第2話
座敷牢の姫様のお世話をするのは、村長の娘という掟がある。男が近寄って間違いが起こったらいけないからだ。
だが、そんな掟ができて三百年が過ぎた現在、村長の息子である俺が、その役目を担っている。何も知らないご先祖がそこだけを聞いたら怒り狂いそうなもんだが、間違いなんて起こるわけがないのだから、安心してほしい。
当代の姫様は男なのだ。
二百年間一度も息子が生まれたことはないらしいが、生まれたのは正真正銘男。ちゃんとモノはある。身体を拭いてやる時に嫌でも目に入る。だが、黒い髪を伸ばしっぱなしにしているから、服を着て声を出さなきゃ女と見間違うこともあるだろう。
まぁ、そいつ、今は女とまぐわっている最中だけど。
「──おの」
名前を呼べば、組み敷かれて荒い息を吐いていた女が反応する。お前じゃないんだけど。
女は二度ほど深呼吸したその後で──呼吸を止めた。
「邪魔したな」
「……本当に」
乱れた黒髪を更に掻き乱し、野郎は俺に身体を向ける。
「最期の瞬間をじっくり楽しみたかったのに」
「あっそ」
それだけ言って、筆と紙の用意をした。
「では、おの姫様。お疲れの所申し訳ありませんが、凶事の予言を一つ、よろしくおねがいします」
「相変わらずの棒読みですね」
その前におにぎりが食べたいですと言われたが、無視。おのは大袈裟な溜め息を溢し、瞼を閉じた。
「一月後の■月■日に、外の若者が森に火を付ける。その火が村にまで来て、六人が焼死、七人が圧死、八人が窒息死」
そこまで言うと、おのは瞼を開いた。
「おにぎり」
予言はこれで終わりらしい。いつも通りといえばいつも通りだ。……女と致さないと凶事が分からないとは、仮にも姫としてどうなのか。それとも、歴代の姫様達の中にはそういう娘もいたりしたのかね、詳しく残されていないだけで。
牢の隙間から拳大の握り飯六個を渡していけば、激しい運動をしたばかりということもあり、あっという間に奴は食い尽くした。口の周りに粒が付いていて汚ならしい。隙間から手拭いも投げ入れ、それで顔を拭けと命じておいた。
「村長の息子ともなると、姫に命令ができるのですね。ご立派な立場にあらせられる」
「黙れ家畜」
用事は済んだ。後は帰るだけ。
「……何か、急いでますか?」
「何も」
返答が早かったと舌打ちしたくなるが、口に出したものは仕方ない。
せめて早足にならないよう気を付けながら、階段へと向かった。
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