40. つならの夢の果て

 ある夢を見た。

 いつどこで見た夢なのか。はっきりと思い出せない。


 ただ、夢を見たという記憶だけははっきりと残っている。

 それは、こんな夢である。


******


 私は潮の流れに乗りながら、冷たい海を泳いでいた。

 傷ついた身をくねらせ、あてどのない旅を続けていた。


 やがて私は、とある島に漂着する。

 島民たちに怪しまれないよう、身体を変えて、人間の姿に変身する。


 砂浜に倒れた私のまわりに、島の人間たちが集まったが、遠巻きに私を眺める。よほど警戒心が強いのか。私のことを怖がっているようだ。


 そんな中、ひとりの娘が私に近づいた。

 彼女は手にした布で、私の傷を丁寧にふき、水を与えてくれた。


 優しい娘だ。かつて愛した人に面影が似ている。

 

 無償の優しさをくれる彼女に、私は報いたかった。


 私には人間にはない力がある。命を増やし、作物もろくに育たないこの島に豊穣をもたらすことができる。


 きっと彼らも喜んでくれる。

 そして、この島を、私の永住の地へと変えて――


 そこまで考えた時、ふいにある記憶が私の脳裏に浮かんだ。それは記憶の本流である。現実とも夢ともつかない記憶が私の中に流れ込んでくる。

 

 いまよりも遥か先。私がここに居つくことで、この島になにをもたらすのか。目の前にいる娘にこの先、どんな苦難をもたらし、彼女の子孫代々にどんな宿命を背負わせてしまうことになるのか。


 私に流れ込んだ記憶など知る由もなく、娘は私に微笑みかける。

 彼女の無垢な笑みを見て、私は決意した。


 その場で私は変身を解き、自らの真の姿を人々に示す。


 巨大なウナギとしての、私の姿を。


 人々は驚き、恐れを抱く。

 娘もまた、私の姿を見て、大きく目を見開いた。


 私は彼らのまなざしを受けながら、海へと帰った。


 潮の流れに乗り、私はどんどん島から離れていく。

 

 どこかの未来では、津奈島と呼ばれるはずだった島。

 

 もう2度と、その名で呼ばれることはないだろう。

 

 ここから先、私はどこへたどり着くことになるのか。


 未来はわからない。


 ただ身をひるがえし、泳ぎ続けるだけだ――


 

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