牢に捧げる

黒本聖南

第1話

 村の娘が子を身籠った。十五になったばかりの娘に、夫はいない。


 親がどれだけ問い詰めても、身に覚えなどないの一点張り。恥じた親は膨れる前にと、宿った子供を流そうとした。

 だが、どんな手を使おうとも、子は流れることはなく失敗し、数ヵ月後、娘の命と引き換えに子は世に生まれた。

 問題なのは、娘が息を引き取るその間際、


「一週間後に■■が死ぬ。遠くの地で燃やし埋めねばこの村で病が流行る。女ばかりが悉く死ぬだろう。六月後には夜盗が来る。男や子らは殺され、女は慰み者にされて殺され、この地を奪われるだろう」


 不吉な未来を五年分、口にした。

 男に犯されその子を身籠り気でも狂ったか、と周囲の者は笑ったが、ただ一人、出産にも立ち会った友だけは密かに未来を記録する。

 一週間後、確かに■■という若者は死んだ。村人達は気味悪がりながらも通常の方法で死体を弔う。病は、流行った。男は比較的病状が軽かったが、女の方は病状が重く、老いも若いも関係なく、悉く女ばかりが死んでいく。娘の友も死んだ。だが、彼女が書いた記録だけは残された。

 他所から薬師を拐かし、どうにか疫病が治まる頃には、娘の死から六月が経とうとしていた。

 半信半疑ながら男達は武装し、村の周囲を警戒する。──夜盗は来た。少ない人数だった為にあっという間に殺し、死体は森に棄てられる。

 娘の言葉は本当だった。

 この先の凶事を誰か覚えている者はいないかと探した結果、娘の友人の記録が見つかり、以後、この牛未うしみ村は凶事を避けていくことになる。

 それでも、最初の五年は誰しも不安だった。

 五年しか分からないのだ。五年経ったその後、どのようにして凶事と対峙していくべきか、村人達は不安で仕方なかった。

 ──その不安は五年後に晴れる。


「三月後に大雨が降る。作物は流され、食料も腐り、飢えて死ぬ」


 父の分からぬ子供は娘であり、数え五つになるまで一言たりとも言葉を発さなかったが、ある時から急に流暢に話すようになり、死した母のように未来の凶事を口にする。

 いやはやこれで安心だ。子供は村長の家の地下にいつの間にか造られていた座敷牢に閉じ込められ、大切に、大切に、育てられる。

 十年後、子供は身籠った。

 近付くのは女ばかり、男であった村長すらも近寄らなかったのに、何故か身籠った。

 今度は余計なことはせず、出産の時を待ち──娘を生んだその後で、五年分の凶事を口にし、子供は死ぬ。

 村人達は仕組みを理解した。生まれた娘を大切に育て、娘は凶事を口にし、数年後には娘を生んで息絶える。この繰り返し。


 繰り返すこと二百年。


 村人達は慄いた。

 その時の娘が生んだのは、愛らしい──男の子であったから。

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