19. 中間報告

 取材を始めて4ヶ月が経とうとしていた頃、『トリハダQ』のチャンネルで特集を組んだ動画が配信された。


【ツナラという言葉を知っていますか?】


 私とミオが取材で撮影した素材を使いながら、仕立ての構成で編集された動画は大きな反響を呼び、チャンネル史上最高の再生回数を記録した。

 津奈島や津奈島災害への言及は伏せているが、それがかえって視聴者の考察欲を煽ったらしく、コメント欄では視聴者の考察合戦が盛り上がった。


「いいね、いいね。ばんばん反響きてるよ、久住ちゃーん」


 安達氏は浮かれていたが、私はあまりの反響の大きさに危機感も抱いていた。まだ取材は半ばである。ミステリーでいえば、要素がつながっているかもわからない謎だけが出題されているだけで、なにも答えは示されていない。

 そんな動画になぜこれほどの反響が来たのか、わからなかった。

 私が疑問を呈すと、安達氏は持論を展開した。


「そりゃあ、ミステリーだったらちゃんとオチはつけないとだけどさ。うちはホラー番組だよ。ホラーっていうのは、オチがないことに意味があるの。投げっぱなしでも許される。むしろそれがいい! 不気味な空気が残る余韻が大事なのよ。わかる?」


 安達氏の主張もわからなくはない。しかし説明のつかない不安がどうしても拭えない。

 だが動画を公開した利点もある。

 ツナラおよび津奈島に関する情報提供がにわかに増え始めたことだ。


 知り合いが津奈島の人間と関わっていた。

 つなら信仰についてこんな噂を聞いた。

 津奈島災害時、こんなものを目撃した。


 DMでもコメント欄でも真偽不明の情報があふれかえり、かえってどこを探ればいいのかがわからなくなる。


 取材方針を決めるのは私なので情報をひとつずつ当たらなければならない。このため、番組アカウントに届いた大量のDMを洗う作業に追われていた。寄せられた情報を見ながら、ある傾向に気づく。おなじような書き込みが散見されたのだ。


 動画を見てから夢を見るようになった。

 奇妙な島の夢、あれはなんだろ?

 暗い海に潜る夢を見るんだけど。


 それらの書き込みを、私はひとまず無視した。いま考えても仕方ない。とにかく情報が欲しい。もっと核心に繋がる情報が。

 そこで一つの投稿が目に入った。


『一緒に働いている同僚が以前、津奈島で働いていると言ってました。津奈シップスという会社にいたらしいんですけど』


 津奈シップス。

 津奈島災害の2年ほど前、津奈島に設立された会社だ。

 恵三の話でもこんな証言があった。災害発生の前、島には外部の人間が移住していた。その中には素性のよくない者もいたと。

 ようやく有力な手がかりを見つけた。

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