼るのは構わないが、格下の国から同情されるのは不愉快であると断られた。もう少し柔軟に考えられないものか…


 欧州に対する我々の方針は不介入。ロシアに勝ったあと、欧州では黄禍論が吹き荒れ、ドイツのヴィルヘルム2世はその急先鋒であったりするが、これだけ距離があるとどうでも良い。ヨーロッパなんて欲しくないし、今までの戦いだって、表立ってこちらから手を出した事は無い。

 第一、表向き我が国は鎖国している。国交のあるのは身内の国々だけで、わずかにイギリスとは繋がりが保たれているが、正式な国交は無い。自分たちの事だけで手いっぱいであり、アジアにおけるドイツやフランスの権益に手を出す気も余裕も無い。


西暦1914年。

 結局、欧州の混乱は平和的な解決策を見出せず、俺の知る史実と同じように他国を巻き込み世界大戦となった。

 タイ王国やブラジルも参加しているが、要は英仏露伊と独墺土の戦いである。機関銃、戦車、航空機などが兵器として出現し、一部では毒ガスなども使用された。

 総力戦などと言う言葉も生まれ、戦いは長期化した。

 そんな中、1917年、ロシアで共産主義革命がき、ソビエト連邦が成立。

 史実と違い、我が国情報省の働きにより帝室は無事東へと逃げシベリアに東ロシア帝国を作った。

こちらへも資金と武器の援助を行ったことは言うまでもない。

 共産主義者の動きなどもさりげなく伝えていたのだが、動脈硬化を起こした大帝国は対応できなかったようだ。

 満州と東ロシアの2つの国の成立により、我が国はソビエト連邦に対する防波堤と、将来潰すための足がかりができたことになる。


 ロシア帝国が大戦から手を引いたことにより、ドイツは西部戦線だけに戦線を縮小。

Uボートによる通商破壊やトルコ軍の進出により、イギリスはインドとの流通ルートが細くなり窮地に立たされた。この上、スエズ運河を取られたら万事休すとなる。

 我が国に援助を求めて来たが、おいそれと参戦する訳にはいかない。はるか遠い国の出来事なのである。かといってイギリスが負けたり、疲弊するのは望ましく無い。織田信之世界と違う並行世界なので負ける可能性も充分あるのだ。我が海軍も実戦を経験しておく必要もある。訓練だけしている軍隊は腐るのだ。


 と言う事で、傭兵会社を設立。10年前、イギリスから買って魔改造してインドネシアに供与した駆逐艦10隻と巡洋艦2隻を借り受けて、

1918年、イギリスに雇われた傭兵艦隊として、堀田兵吉退役中将を指揮官にして出兵した。輸送船10隻、潜水艦10隻、潜水艦母艦2隻と共にイギリス国旗を付けた小艦隊である。潜水艦は艦橋だけ見てもわからないので、最新型の出動である。地中海で沈んでも助ける術はないので、出来るだけリスクの少ない新型投入となった。

 軍艦なので、戦えば傷つく。インドネシアには我が国型の駆逐艦を返すことになりそうだ。


 傭兵部隊は終戦までの2年間あまり、地中海で活躍し、ここでもイギリス製の艦の優秀性をアピールしたのであった。イギリスから、運用方法を学びたいので武官と技師の乗艦を打診されたが、丁寧にお断りした。羊の皮を被った狼どころでは無い。虎か獅子なのである。見せられるわけが無い。

 1年も戦っていると、偶には友軍と行動を共にする事も有る。イギリス国旗を付けたアジア人艦隊をどう思っているのかは不明だが、手を振ってくれるので、和服に軍刀を差し、ちょんまげにして手を振り返す者が現れた。飽きてきていたのであろう。大いにウケて一つのブームになった。軍規的にはいかがなものかとおもわれるが、指揮官の堀田提督は黙認したようである。補給の要望書にかつら、和服、鎧、日本刀があったところを見ると、面白がっていたのかもしれない。


 遡ること半年前、アメリカがイギリス側で参戦してきた。アメリカの客船がUボートに沈められた為であると言う。戦争中、通常航路を離れて航海していた方にも問題があると思うのだが、とにかくアメリカ世論は沸き参戦となった。ロシアの抜けた穴埋めどころか、大幅に英仏有利となり、1820年初頭大戦は終結した。


 第一次大戦中、戦時特需で生産力を上げ、好景気であったアメリカは、戦後荒廃したヨーロッパに進出。その国力を増大させた。有り余る生産力を持つアメリカは市場を求めていた。東側への進出がうまく行き、大西洋の支配権をイギリスと分け合ったアメリカは、次は太平洋の支配を狙ってちょっかいを出してきた。中国に進出するためには、太平洋に拠点が欲しい。


 太平洋の島嶼は現在、日本の友邦が抑えている。そして、白人の植民政策を知っているため、移民どころか、鎖国している。戦艦や巡洋艦こそ持たないものの、イギリス製の駆逐艦を擁する海軍も持っている。理由もなく攻め込んで占領するわけにもいかないし、世界大戦の反省と植民地の独立の機運が高まりつつある国際社会を考えても今の時点での武力侵攻は望ましく無い。いくつかの島々の租借をイギリス経由で求めたが、当然そんな事が認められる訳もない。

 結論として、世界最強の資本主義国家としては、中国という巨大市場を狙うためには太平洋を押さえている日本がとても邪魔になったのであった。


 この頃より、日本を明らかな仮想敵国としてアメリカは海軍増強に勤しむこととなる。仮想敵国にするにしても、よく調べると日本の情報がほとんど無い。100年以上前から接点があったのだが、記録は消失していたり、欠損していたり、改竄されているとしか思えないものもある。過去に艦隊が何回か送られたはずだが、記録は曖昧である。

 国家としては日本、フィリピン、インドネシア、オーストラリア、太平洋の島嶼国家群とで、5カ国の連合体を作っているようで、ほとんど鎖国状態。イギリスとのみわずかな繋がりと貿易があるが、国交と言えるものではない。

 イギリスで建造された軍艦を主体とする海軍を持っており、なかなか優秀。過去に清国、ロシアの艦隊と戦い勝利をおさめている。古くはスペインやイギリス艦隊とも戦ったようだが、これもはっきりした記録が残されていないというか、消失している。

 彼の国では、魔王を崇拝しているとか、神薬を産し、どんな病気も治せるとか、20世紀とは思えない情報もある。

 先の大戦時もイギリスの要請で地中海に非公式に出兵。ドイツ潜水艦部隊に大打撃を与えているが、その時の記録でさえ、丁髷のサムライが戦っていたとか、わかのわからない記録ばかりである。

 要するに、全てが胡散臭いのだ。大戦時の加勢を理由にイギリスに情報提供を求めても、曖昧な情報しか来ない。挙げ句の果てに寝てる子を起こすなとか、悪魔と関わるなとか、変な忠告をされる始末だ。


西暦1921年。

 ハワイにあった、今はもうほとんど利用されていない燃料と水の販売所に病院が設立された。人道的な理由による設立だそうである。そこでは、一流ホテルのような素晴らしい部屋と食事が供され、日本のミカドの秘薬により死病と宣告された人間が治ったり、延命できたりするという噂がアメリカで流れた。

 ただ、治療費は全然人道的でなく、かかれるのはスーパーリッチのみ。噂は噂を呼び、アメリカのスーパーリッチ達がハワイを目指す。これにより、膨大なアメリカの国富が流出することになった。誰だって命が金で買えるなら買うだろう。


 俺と弾正はコタツで蜜柑を食べている。


 「上様の考えたハワイの病院は大成功でしたな。半分はハワイ王国に上納してますが、笑いが止まりません。我が国やハワイでは一般国民がうけられる治療なのに、ありがたがって集まってきます。こういう、卑劣な行いは上様の真骨頂。この弾正逆立ちしても、かないませぬな」

 「何を言うか、立派な人助けじゃ。皆涙を流して喜んで帰国しておるではないか。人助けも元手がいるから少しばかり喜捨してもらってるだけじゃ」

 「次は戦艦じゃ、建造中の10万トン級の空母の船体に、上だけ戦艦にした物を作ろう。51センチ砲を積み、1門か2門撃てれば充分。お披めの後に空母に戻せば、それほど無駄にはならん。国を傾けるほどの軍拡競争に持ち込んでやろう」

 「それと、ソビエトに迫害されて逃げてきたユダヤ人達だが、シベリアの我が国土の一部を割譲して国を作らせよう」

 「誰もおらぬ住みにくい土地だから、将来問題になることも少なかろう。この世界にホロコーストがあるかどうかわからぬが、逃げ場を作っておいてやれば助かる者も増えよう」

 「金融立国として、会社にかかる税金を格安にして、保険や銀行業務をやらせれば、多少寒くても、食うに困ることはあるまい。金は米と違って寒くても増えるからのう」


 「そちらの方は、関係部署に至急対応させましょう。それと、3年のうちに人工衛星をあと5基ほど打ち上げれば、監視網と電波中継、測位システムによる位置特定は、ほぼ完璧でございましょう」

 「あと、例の新型戦闘爆撃機でございますが、やはり性能差がありすぎて、レシプロのプロペラ機とは戦いにくいようですな。熱追尾式ミサイルも、もう少し精度をあげないと、プロペラ機相手では、下手をするとこちらに向かってきそうでございます。性能を落とすというのは今後を考えると望ましくありませんし、いっそ再来年度に導入される新型練習機の出力を上げて、戦闘爆撃機した方が良いかも知れませぬ。機体も小さいので、空母に積む数も増やせますし、値段もそこそこ。操縦性も正直で訓練時間も短くてすみます。新型戦闘爆撃機は現状では偵察機として使い、このまま開発を続けてステルス性を持たせるとか、武器の積載量を増やすとかした方が良いと思われます」

 「第3世代に移行している凡用ヘリも小改造で攻撃ヘリ、対潜ヘリ、輸送ヘリへ転用可能な万能機でありますし、大型輸送機、高高度大型爆撃機も運用を開始してます。レーダーが普及すると試験飛行もなかなかやりにくくなりますので、10年以内に完成度を上げませぬといけませぬ」

 「陸上では耐寒仕様の携帯型対戦車砲、戦闘用スノーモービル、耐寒仕様の戦車、などももうすぐ完成しますれば、ソビエト陸軍対策も万全です」


 「駆逐艦と潜水艦も新世代艦へと移行してて、準備万端ですと言いたいが、弾正、あまりに性能差があると、相手が早期にめげてしまう。延々と、もうちょっとで勝てそうが続くように見せかけるのが良いのじゃ」

 「そこで、イギリスに高性能レシプロ戦闘機を開発させ、技術料をアメリカに高額で売り渡すのはどうじゃ?しかも3段階に分け、毎回金がかかるようにすれば、何度も美味しい思いができよう。イギリスも儲かって皆満足じゃ。こちらの儲けは今まで通り、そのままイギリスで運用すれば気づかれまい。ソ連に売るのも悪くない。ただ、こちらはうまくやらないと踏み倒されそうじゃのう」

 「あとは、沈まない空母風輸送艦なんてのも良いぞ。船体を多数の鉄の箱の集合体のようにして、スクリューも筒の中にしまってしまう。甲板には爆薬を仕込んだ耐爆プレートを敷き詰め、爆弾に対し威力を殺す。見た目だけは派手に爆発するから、大戦果を期待して自分達が全滅するまで攻撃力をやめられない。リモートの機銃を沢山つければ更に良い。スピードは遅い かなるだろうが、船体が大きければレシプロ機なら発着もできるし、そこそこ荷物も運べる。囮に使えば敵からすれば攻撃の度に敵空母大破じゃ。いっそのこと無線で飛ぶ航空機はできないものかの?少しくらい撃墜させないと敵もやる気が起きないだろうて」

 「無駄に戦艦を作ったあとは空母の増産と潰し合いじゃ。いくら金があっても足りぬだろう。ユダヤ人経由で踏み倒されない程度に国債を買っておけば、戦後も後々まで楽しめようて」


西暦1928年。

 イギリス海軍省に、日本海軍から一通の招待状が来た。イギリスから学んだ技術を元に次世代型の戦艦・尾張を作ったので是非見に来て評価をしてもらいたいという。

 何故そんな物が来たのか、海軍省ではさっぱりわからない。今まで長きにわたって、イギリスは日本から戦闘艦艇の発注を受けてきた。

同じ海洋国でもあるし、作る技術が無いとも思えないが、大量に作るものでは無いので、開発設計から、試験運用等を考えると、他から買うというのも選択肢としてはありうる。日本とは距離もあり、利害の不一致も無く、発注された戦艦や巡洋艦は最新技術を惜しみなく注ぎ込み、最良のものを造ってきた自負もある。

 何故突然自分で造り始めたのかは不明である。最近アメリカの日本に対する敵対視が酷くなっているからだろうか?日本と周辺国家は自分たちの世界に引きこもっていて、将来の巨大市場中国にも興味はないようだ。ちょっかいを出さなければ何もしてこないのだから、ほっとけば良いと思うのだが。

 

 とりあえず、数人でとかだと礼を欠くので、

王族1人を含む副大臣、海軍大将、実戦部隊と技術部門から数人の佐官、総勢100人余りが巡洋艦で参加することになった。東洋の謎の国日本。この何百年か訪問した外国人はいないのである。日本近海で駆逐艦に迎えられ、佐世保に上陸。ミカドの後継者である皇太子に迎えられ、歓迎の会が開かれた。そしてそこで見た戦艦は度肝を抜くものであった。10万トンを超えるであろう巨体に55センチ2連砲が3基。副砲は30センチ3連砲が1基と高射砲14門に3連対空機関砲が多数。それが30ノットを優に超える高速で走るのである。機関は軍事機密だとかで見せてもらえなかったが、恐ろしく音が静かである。よほど効率の良い機関を積んでいるらしい。3日にわたるお披露目会の最終日、主砲の試射が行われた。標的は20年前我が国から買った山城級の戦艦である。距離は3万メートル。第一砲塔から2発が発射され、波が静かとは言え、第2射で夾叉となり、第3射で命中。戦艦がわずか一撃で轟沈した。 

 あまりの衝撃に訪問団は声も無く、沈黙するのみであった。その後の説明会では機関以外の技術資料が配られた。他国に技術を広めないなら、長年の交誼に免じて、希望すれば細かい技術まで全て教えても良いと言う。6隻造る予定なので、イギリスも6隻造って、我々で世界の海の安全を確保しようとか言っている。正気なのだろうか?自分たちが何を作ったのかわかっているのだろうか?こいつはとんでもない軍拡競争を誘発して、世界経済は軍費の為に疲弊してしまうだろう。

 1人の大佐がこの艦を沈めることは可能なのかと質問する。日本海軍の代表者柴田中将が答える。


 「同じ物が敵にあった場合、我々は3つの方法があると考えています。内容についてはお教えできませんが」


 とりあえず、我々は技術資料や設計図をもらって帰国の途についたのであった。


 再び織田邸の小部屋

俺と弾正はかき氷を食べながら、話をしている。


 「うまくいったと思うか?」


 「訪問団の中にアメリカの情報員が2名入ってましたからな。うまくいったはずです。煙突の中で重油を燃やして煙を出したり、なかなか苦労しましたから、失敗では洒落になりません」

 「静かな海で、GPSまで使って動かない標的を撃ちますので、当たらぬ訳はないのですが、与えたインパクトは大きかったはずです」


 「55センチ砲に耐えられる船体を作って30ノットを出そうとしたら、重油のタービン機関ではさぞかし苦労するだろう。できても航続距離が短くて使い物になるまい。そんなものを短期間に10隻も作ったら国が傾くだろう」

 「尾張は空母に改装。外した3門の砲は東ロシア帝国にでも運んで要塞砲にでもするか。弾もまだあるし、ロシア人は大砲が大好きだからな。共産軍に向かって撃てば、ロシア皇帝もさぞかし気分が晴れるだろうて」

 俺たちの悪だくみは続く。



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