戦国-6

 俺は都に戻って全体の戦後処理。三好、朝倉に付いて敵対したやつには、追放か処刑か好きな方を選ばせた。動きが早過ぎたため松永弾正以外は役にたたなかったが、最初からこちらに付くことを表明した者には褒美を与えた。

 都とその周辺は主上の御領として、税は金納とし、朝廷の運営を自主的にできるようにした。武士が代理で管理するのではなく、朝廷から定額の給料を貰う役人が管理する事になった。貴族どもに任せると横領されて、またすぐに素寒貧になりそうなので、貴族も基本朝廷から給料をもらう形とした。少しの自領を持つ貴族もいたのでそれはそのまま。わずかではあるが、まだ朝廷に直接仕える武士がいるので、彼らに警察権を持たせた。御領の外の織田領に小規模な駐屯地を置き何かあった時は朝廷の依頼により出動できるようにした。

 越前は義輝に献上した。自分の領地をほとんど持たない将軍ではなにもできなかろう。

かといって、俺に副将軍にしてやるから、代わりに戦って戦乱の世を収めろってのは虫が良すぎるだろう。力が無いのはわかるが、あまりにも他力本願である。自称藤原氏の織田家にとっては、朝廷と違って、あんまり足利将軍などありがたくも無い。もしかしたら俺の先祖は鎌倉将軍方について足利義満に酷い目に遭わされたのかもしれないのだ。わからんけど。

 後は自分の力でやるが良い。加賀の一向一揆を倒して、越後の上杉謙信でも倒せれば足利将軍家の株も上がろう。西に向かって尼子や毛利を従えても良いし、先祖の義満みたいに九州に向かっても良い。何なら俺を倒そうとしても良いのだ。

 呼び出されて礼を言われて、欲しいものはあるかと言われたので、旬になったら、越前蟹を生け簀に入れたやつを下賜してくれるとありがたいと言っておいた。まぁ、裏表があまりなく、公平な人間だ。感激屋で暑苦しいが悪いやつじゃ無い。 


 領地がさらに広がったので、法務部が準備していた憲法を領内に発布。時代が時代なので基本的人権はそれなりに制限されているが、今までよりずっとマシだ。

これを根拠に金による人の売買は織田領ではできなくなる。 令和のレベルの人権を与えてしまうと戦もままならず、今の織田領内での平和で繁栄した生活はできなくなってしまう。人権という概念すらない世界で、上から与えられた人件なんて定着する筈がない。歪んだ形で理解されたら最悪である。時代の変遷を見ながら、追々修正憲法で対応するしか無いだろう。

 その憲法に基づいた法律も整備し、製本して領内各地に設置した裁判所に置き、誰でも閲覧できるようにした。印刷技術と安い紙の製造法は学校を広げる時に確立されていたので、助かった。

 あとはそれに合わせて法務部直属の法律学校の開設。科学技術部から厚生部を分離独立。直属の医学校を作り医師と薬師の養成を始めた。文部科学部には教員養成学校、軍務部直属の士官学校も作り、軍の階級、昇級制度を整備した。やっと系統だった教育ができるだけの人材が育ったのだ。

 名古屋にしか無かった上級学校を遠江、三河、美濃、近江にもいくつか設立。いずれ専門上級学校も作りたい。軍の志望者は沢山いる。給料も補償も良いし、訓練はとてもハードだが、我が軍は戦でもあまり死なない。しかもモテモテなのである。規模が大きくなったので軍も4つの軍団と近衛軍の5軍編成とした。


 柴田勝家や佐久間信盛、丹羽長秀など親父殿世代から仕えてる者の他、佐々成政や前田利家、弟の信包なども裏切らずに幹部として育ってきている。

 家臣といえば、木下藤吉郎いつのまにか、中央に戻ってきている。山奥の代官にしたが、そこで殖産励行に励み大いに発展させたらしい。領内で紙が安く大量に出回っているのもこいつのおかげらしく、内務省と農林水産省の引きで戻ってきたのだ。すでに巨大化した組織の細かい人事は俺の把握するところではなく、たまたま、内務省に行った時、目の前で突然平伏されて心臓が止まるかと思った。効率が悪いので、非公式の場では俺に対しても黙礼で構わないと言ってあるので何事かと思ったら木下藤吉郎であった。内務省と農林水産省が戻した者を俺が僻地にまた追いやるのは不自然なので暫く様子を見ることにした。殖産事業をしているうちは天下を獲ろうとか思わないだろう。


 そしてもう1人の要注意人物。明智光秀であるが、義輝がピンピンしていて義昭の出番が無いせいか、俺の前には現れない。まぁ、信之の知っている歴史を好き勝手に変えてしまったので、もう全く別の世界になってしまったいるのかもしれない。松永弾正が妙に若かったり、義輝を殺したはずの息子が武闘派でなく頭の切れる文官タイプだったりと微妙に違うところも多い。これらは俺が転移する前からの事なので、俺のせいではない。やはり信之が過去の俺と一緒になったのではなく、並行世界の違う時代に居た同時に存在していた、多重存在とでも言うべき俺達が、何かでのはずみに一緒になったのだと考える、ここは異世界説がただしいのであろう。まぁ考えてもよくわからないし、正直どうでも良いことである。今まで通り今やりたい事とできる事を、やろう。


 ところで、帰蝶と俺、多忙とはいえ、仲が良いし、やる事はやっているつもりなのだが、前にも言ったが子ができぬ。今やっていることを我が子に継がせたいという意識はあまり無いし、信之と同一化した俺には子ができなのかもとか思ってみたりもして、それについてはあまり気にして無い。幸い俺には弟も何人かいる。

決して、子供ができたら帰蝶のおっぱいを独占できなくなるとか考えてない。避妊はしてないのだ。誓って考えたこ事もないぞ。

 ところが帰蝶はそうは思って無いらしく、ある日、18歳くらいの女を連れてきた。義輝の腹違いの妹の生駒だそうである。家柄も申し分なく、子ができたら自分も一緒に育てるから、遠慮なく奥に入れ、子を作れという。イケメン義輝の妹だけあって、くっきり系の美女。しかも巨乳。若い頃と言うというか、なんとなく何年か前の帰蝶と被るものがある娘だ。わかってらっしゃる帰蝶さん。でもねーという事で断ったら生駒が泣き出してしまって、うやむやのうちに側室というか第二夫人ができてしまった俺であった。

 この世界では、織田軍は長丁場の戦も無く、信之でもあるせいか、俺は男には手を出していない。前田利家、現犬千代は近衛軍の将校として存在しているが、それ以上の接点も無く、やつもそこいら中の女に手を出してしょっちゅう揉め事を起こしており、男には興味はなさそうだ。

 

 数年のうちに、給与制の方が自分で領地経営をするより、実入が良くローリスクである事が理解されてきた。

 兵を養う面倒も無いし、戦いでも獲った首の数で出世することも無くなり、先走りするとかえって罰を受けたり、戦が苦手なのに武士であるがために、戦に出ないと出世出来ないなんて事も無くなったので、ほとんどの者が世襲制給与所得者になってしまった。

 親衛隊と戦った相手が瞬時に、戦に負けるのでなく、一方的に殲滅されてゆくのを見ていれば、槍一筋で一所懸命、立身出世なんて過去の話だとと言う事がわかるだろう。立派な鎧を着けた大将なんて最初に射殺されるのである。


 世襲性給与と言っても、江戸時代の領地を持たないで何石扶持とかで米で給与を支給されていた武士と同じである。家名についた給料とそれに役職給が付く。しかも、ある程度の家名だけで一般兵などは世襲ではない。流石に柴田や佐久間など古い家臣達は大貴族と言って良いほど貰っているが、半分は役職給である。

あれこれ矛盾も抱える問題のあるシステムなんだが、目的は将来的な封建制度の解体である。織田の支配地外では封建制まっ盛りである事を考えると、それを変えようというのであるからそんなに簡単にゆく訳がない。

 それに封建制度における領地持ちだって、殺されたり奪われたり、降格されたりで、決して子に残せる保証があるわけでは無いのだ。

 更に土地持ち領主であれば、陪臣や領民の面倒も見なければならない。学校は無料だが、陪臣や領民は俺に税を納めてない為、病院にかかるにしても、その他公共サービスにしても、全て高額な金がかかるのである。自分の領地にこだわる者も、領民から突き上げられて手放さざるを得なくなってきている。

 働く側としては陪臣より直参の方が良いというのもあったろう。陪臣では出世するにしても、主人は超えられない。

 女子にも仕事を開放した。今までだって、仕事をしてなかったわけでは無い。無給だったのだ。それを目に見える形で評価したことで、これはとても好評であった。教育面における男女差別を無くしたことで、10年後には優秀な研究者が大量に増える見込みだ。この時代の家系図には男の名前は書いてあるが、妻はただ女とか、住んでた場所をとって名古屋殿とかになってたりする。流石にあんまりな話だと思う。この辺の感覚は信之のものである。


 旧三好領にも、ここは織田領になったばかりなのでまだ希望選択制だが、同じシステムを取り入れた。

 そしたら、松永弾正が大和一国を差し出してきた。前にも差し出すような事を言ってたが、本気らしい。貰ってしまうわけにもいかないので買い取ることになった。

 1万5000の織田軍が5万の三好を、壊滅させてほぼ無傷。5000の松永軍は1万の三好軍を抑えたものの多大な損害を出した。やってられないそうである。これにより弾正は完全に俺の部下となり、同時に織田領屈指の金持ちになった。

 後日の事であるが、織田家の家宰のような立場を確保して、公的にはなんの役職も持たないのであるが、いつの間にか情報部に影響力を持ち、CIAのアレン・ダレスみたいなやつになっていた。ついたあだ名は妖怪。言い得て妙である。


 津久井嘉之介がやってきた。少量であるが、ワインができたという。ワイン自体は南蛮物が尾張にも来たので、何回かは賞味しているのだが、ブドウの木を取り寄せて、ゼロから作ったとなると味わい深い。

 チーズと生ハムが欲しいとか考えていると突然、アレを思い出した。異世界物の定番、アレである。この世界に来て十数年、なんで俺は君のことを思い出さなかったのか。悔やんでも悔やみきれない。早速作ることにする。

 もうわかるだろう。唐揚げとマヨネーズである。ほぼ醤油も既に出来ている。調理人を指導して大量に作り皆で味見した。未知の味、あまりの美味さに皆絶句である。何か用事があって来たらしい弾正なんて、すっかり忘れて涙ぐみながら食べている。普段の淑やかさも忘れてガツガツ食べている帰蝶と生駒に食いすぎると肥えるぞと忠告したら睨まれた。調子に乗ってエビフライやとんかつなども作って食べた結果、酷い胸焼けに苦しむ事となった。

 名古屋の町に店を出店して安価に食べられるようにせよと命じた。美味いものは皆で楽しみたいし、まだ庶民が自宅で揚げ物を作るのは無理がある。持ち帰りの店にしたため、店は大人気となり、名古屋の鶏肉の消費が大幅に増えた。

 美味い鶏肉を求めての探求の結果、後に名古屋コーチンが生まれた。のかどうかはわからない。


 伊勢長島が帰順してきた。ここは一向宗の本拠地の一つで、信幸世界では俺と4〜5年に渡って血みどろの闘いを繰り広げた土地だ。何年も前からまともな坊主達が、まともな仏の教えを広める使命に燃えて何人も布教のためここを訪れた。これに対する情報部による密かな援助があったのは当然だ。その中には浄土真宗の坊主もいるので、単なる宗派争いではなくなっており、一向宗色欲派も排除しにくい。

 おまけに国境一つ向こうの、旧三好領の農民や地侍達はどんどん生活が良くなる。俺の命令で出来るだけ交流をしないよう指導してあるので、自分達は指を咥えて見ているだけで恩恵はほとんどない。

 何回か、ちょっかいを出してきたが、すぐに撃退された。根来鉄砲衆を加勢に頼んだ大規模な軍事行動が一回あったが、信之世界では強かった根来鉄砲衆も、ほとんどは自分達で作ったお手製の鉄砲である。織田謹製自称イスパニア鉄砲を使ってるやつが居たのは、笑い話だ。

 火縄銃なんで、雨天では使いにくかったりしたりもあり、性能は段違い。根来鉄砲衆は一回の会戦で歴史から姿を消した。

 まともな坊主達の努力の結果、旧来の一向宗の勢力は急速に衰退した。大体、俺は伊勢長島にはこちらから全く手を出していない。はっきり言って、うるさい百姓と地侍が集まっている地域なんてどうでも良かったのだ。いくら織田は仏敵だと煽っても説得力がない。たまにちょっかいを出せば殲滅される。戦に負けて撤退するのでは無い。ちょっかいを出すと、誰1人帰って来ないのだ。そのうち、鬱陶しいので、過激なことを言って煽る地侍や坊主の何人かを神隠しに遭わせた。そして結局、代表者が帰順してきたのだ。要するに繁栄する織田経済圏の仲間に入れてという事だ。役人として雇うので、小さな領主は領地召し上げという条件について多少揉めたようだが、織田領を見学して納得したようで割とすんなり織田に組み込めたと思う。

 皆殺しの根切りが趣味というわけでは無いので誠にめでたい。俺が逆らう奴らを皆殺しにするのは、少ない手勢で、味方の損害を抑えて大軍に勝とうと思うと何故かそうなってしまうだけだ。硝石だって安くはないし。わずかだが、微生物を利用した硝薬の生産も始まっている。そう遠くない未来に、尿素からアンモニア、硝酸へというルートも確立するはずだ。さらにその先には現代的な火薬の開発を目指してもいる。 ただし武器用の火薬はともかく、花火だけは数年のうちにできそうだ。

 

 伊勢長島が帰順したあと、石山本願寺の顕如から文が届いた。俺の行いは誠に不届きであり、今のままでは仏敵となって仏罰が当たるだろう。まだ間に合うから、深く仏に帰依して反省するが良い。との事だ。

 俺は、貧乏な奴から銭を巻き上げたり、困っている奴をさらに困らせるのが仏の教えだったとは、不覚にもいまの今まで知らなかった。

 大体、一向宗を名乗って一揆を起こしているが、それってカタリじゃないの?お前のところは浄土真宗だろう。寝言は寝て言え。

 第六天魔王織田信長と署名して使者に持たせた。

聖徳太子が生まれた日だと広めて年末にクリスマスをやろうと目論んでいる俺様に向かって何を言うか。罰当たりめ。


 弾正が言うには、石山が中心になって織田包囲網を構築しているそうだ。だが前世界と違って将軍家もこちらの味方。浅井も朝倉ももういない。松永と伊勢長島はこっち側。三好残党もいないし、完全に織田と敵対できそうな力を持っているのは武田、北条、毛利くらいか。仮に連合しても半包囲しかできまい。電撃戦で各個撃破してやる。

 いつまで待っても包囲網が出来たという話は無く、内政に多忙な日々が続く。そんな中、義輝から使いが来た。領地の殖産について教えさせてやるから顔を出せと言ってる。たわけめ。とはいえ、可愛い生駒の兄で俺にとっては義兄である。無碍にもできない。織田家の殖産のエキスパート、木下改め羽柴秀吉を送ることにした。


 永禄8年。俺は32歳になっていた。この年生駒が男子を産んだ。

 アレをすると子ができる。理屈ではわかっているが、なんとも奇妙だ。危うく全世界の信長のように奇妙丸と名付けそうになったが、今の俺は常識人。本当は変な名前をつけると、帰蝶が怒りそうなのでやめて信重とつけた。ちなみに前世界の信長の次の子なんて茶筅丸である。俺は何を考えていたのだろう?たまたま茶筅を持ってたから付けたとしか思えぬ。そんな子が出来損ないに育ったとしたら、これはもう必然であろう。悪いのは親か子か。

 親父殿の喜び様は尋常ではなかった。初孫である。弟達にもまだ子は無い。帰蝶の妹には子があるので、蝮親父にとっては初孫では無いのだが、とても喜んでくれた。この2人が睨みを効かせてくれているおかげで、好きなことをしていられるのは間違いない。ありがたいことである。


 翌永禄9年。義輝が越後の上杉謙信と計らって加賀一向一揆を潰した。百姓の持ちたる国とは言われていたが、実際は坊主と地侍が支配しており、百姓はそれほど生活が楽になった訳では無いので、封建主義が民主主義を潰したわけではない。

 義輝が織田に似た軍制を整えたうえで、戦い方を真似て戦の初めに幹部を射殺したのが効いたらしい。織田軍の旧式の制式銃をかなりの数持っていたも良かった。蟹と生駒を使って俺からせしめたのだ。

 所用で都にいる時にやってきた義輝に、上杉謙信を引き合わされた。共に上洛してきたらしい。

 上杉謙信、毘沙門天の生まれ変わりを自認する負け知らずの本物の軍神である。俺みたいに、未来知識を使って勝っている訳ではない。関東管領も継ぐ男で、俺のように自分の手で天下をして掌握するのでなく、あくまで義輝を中心に据えた太平の世を考えているらしい。まぁ、本当の気持ちはわからない。だって毘沙門天の生まれ変わりで女犯はできないからって男犯をしているようなお人だもの。ただの神懸かりであるはずもなく、とても一筋縄でゆくような男ではない。扱いは慎重に。ちなみに俺より4歳、義輝より6歳上である。


 引き合わされた謙信は独特のオーラのある人物で、確かに毘沙門天の生まれ変わりだと言えば納得しそうだ。信長殿は第六天魔王の生まれ変わりだそうで、似た者同士ですなと言われた。はっ?

 顕如が言いふらしているらしい。腐れ坊主め神隠しにあわせてやろうか。 

 俺に興味を持ったのと、うちの酒を愛飲しているので会いに来たらしい。なんだ、お客様か。という事で京都の俺の屋敷から市販してない特別な酒を取り寄せた。主上にも献上している品々である。御贈答専用品だ。他にも明の酒やら、イスパニアの酒も飲ませた。美味いと言って喜ばれるのはとても嬉しい。

 帰りにいくつか貰って行っても良いかと言われる。酒などいくらでも持ってゆけば良いが、

つまみも食べずに、塩を舐めるだけで手酌でぐいぐいやっている。

 そう言えばこいつ、高血圧と脳卒中で50歳前に死ぬんだよな。

 「気に入ったなら、酒は好きなだけ越後に届けさせよう。不吉なようだが、これは熱田大神のお告げじゃ、今のような酒の飲み方では主は50まで生きられぬ。主の死後越後は大騒乱となろう。卒中に気をつけろ。酒の飲み方を変えてウコンでも煎じて飲むと良い。それが出来ねば後継者をしっかり決めておくが良い」

 謙信の戦に負けない毘沙門天の生まれ変わりと同じで、俺の熱田大神の使いと言うのも実績がある。周りから見れば俺の口から出た言葉はほぼ出まかせだとはとても思えぬ。更に俺はどんなに領地が増えようと、金が集まろうと自分の為にはほとんど使わない。信之の貧乏性のせいで、自分のための使い方がわからないのではあるが。それもはたからみれば、神の意思に従い民のためにのみ働いているようにも見えるのだ。しかも、敵対する者は皆殺し。結果として行動が常人では無く、この時代の常識で考えれば神懸っている。

 暫く考えていた謙信は盃を置き、深く頭を下げた。

 

 義輝と謙信が帰って、俺も用事が片付き名古屋に帰ろうかと思っている頃、主上から呼び出しを受けた。

 実弟の覚恕が座主となっている比叡山延暦寺の事で心を痛めているという。覚恕は一年前に座主となったが、延暦寺は乱れに乱れ、宗派としては浄土真宗のように妻帯を認めていないのに、妻帯する者や、遊女を連れ込み酒色に耽る者も多く、碌に経文も読まない。

 挙げ句の果てに僧兵が街に出て犯罪を犯す。警邏が追うと、比叡山に入り、不侵入権を盾に逃げてしまう。京の人々も大変迷惑をしているのだが、座主の覚恕が注意しても聴く耳を持たないらしい。俺の力でなんとかならないかという話である。俺は国境外の兵の駐屯地から20人程の兵を呼び、悪さをしている僧兵をこっぴどく打ち据えた。俺は形上は京での警察権を持たないので、喧嘩のフリをして叩きのめしたのだ。

 そして山門の外に、戒律を守らぬ破戒僧は

バチが当たるから心せよと立札を立てた。

するとその夜俺の屋敷に50人程の僧兵が押しかけ乱暴狼藉を働こうとした。屋敷に居た30人程の兵との間で戦いとなり、兵に負傷者が数人でた。もちろん、僧兵は死者を含む重軽傷者を沢山出したのだが、売られた喧嘩は買わねば、尾張商人の名が泣く。

 主上に、いつでも良いから覚恕様を御所に呼び、数日引き留めるようにお願いした。

 重陽の節句に主上が、覚恕様を御所にお呼びした。その日の夕方、変装して密かに京の町に侵入し、隠れていた俺の兵1万が比叡山の周りに集まってきた。蟻も逃さぬように周りを囲み、これも密かに持ち込んでいた臼砲で榴弾を

これでもかという程撃ち込んだ。街に出ていて戻って来た僧兵も捕まえて、山に追い込んだ。

 そのうち火が出て、あれよあれよという間に

ひと山丸焼けになった。少しやりすぎたかなとか一瞬思ったが、綺麗さっぱり片付いたと思う事にしよう。

 何故か主上と覚恕様が揃って寝ついたため、

お褒めの言葉はいただけなかったが、頼まれ事をきちんと果たすと言うのは、気分がよろしい。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る